第5話
カミュによる徹夜の看病の甲斐あって、ハンナムは一命を取り留めた。
まだ意識は戻らないが脇腹と肩の深い傷は綺麗に塞がったようだ。回復水を染みこませた布も何度か取り替え、腹部のあざもだいぶ薄れてきた。意識が戻って経口摂取に切り替えれば治りはもっと早いだろう。
「ハンナムが怪我したって⁈」
ギルドの開業時間になった途端、診察室に男が駆け込んできた。
回復水の布をちょうど取り替えていたカミュは、驚いて目を点にする。
「えっと……?」
どちら様? と首をかしげると、男は慌ててカミュの方に居直った。身につけている鎧と剣が当たってガシャンと音を立てる。
「ああ、人がいたのか。うるさくしてすまない。俺はハンナムと同じパーティを組んでいるヤーコブという。ハンナムの容態は?」
「だいぶ回復したよ。意識はまだないけど、切り傷は綺麗に消えた。右足と腹部がまだ治りきっていないかな」
「そうか……とりあえず生きててよかった」
ヤーコブは安心したようにその場に座り込む。
その彼の後ろから、真っ黒な魔道服を身に纏った女がひょこりと顔を出した。
「まーだ生きてるの? その筋肉だるま」
「イザベラ! そんな言い方はないだろう、仲間なのに」
イザベラと呼ばれた女の言い草に、ヤーコブは慌てて
「いつか刺されると思ってたのよ。脳みそまで筋肉で何でも腕力でどうにかしようとするし、口を開けば声はデカくてうるさいし、毎日毎日酒場で喧嘩ばっかりして。今回もどうせその延長でしょ?」
「いや、ハンナムさんは……」
冒険者狩りが横行していてハンナムもその被害に遭ってしまったと、カミュは二人に説明した。
するとヤーコブは眉をひそめる。
「ハンナムが冒険者狩りに狩られた?」
「むしろハンナムの方が狩ってそうなのにね」
「こら、イザベラ」
くすくすと笑うイザベラを、ヤーコブが再び諫める。それから診察台で横たわるハンナムに視線を落とした。
「俺たちはB級冒険者だ。相手が人間ならば、そうそうやられるなんてことはない。同じBランクか、あるいはその上……」
「でも」
と、イザベラは口を開く。
「AとかBのランクなら下級冒険者を狩らなくても、お金なんていくらでも持ってるでしょ。ギルドで依頼をひとつ受けるだけで、彼らのお財布の中身の十倍は稼げると思うわよ」
「そうだよな。わざわざ犯罪に手を染めるなんてリスク、犯す必要はないか」
二人は怪我を負わせた相手についてあれこれと推察したあと、再びハンナムの顔を見てこくりとうなずいた。
「じゃあ俺たちはハンナムの治療費を稼ぎに行くとするか」
「そうね、こんなのでも一応仲間だしね」
「イザベラ、きみはまた……」
ヤーコブはイザベラの言い草に半ば呆れながら診察室を出て行く。
それを横目で見ていたイザベラは、くるりとカミュに向き直った。それから両手でカミュの手をぎゅっと握ってくる。
「カミュさん、看病してくれてありがとう。ハンナムのこと、よろしくね」
直前までの物言いは一体なんだったのか。その瞳には不安の色が見え隠れしている。
ああ、大事な仲間なんだな、とカミュはうなずいた。
「わかった。最善を尽くそう」
「ありがとう。また夕方にでも顔を出すわね」
そう言いながら、イザベラもひらひらと手を振って部屋を出て行った。
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