第11話
診察室の椅子に腰掛けると、カミュは早速報告を始めた。
まずはバッグにしまっていた野草を取り出す。
「これはサボニウムという野草で、地下水道の入口付近に生息していました。これを使用して磨くと汚れが綺麗に落ちることが分かりました。それと脱臭の効果もあるようです」
「ほう」
「ニィナからも話があったんですが、清掃の仕事を請け負う冒険者が少ないと聞きました。実際に見てみると入口付近しか掃除された痕跡がないので、今後は俺が定期的に清掃に入って奥の方まで綺麗にしようと思っています」
「おお。それはありがたいな。地下水道の衛生面については前々から懸念を抱いてはいたんだ」
「それと、事後報告ですがトンネル内にこれを栽植しました」
カミュはそう言うと、次にヒカリゴケをバッグから取り出した。
「これも野草か? 少し光っているな」
「ヒカリゴケと言います。光は弱いですが周囲を照らしてくれるのと、低レベルの魔獣を寄せ付けない効果があります」
「なるほど、それはいいな」
「今後、俺が清掃に入るときに栽植していこうと思っています。ただ、このコケの生息条件が清潔な環境であることなので、今よりもちゃんと定期的に清掃するスケジュールを立てる必要があると思います」
「魔獣が寄りつかなくなるのならば、冒険者でなくとも町人でこなせるはずだ。俺から役所に提案してみよう」
「よろしくお願いします。まずは地下水道を一度確認してもらえればと思います」
カミュの言葉に、ロベルは「わかった」と頷く。
それから少し考えあぐねると、彼はカミュに質問してきた。
「そのサボニウムは、町人が清掃するときも使えるだろうか」
「特に毒などもないようなので大丈夫だと思います。ただ掃除のたびに野草を摘んでいると、限度が過ぎて生息地が絶滅する可能性もあるので、使いやすいように加工を試みようと思っています」
「それはありがたい」
「もし野生でなくても育成が可能ならば、専用の畑を作るのもありですね。少し調べてみます」
「カミュの知識には本当に助かっている」
「たまたま知っていただけですのでお気になさらず」
実はその場で鑑定しましたとは言えない。それに野草の名前や効能が見えるだけで、どう加工すれば効果的なのかはまだ分からない。カミュにとっての本番はここからだ。
それからカミュは思いついたように口を開いた。
「そうだ。ロベルさんにお尋ねしたいんですが」
「なんだ?」
「今までに地下水道で事故か事件がありましたか? ニィナにも尋ねてみたところ、特にないと言っていましたが」
カミュは地下水道で見かけた供花について話した。
しかしロベルも首を横に振る。
「ここのギルドに努めて三十年ほどになるが、そういう話は今まで一度も聞いたことないな。発生した事実があれば俺のところには必ず報告がくることになっているが」
「そうですか」
「気になるなら調べてみようか」
「いえ、大丈夫です。分かったところで何の意味もないですから」
そこで何があったのかを知ったところで、自分も花を
すると目の前のロベルが突然ニッと笑顔を見せた。
「それよりも、ギルドカード更新おめでとうだな」
「あはは。ありがとうございます」
「更新のためだけなら四ヶ月に一度でいいが、今後はもうちょっと依頼を受けてランクを上げた方がいいだろうな。Hのままじゃ箔も付かんだろ」
「ハハ、善処します」
苦笑いをこぼすと、ロベルはカミュの背中をばんばんと叩いた。
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