第六話 異世界は固く結んだ決意とともに。

※後半説明回です。

——


「おい……まだ確認する事あるんじゃ無かったのか?」


 いい加減この物騒な雰囲気から脱却しようと、少年は話の矛先を誘導する。

 顔を上げたルアンメシアはもう先程のような怪しげな表情は浮かべていなかった。その様子を見た少年はひとまず胸を撫で下ろす。


「そうだったそうだった!……全く、あなたって人は話を脱線させすぎね、本当にポンコツなんだから。私がいなかったらどうなっていたことか……」

「……そうか」


 ポンコツにポンコツだと言われるのは到底納得のいくものではないが、少年はひとまず突っ込むのは辞めておくことにした。また話がとっ散らかりでもしたら、さらにあらぬ方向へ転がって行きかねない。そんなのはもう懲り懲りだ。


「じゃあ……心残りの確認、しましょうか」

「別に無いな……」


 少年にとっての十七年間はただ何も無い人生だった。何一つ成し遂げられず、何一つ残せなかった自分の人生は思い出せば思い出すほど惨めに思えてくる。

 だが、心残りはない。自分に期待していなかった少年は、そもそも心残りになり得るものが自分にはないと考えるからだ。


「い・い・い・か・ら、もう少しじっくり考えてみなさい!これをしっかりやっといたほうが次の人生をどういう風に生きていくか、筋道が立てやすくなるらしいから」


 ルアンメシアが少し怒ったような表情をする。

 正直、ショッピング番組のような「あくまで個人の感想です」という表示が似合いそうな話ではあるが、一応少年は素直に従ってみることにした。


(心残り……か)


 少年は今一度自分が歩んだ十七年間を思い返してみる。

 ルアンメシアは肯定してくれたが、やはり自分にとっては価値が無くて、取り柄や掴みどころも無い様な人生だったようにしか思えない。


 だが、それでも心残りとして挙げるとするなら……まだ剣道をやりたかった。

 今となっては最後となってしまった、あまりいい成績を残せなかった大会。当時、もし仮に次の年が無いと知っていたらならもっといい成績を残す事ができたのだろうか?


 それともう少し、人と関わっておけば良かったのかもしれない。

 考えてみたら、トラウマを理由にただ人との関わりから逃げていただけだ。アリサがくれた様々な人と関わる機会をもっと有効的に使うべきだった。

 

 ちゃんと親孝行もしておくべきだっただろう。

 経済面など多くの面でお世話になったのに、結局何も返す事ができなかった。悪く言えば放任主義だったのかもしれないが、やりたい事を応援して見守ってくれるいい両親だったと今になって感じる。


 目を背けていた過去とも、しっかり向き合っておくべきだったのかもしれない。

 蓋をして無いものとして扱い続けている癖に、ことあるごとにそれを色んな物事から逃げる理由にし続ける。それが間違っている事と分かっていても、変わる事が出来なかった。


 

 そこまで考えた所で、少年は自分の目から何かがこぼれ落ちるような感覚を覚えた。気づけば目頭も熱い。


(あ……れ……?)


 指で目に触れて、少年はようやく自分が泣いていることに気がつく。

 痛みを感じても、悲しいものを見ても、傷ついても涙を流せなくなっていた少年にとってそれは意外なものだった。ただ心残りを考えて過去に向き合っただけだと言うのに、何故か涙は止まらない。


「泣いてもいいんだよ?……と言うより、泣きなさい。今はただ、泣きたい限り泣き続けばいいの。それだけでもいい」


 呆気にとられたまま顔を上げる少年。涙でぼやける視界に映ったルアンメシアはとても優しい表情を浮かべていた。


「あなたが悔しいと思ってくれたのは大切な事よ。でもね……今更どう足掻いても前世は変わらない、それはあなたも分かるでしょう?だったら、掴んだ機会をモノにできるように来世はしっかり後悔のないように生きて……分かった?」


 この女神が、超有能なのか超ポンコツなのか少年にはもう分からない。

 ただ、自分にも心残りがありまだ死にたくなかったと少年自身が気付けた事は確かだった。


 それと同時に、少年は一つの決心を固める。


 今度こそ、後悔のないよう人生を生き抜こうと。


 少年の瞳に色が戻った事を喜ぶかのように、ルアンメシアは微笑む。


「もう大丈夫そうね。……じゃあ、もうそろそろ来世の事についてお話ししましょうか」

「ああ、頼む」



——



 ルアンメシアから聞かされた事をざっくりまとめると、


一、転生先の世界はよくあるかんじの所謂、剣と魔法の世界というやつである。

二、向こうの世界にはドラゴンやらエルフやらが存在し、科学文明の変わりに魔術文明が栄えている。また、全ての魔術の根幹である魔素には火、水、光、闇、風、土、雷の七種がある。

三、元々、全ての魂には才能を発揮させる職業ジョブとそれを補佐する役割を持つ技能スキル、そして適性のある魔素の属性を示す魔素因子カラーの三つが刻まれており、この三つはまとめて基礎三結と呼ばれている。

四、少年がいた世界よりも世界全体における魔素総量が多い為、この基礎三結が顕著に現れる。そのおかげもあって魔術の研究が進み、科学ではなく魔術が発展して行った。

五、職業ジョブ技能スキルはSSからCまでランクが存在し、それぞれ三百種以上と四百種以上という膨大な種類がある。一方、魔素因子カラーは魔素と同じ種類(七種)しかない。普通は一つの魂につき、それぞれ一つか二つ程が刻まれている。


 という事らしい。


 そこまで説明を聞いた少年は一つの考えに至る。


職業ジョブ技能スキル魔素因子カラーってのは全ての魂に刻まれているんだよな?って事は……」

「そう。私とあなたの魂においても、この基礎三結は例外じゃない。あなたは職業ジョブは、Sランクの剣聖ソードマスター技能スキルは、SSランクの二刀流ダブルソードと、Bランクの血液再構成ブラッドリメイク魔素因子カラーは水と闇よ」


 剣聖ソードマスター二刀流ダブルソードという言葉を耳にした瞬間、少年の心臓は大きく鼓動を打つ。


(剣聖ソードマスター二刀流ダブルソード……どちらも剣に関するもの、か……)


 正直、「闇」という魔素因子カラーに少年はあまりいい気分はしなかったが、剣聖ソードマスター二刀流ダブルソードの感慨深さの方が大きく、少年は大して気に止めなかった。


「そして今のあなたの魂にはランク測定不可の特別な技能スキル無限成長者終わりなき者も刻まれているわ」

「……なんだそれ」

「女神っていうのは人族を超越した種族、神族に当てはまるから私としての存在が人間の器には収まりきらない。だから、余った部分を技能スキル化してあなたに渡しておいたわ。別名は女神の加護穢れを知らぬ愛よ」

「いつの間に……」

「ん?もちろんさっき誓いのキスをした時だけど?」


 唐突にそんな事を言われた少年には女神の加護穢れを知らぬ愛より、女神の加護メンヘラの愛の方が正しく思える。


「因みに私は、職業ジョブがAランクの魔術士マジックキャスター技能スキルがAランクの全魔素因子特化オールカラーラウンダーとSSランクの至高領域思考回路ゼウスシステム。そして魔素因子カラーは水と風よ」


 メンヘラモードと通常モードを平然と使い分けているルアンメシアに、少年は恐怖を感じていた。

 

***

次回でおそらく第零章完結です!

ルビふりがえげつなくて投稿が遅れてしまいました。申し訳ございません。

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