第2話
ピッ、ピッ、ピッ。
バーコードリーダーで読み取り、レジを打つ。
単純作業ではあるが、見た目より大変なコンビニの仕事。
棚に商品の補充をしていたら、目を離した隙に客が列をなす。
慌ててレジへ飛んでいき、樹は客の会計をしていた。
次から次へとこなしていかなければ終わらない。
機械的な流れ作業のように樹はレジを打っていた。
「百三十円です」
ペットボトルを買った客に金額を伝える。
これでとりあえず列の最後の客の筈だ。
そう思っていると、今度は客の方から樹に話しかけた。
「もったいないな」
「は?」
思わず樹は反応した。
何がもったいないのだろう。
ペットボトルの代金だろうか。
スーパーで同じ商品を買えばもっと安くで手に入るという意味だろうか。
一瞬の間に考えを巡らせたが、よく分からない。
もしそうだとすれば、コンビニに来なければいいのだ。
樹は顔を上げて、その客の顔を見た。
焦げ茶色のさらさらした髪。
優しげな瞳と、口元に浮かぶ笑み。
その一瞬だけなのに、つい目が離せなくなってしまった。
キレイな顔をした青年が立っている。
しかも、何にも例えることの出来ないような透明感のある顔だ。
まるで、物語に出てくる王子様がこの世にいるとすれば、目の前の青年がそうなのかもしれないと思えるほどだ。
「もっとにこやかに笑えばいいのに」
そう言う本人は、甘い微笑みを浮かべている。
男である樹ですら惑わされそうになるほどだ。
「……お茶、買うんじゃないんですか?」
「これは失敬。買います」
二つ折りの黒い財布から取り出された小銭。
百五十円を受け取り、お釣りを渡す。
一瞬だけだったが手が触れ合い、樹はわけも分からずドギマギしてしまった。
その客が出ていったあとも、樹はしばらく忘れることが出来なかった。
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