第十二話 某国小町襲撃譚

「レティシア、君の方は怪我とかは大丈夫なのか?」

「はい、特には」

「そうか……無事でよかった」

「……ですが、一つ挙げるなら服が瓦礫に引っかかって少し裂けてしまいました」


 そう言ってレティシアはメイド服の左胸部を部分を抑える。今まで気づかなかったが、確かに指の間から見える部分が破れてしまっていた。いくら普段口と態度が悪くても、彼女もまた一人の女性だ。そのような状態でいるのは流石にかわいそうに感じられる。

 どうするか少しの間考えた末、レイジは着ていた上着を脱いで彼女に手渡した。


「とりあえずは目立たないように上からこれでも着ておけ」

「いえしかし、これはレイジ様の上着じゃ……」

「いいから。女性にそんな格好させるなんてできない」

「……分かりました」

「一応、後ろ向いとくから終わったら言ってくれ」


 上着を手渡されたレティシアは何故か少し俯いていた。

 その一方で後ろを向いた状態のレイジは、今現在起きていることを一旦整理する。同時に発生したいくつもの爆発に、数多の魔物の襲来。まだ分からない部分ばかりではあるものの、やはりあれは襲撃だと捉えるのが正しいだろう。



「レイジ様はボクのことを女の子扱いしてくれるんですね……」 


 背後のレティシアがボソボソと何かを呟いていたが、分析に徹していたレイジは上手く聞き取ることが出来なかった。


「ん……?何か言ったか?」

「いえ、独り言です。それともうこっちを見ていていただいても大丈夫です」


 レイジの上着を着たレティシアはいつもと変わらず無表情だった。少しサイズがあっていないようだが、ひとまずはこれで大丈夫だろう。


(まぁ大方、さっきの独り言とやらはいつものように文句か何かだったんだろうな……)


 レイジは勝手にそんな解釈をして一人でにコクコクと頷いた。


「……そうか。とりあえずここを出よう、レティシア」

「承知しました」


 歩き始めたレイジは、今更ながら違和感に気づき首を傾げる。


(そういえば、レティシアって普通のメイドのはず……だよな……?なんなんだ、あの運動神経……)



***



 元いた場所に戻ろうと階段に差し掛かった所で、レイジ達は階段を降っていく大勢の人々と、その人達を誘導するセリファを見つけた。

 彼らに気がついたセリファは安心したような


「レイジ、それにレティシアも!どこ行ってたの?心配したでしょ!」

「ごめんセリファ姉さん、ちょっと色々あって——」

「申し訳ございませんセリファ様。私がレイジ様に誕生日プレゼントをお渡ししていたものでして……」


 レイジがバルコニーから落下した話をしようとした所、何故かそこにレティシアが割って入った。


(え……)


 状況が上手く飲み込めずにキョトンとしているとセリファが軽くため息を吐いた。


「……まぁいいわ。とりあえずあなた達も地下に避難しなさい」

「分かった。でもセリファ姉さん、今一体何が起こってるんだ……?」

「襲撃と捉えるのが正しいのでしょうね……ママとパパ達を中心に騎士団が事態の収集に乗り出してはいるけど……」


 軽く話を聞いた所、どうやらこんな状況らしい。

・対処に動こうにも、人員が足りていない。それこそ、結婚(フェリシアの妊娠)を機に引退したメリルが手伝わなければならない程。

・一応、周辺地域に幾つか分隊を配置しているはずではあるが、それでも少々心許ない。

・今から救援を頼もうにも、ここローズウィルド公爵領は騎士団本部のある王都から多少距離があるため時間がかかる。

・ひとまず客人は地下に避難してもらっている。


「なるほどね……父さんのが当たった訳か……」


 ひと通りの話を聞いたレイジは深くため息を吐き、それに同意する様にセリファは頷く。


「ええ、そうなるわね……」


 王族が招かれるような大々的な催しだというのにどうしてもっとしっかりとした備えができていなかったのか、不思議に思うかもしれない。だが、決して見通しが甘かった訳ではないのだ。

 というのも、騎士団長が自身の領地内に騎士団の人員を派遣させすぎた場合、対立派閥から権力の私的利用や反逆の企てと見做されかねないのである。それに加え、事なかれ主義を抱く者が多い貴族社会の風潮もあって、そもそも議会の承認も降りない。


 それは今回も同じで、王族の護衛のという正当な理由にできそうな事情があったとしてもあまり人員を割くことが出来なかったらしい。前々からレナードがその事に頭を悩まされていたことはレイジも知っていた。つまりこの現状は、言うなれば悪い可能性なのである。


「あ……それから、レイジにこれをって」


 セリファから鞘に収められた剣を手渡されるレイジ。今まで練習用に使ってきたものとは違う、本物の重みがずしりと手にかかる。

 セリファやレナード、ハック使用している物と同じように薔薇と獅子を模ったローズウィルド家の家紋が輝く鞘。そして、鞘越しにでも伝わるこの独特の感触からして恐らくミスリル製だろう。


「これは……?」

「パパからの伝言、「後から渡そうと思っていたんだが、誕生日プレゼントだ。使う事にはならないと思うが、備えあれば憂いなしってやつだな」って」


「……」


 どう言葉を返せばいいのかわからないまま黙りこくるレイジの肩にセリファは手を置き、諭すような優しい視線を向ける。


「レイジ、あなたには剣を握る資格がある。でもそれはあくまでも権利であって義務では無いわ。二刀流ダブルソードが何よ、あなたはあなたのやりたい事をしなさい。技能スキルは力であって呪いではないわ」

「ありがとう、セリファ姉さん……」


 その言葉にニコリと微笑むセリファ。そんな彼女に背後の階段から降りてきたメイドが声をかける。


「セリファ様、会場にはもう一人も残っていませんでした」

「分かりました。ハックにもそう伝えてください」


 振り返ってそう伝えたセリファは再びレイジの方へと振り返る。


「まぁ、ゆっくり考えることね。とりあえず今は避難が優先よ、あなたも早く行きなさい。私は一度見回りをしてくるからまた後でね」

「うん」



***

更新遅くてすみません…

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