第2話

「うーん。もう少しで見えてきそうなんだけどなあ」

 宿屋の一室にて。

 机に向かって座っているカミュは、綺麗に並べた色々な草と長い間にらめっこを続けている。今朝アイシャと採ってきたばかりの草だ。

 ギルドが開いている時間帯は診療室を借りて薬を作っているが、閉館後は宿屋に帰ってこうやって薬の改良を試みている。今はゲットウ草の回復効果を上げようと製造方法を模索しているところだ。

 カミュがいつも使っている回復薬ひとつにつき、ゲットウ草の葉を一枚使う。その効果を上げようと二枚使ったところで、回復薬がふたつできるだけだ。ひとつに濃縮できないか色々と試しているが、濾過ろかさせても沸騰させてもまったく意味がなかった。

「でも俺にはこれしかないから……もっといいものを作らないと」

 よし、と気を取り直してカミュは再び草たちと向き合う。

 そのとき、部屋の扉がコンコンと叩かれた。

「カミュ、起きてる?」

「アイシャ?」

 その声の主にカミュは首をかしげた。そろそろ日付が変わりそうな時刻だ。

 そっと扉を開くと、アイシャが申し訳なさそうな顔で立っていた。

「アイシャどうしたんだ、こんな夜中に」

「ごめん、もう寝るところだったよね? 今ギルドのロベルさんが来ててね、カミュを呼んで欲しいって……」

「ロベルさん?」

 お世話になっている冒険者ギルドのマスターの名前が出てきて、カミュは少しだけ目を見開いた。

(保管している草でうっかり診察室を汚してしまったんだろうか。いや、悪臭が出てきたとか……まさか置いていた回復水が爆発?)

 思い当たることがいくつかありすぎて少し身構えてしまった。しかし、わざわざ宿屋に来ているのを無視するわけにもいかない。カミュは急いで一階に足を向ける。

 階段を降りながら階下をのぞき込むと屈強な男と目が合った。ギルドマスターのロベルだ。

「夜中にすまないな、カミュ」

「何かあったんですか?」

「すぐに見て欲しい患者がいるんだ。ギルドの診察室に運んでいるが、今から頼めないだろうか」

「問題ないです。行きましょう」

 作り置きしていた薬に何かあったわけではなかったのでひとまず安心だが、ロベルの深刻そうな表情が気になる。カミュはロベルと共に宿屋を出ると、町の中央にあるギルドへと急いだ。

 そして診察室に入った途端、カミュは顔色を変えた。

「ど、どうしたんですかこれ!」

 目の前の診察台に血だらけの男が横たわっている。

 気を失っているだけで息はまだあるようだが、見るからに瀕死の状態だ。

「……治せるか?」

「できるところまでやってみます。まずは全身の血を洗い流して綺麗にしましょう。外傷はニットウ草を塗って回復水は……これは飲める状態だろうか」

「内臓をやられているということか?」

「よく診てみないと分かりません。経口が難しければ皮膚に塗って体内に浸透させることも可能ですが、飲むよりも時間はかかります。それまで体力がつか……本人次第といったところですね」

「そうか、とにかくよろしく頼む」

「内臓の損傷は回復呪文を使える人がいると早いんですが」

「分かった。登録冒険者を当たってみよう」

 ロベルはひとつうなずくと足早に診察室を出て行く。

 カミュは棚から消毒水の瓶を取ると、診察台の患者に向き直った。

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