第4話

「ここが、伊織さんのマンション」

 樹はうやうやしく靴を脱ぎ、部屋に上がった。

 タオルを渡され、髪と濡れた身体を拭く。

 思っていたような学生の住むワンルームではなく、まさかの高層タワーマンション。

 部屋数もきっと多いであろうと思われる。

 自分が一人暮らしをしているアパートの狭い部屋とは大違いである。

 ルームメイトと一緒だとは言え、伊織はどうしてこんなところに住んでいるのだろう。

「親がさ、危ないからここに住めって言うから」

「はぁ」

 大学生になったら家を出たいと言ったところ、親の猛反対にあったらしい。

 大げんかの末に、田所と一緒であることを条件にこのマンションで暮らすことを許されたらしいのだ。

「両親、というか父親がね、頑固なんだよね。あー。でも父親よりも、お爺さまかな」

「『お爺さま』、ですか」

 言葉の端々から、伊織はどこかの大きな家のお坊ちゃまなのかもしれないと樹は感じていた。

 田所は本当にただのルームメイトなのだろうか。

 本当は監視役みたいなものなのかもしれない。

 樹は、伊織のことはまだまだ何も知らないんだなと感じていた。

 すると、どこからともなく軽快な音が鳴り響いた。

 喋っている間にお湯が沸いたらしい。

 伊織は、樹に先に風呂に入るよう勧めてくれた。

 バスタオルと着替えのTシャツを出しておくからどうぞ、と言ってくれたので、樹は先に入ることになった。

 風呂の中は大理石作りで、おそらく泡が出てくるであろう機械が付いていたり、シャワーヘッドも高級品だということも分かる。

 伊織は一体何者なんだろう。

 キレイな顔をしている伊織のことだ、もしかして親は有名な芸能人か何かなのかもしれない。

「お爺さま」とは、もしかしてハリウッド映画スターだったりするのだろうか。

 伊織はどことなく日本人離れした顔立ちでもある。

「まさかね。あり得ないよな、はは」

 自分の想像が根拠なく突拍子もないものであるため、樹は一連の自分の考えを鼻で笑った。

 だが本当に、そんな伊織がどうして自分に声を掛け、一緒にバイトしたりしているのだろう。

 樹は風呂に浸かりながら一人で考えていた。

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