第6話

「う~ん」

 伊織は帰り道、駅に向かう道の途中で考えていた。

「伊織くん、どうしたの?今日は何か変よ?」

「あ、ごめんごめん。さやかに心配かけちゃったね」

 さやかは隣で伊織のことをじっと見つめていた。

 そんなさやかに謝って、伊織は微笑んだ。

「あの男の子のこと?」

「うん。そうなんだ」

「この前、お買い物した程度の顔見知りなんでしょ?」

「まぁね。でも何だか気になってしょうがなくてさ」

 樹の方は伊織のことを全く知らなかったようだが、伊織はずっと前から樹のことを大学の中で見かけて知っていたのだ。

 誰かと話していても笑わない。

 少しは表情は変わるのだが、笑顔になることがない。

 そんな樹のことを、カフェや学内で見かけるたびに気になってしまっていた。

「僕っておせっかいで、関係ないことにも首を突っ込むタイプだから」

「まぁ、カッコいい男の子だわね」

 さやかが急に言った言葉に、伊織はぱっと彼女の方を見た。

「そう思う?」

「うん」

「僕もそう思う。いい目をしてると思ってる」

 そんなふうに言う伊織に、今度はさやかが少しだけ不機嫌な表情を見せた。

「ヤキモチ妬いてくれないんだ」

「え?」

「私があの男の子のことを『カッコいい』って言ったのに、伊織くんてばひどいわ」

 そう言って、さやかはぷいっとそっぽを向いた。

 伊織はハッとした。

 言われてみれば、その通りだ。

 自分のことにばかり集中しすぎてしまっていた。

「ごめんね。さやかのこと、百パーセント信頼してるからあんなこと言っちゃった。信じてくれる?」

「私が男の子相手にヤキモチ妬かなきゃいけなくなっちゃうよ」

 伏せ目がちになり、さやかが口を尖らせた。

 その表情がとてつもなく心に刺さったのか、伊織は繋いでいた手に力を込めた。

「僕はさやかひとすじだって分かるだろ?」

「うん。私も伊織くんひとすじだからね」

 歩きながら、二人は身を寄せ合った。

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