第4話
カミュの言葉にロベルは肩をすくめた。
「なに、単純な話さ。今までの冒険者たちは最初に殴られた時点で気を失ったが、今回はこいつがほかの奴らよりいくらか屈強だっただけの話だろう」
「抵抗したから刺された、か……」
「こいつはハンナム、ランクはB。見た目通りそこそこ強い奴だが、犯人はB級にも負けない自信があったんだろうな。実際にこうやって怪我を負わせているわけだし」
「今まで狙われた冒険者たちはどれくらいのランクだったんですか?」
「DからGといったところだ」
ギルドに所属する冒険者はAからHまででランク付けをされており、Aに近づくほど強い。今目の前に横たわっているハンナムはBだというから、上から二つ目のランクだ。
ロベルはため息をつきながら言葉を続ける。
「なんにせよ、冒険者狩りなんて勘弁して欲しいぜ。町に冒険者が寄りつかなくなったら、ここの周りの魔獣は誰が狩るっていうんだよ」
「こんな平和な町の中で事件が起こるなんてな……」
「ハハ、カミュが思っているよりここは平和でもないぜ。こんな辺境の町、何か事情を持った奴が集まりやすいのが常ってもんだ。犯罪者が紛れ込んでいたことだって何度もある。一癖も二癖もあるやつが多いんだ、この町は。カミュ、お前だって怪しげな水を持ち込んできたじゃねえか」
「まあ、そうですけど……」
怪しげな水の持ち込みについては成り行きなのだが、その辺の話を持ち出されるとカミュも苦笑いをするしかない。ロベルの言葉どおり、カミュにも人に言えない『事情』があるのだ。
「そういえばカミュ、一応お前も冒険者だったな」
ロベルがふと思い出したようにぽんと手を叩いた。
「あ、はは、そうですね一応」
「そうだよな。もともとはギルドに冒険者登録に来てたんだもんな。ランクはFくらいだったか?」
「……Hですよ。こっちが本業になってから狩りに出てないんで」
カミュはそう言いながら薬水の入った小瓶をひらひらと振ってみせる。
ロベルはガハハと笑いながら、カミュの背中をバンバン叩いた。
「そうか、Hか! まあ狩られないように気をつけろよ。お前がやられたら、治せるやつはいないからな」
「夜は外に出ないようにします」
「ああ、それがいい。今日は宿まで俺が送っていこう」
まるで女性のような扱いに、カミュは思わず自分の身を確認してしまいそうになる。
そして、そんなロベルの申し出にカミュは首を横に振った。
「今日はここに泊まります。彼の傷の治り具合も見たいし、腹部の回復水の取り替えも必要ですから」
「そうか、すまないな。報酬は上乗せして振り込んでおこう」
「ありがとうございます」
「それと」
診察室の扉を半分くぐったところでロベルは振り返った。
「時間作って今月中にギルドの依頼をひとつでも受けておけ」
「え?」
「四ヶ月以内に仕事をしてなきゃギルドカード剥奪、再登録にはまた金がいる。なんとも世知辛い世の中さ」
ロベルはそう言うと、ひらひらと手を振りながら去って行った。
「カード剥奪か……今のうちに掲示板を見ておこうかな。何かいい依頼があるといいが……」
そう呟いたカミュは、ロベルに続けて診察室を出るのだった。
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