第8話
カミュには誰にも言っていない秘密があった。
それがこの能力だ。
(この草は『ヘビノウタゲ』……効果は、しびれの効果を付与……)
カミュは野草などに意識を集中させると、見たことのないものでもその素材の名称が分かる。最初は名前だけだったものが、何度もスキルを使っているからだろうか、最近は集中すればその効能まで見えるようになってきた。
野草だけでなく、今では武器などの名称も分かることがある。街路などは『ステニア産の土』などと産地まで分かってしまう。さすがに人間のステータスまでは見えないが、様々なものの名称を鑑定をすることが出来るのだ。
しかしそんなスキル、カミュは聞いたことがない。だからこの能力については誰にも言えないでいた。今は亡き家族たちからも、他言無用だと口止めされている。
受付嬢のニィナからもらったメモと照らし合わせながら、カミュは野草の山から必要なものを選定した。
「ゲルに関しては、しびれ効果で足止めして消毒水をかけたら溶けそうだな。ホラコウモリ……小型のコウモリか、これは物理攻撃で大丈夫そうだ。ラットも物理攻撃が効きそうだな」
あらかじめ準備しておくのはしびれ薬と消毒水だけで良さそうだ。そもそも人間の生活圏内なのだから、出現する魔獣の数もそこまで多くないだろう。受付嬢もソロで大丈夫だと言っていた。
しびれ薬に関しては、ペースト状にしてゲルの好む食べ物に潜ませることにした。そうと決まれば足りない材料の買い出しだ。
カミュは診察室に休診の札を掛けると、町へと繰り出した。
材料の入った袋を小脇に抱えて、カミュはとあるお店へと入る。町にいくつかある喫茶店のうちのひとつだ。
つまり、買い物の間の小休憩だ。
カウンターに座ってコーヒーを注文すると、カミュはようやく一息つく。
(紅茶やコーヒーが発展した文化はあるのに、野草だけ度外視されてるのは不思議だよなあ)
食文化に触れるたび、カミュはしみじみとそう思う。飲み物だけではない、野菜だってそうだ。
同じ土から生えてきているのに、なぜ野草だけ生活の中で活用されないのだろうか。草は道ばたの装飾品くらいにしか考えられていないのだ。
(まあ普通の人は魔法が使えるし、野草の回復効果を必要としないんだろうな。野菜やお茶は美味しいから口にしている、と)
そう考え直しながら、出されたコーヒーを流し込む。
「お客さん、冒険者?」
ふと、カウンター越しにここの店主だろう男が話しかけてきた。
「冒険者狩りが流行ってるんだってね。怖いねえ」
「ああ、俺も昨日聞いたところだよ。ランクが低いから、夜は出歩かないようにしないとな」
「狩られてるのは冒険者だけなのかね。俺は冒険者じゃないけど、気をつけたほうがいいかねえ」
店主がしみじみと言いながらあごひげを触っていると、店の端から女性の声が飛んでくる。
「夜中に飲みに行かなきゃそんな心配いらないでしょ」
「飲みに行くのは必要なことだ。営業だよ営業」
おそらく女性は奥さんなのだろう、店主は営業だと反論する。微笑ましい光景にカミュは苦笑いをこぼした。
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