第7話

 ギルドの受付嬢ニィナは「ええー!」と声をあげた。

「カミュさんってHランクなんですね。診察室でお仕事されてるので、もっと上のランクかと思ってました」

「あはは……」

 ギルド長のロベルと似たような反応をされて、カミュはもう笑うしかない。

 彼は今、ギルドの受付に相談を持ちかけている。低ランク依頼のパーティ募集についてだ。

「地下水道の清掃ですかあ」

 ニィナはしみじみと呟く。

「たぶんカミュさんお一人でも大丈夫だと思いますけどお」

「いや、俺は魔力が少ないんだ。だから地下水道で物理防御特化の魔獣が出てきたりすると対応が厳しいと思ってな」

「そうですか、困りましたねえ」

「困る?」

 ニィナの台詞をカミュは反すうした。すると彼女は状況説明を始める。

「実は今、近隣の町で魔獣が大量発生してまして、そちらに人員を取られてるんですよねえ」

「低ランクも?」

「前線に出るのは高ランク者ですが、低ランクでも出来る雑用は色々ありますからねえ。前線の補佐も必要ですし。しかも緊急依頼なので通常よりも報酬が高いんですう」

「それだとなおさら低ランクはそっちに流れるだろうな」

「そうなんですう」

 のんびりとした口調はさほど困った様子にも思えないが、実際、冒険者の数は少なくなっているのだろう。ハンナムの早期治療にと回復呪文が使える人員をロベルに頼んでいたが、一向に集まる気配がないのも頷けた。

「わかった。じゃあ募集はせずなんとか一人でやってみよう。地下水道で出現が確認されている魔獣の一覧があれば借りたい」

「一覧はないですけど、今書き出しちゃいますねえ」

 ニィナはのんびりとした口調でそう言うと、手元のメモ用紙にさらさらと羽根ペンを走らせ始める。

「でもカミュさんが地下水道をお掃除してくれるなら安心ですう。最近はあまり受注してくれる人がいなくてえ。いつも清潔だと依頼も出さずに済むんですけどねえ」

 地下水道は家庭用排水が流れ込む水路だ。普段から薄暗く不衛生な環境は、低レベルの魔獣が住み着くにはうってつけだ。

(いつも清潔、か……)

 カミュはニィナからメモを受け取ってお礼を述べると、診察室へと戻った。ハンナムの容態を確認し、腹部の回復水を取り替えると机に並べた野草に向き直る。

 パーティが調達できないのなら、カミュにはこれしかない。

 アイシャが無作為に摘み取ってきてくれた野草から、使えそうなものを選別していく。

 野草はすべてが良薬になるわけではない。以前アイシャに教えた虫を寄せ付けなくする草や、魔獣や人間にまで毒などの弱体効果を付与する草もある。

(この辺境の町に来てからは、怪我などを回復させるための野草を見るばっかりだったけど……)

 カミュは並べられた野草にじっと意識を集中させた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る