第15話

「今日、診察室を閉める直前に冒険者狩りに遭ったという人たちが来たんです。Gランク者三人でした」

 カミュの言葉にロベルは眉をひそめる。

「……閉館前か? まだ明るい時間じゃねえか」

「そうなんです。彼らもこんな時間から襲われるなんてと言ってました。犯人の顔は見ていないそうですが」

「背後から襲ったってことか」

 カミュはこくりとうなずいた。それから言葉を続ける。

「一人は頭から出血していました。犯人につけられた直接の傷というよりは、殴られて倒れたときにった感じでしたね。ほかの二人は足と腕の骨折でした。こちらも擦り傷程度です。三人とも襲われて気を失ったとのことでしたが、出血よりも痛みが原因だと思います」

「拳か武器かで殴られた、ということか」

「足や腕には棒状の跡がありました。言われてみればハンナムさんのときと様子が違いますね。ハンナムさんは切り傷が多かった、腹部は殴られていましたが」

「三人が襲われた場所は?」

「東門の近くの路地だそうです」

「遭遇場所はハンナムと一緒か……」

 しかし凶器が違うなら犯人もまた別人かもしれない。

 そういえばヤーコブは剣をたずさえていたなと脳裏をよぎる。しかしカミュは慌てて首を横に振った。仲間同士で殺意だなんて考えたくもない。

 それから先ほどアイシャが話していた内容をロベルにも伝えた。ロベルは小さくうなる。

「冒険者以外でも被害が出ている可能性、か」

「犯人が金銭目的なら冒険者よりも一般市民を狙う方がリスクは低いんじゃないかって」

「確かにな。明日憲兵隊に確認してみよう。犯人が捕まれば、ハンナムに大怪我を負わせた人物もはっきりするかもしれないしな」

 ロベルはハンナムの事件に関してはヤーコブに狙いを定めているようだ。

 すると突然、低い位置から声が聞こえた。

「はんなむ?」

 見れば小さな女の子がカミュとロベルを見上げている。

 歳は六、七歳くらい、宿泊客の連れ子だろうか。カミュがそう思っていると少女は再び口を開いた。

「パパを知ってるの?」

「パパ?」

 カミュとロベルは同時に聞き返す。ロベルは続けざまに言い放った。

「いやいや、ハンナムに子供がいるなんて初耳だぞ」

「違うハンナムさんかも? お嬢ちゃん、パパはどんなお仕事してるの?」

「ぼうけんしゃ!」

 少女は元気よく答えた。それからすぐにその顔がかげる。

「パパがずっと帰ってこないの。ミーシア、やっぱり置いて行かれちゃったんだと思ってたけど、ケガしてるの?」

 ずっと帰ってこない冒険者……いよいよハンナムの子供で間違いなさそうだ。ロベルも、この町にハンナムという名の冒険者は一人しかいないと言う。

 カミュは少女を椅子に座らせるとアイシャに飲み物を頼む。

「ミーシアちゃん、でいいかな。いつもはパパと二人で暮らしてるの?」

「ううん、おばさんも一緒。パパはミーシアをおばさんに預けたら、お家出て行くって言ってたの。それでこの前けんかしちゃって……」

 そういえばハンナムが怪我を負う前、酒場で小さな女の子と喧嘩をしているところを目撃したとアイシャが言っていた。

 この少女はくだんのハンナムの身内で間違いなさそうだ。

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