第11話
彼女と二十歳のお祝いをしたかった。
けれど、今こうやって伊織と一緒にここにいる。
自分が思っていたほど、居心地は悪くない。
「伊織さんが今日ここに連れてきてくれて、オレ、楽しいです」
ははっと照れ笑いしている樹。
樹が向けてきた笑顔を見た伊織は、胸の奥がくすぐったくてたまらなくなってしまった。
「えっ!僕に笑ってくれたの?僕だけの笑顔?」
「……変な言い方しないでくれませんか」
「酔ってる?」
「オレはまだ注文もしてません」
伊織は慌てて手を上げ、長谷川に声を掛けた。
「あの!樹クンの注文を聞いてあげてください!」
「あはは、はい。いかがいたしましょうか」
長谷川も楽しそうにしている。
「正直、何注文したらいいのか分かんなくて」
困ったような表情の樹に、長谷川は答えた。
「じゃあ、スッキリ系の晴れやかな気持ちになれるカクテルでいきましょうか」
言うなり、長谷川はシェイカーを用意して材料を入れ、シャカシャカと振り回し始めた。
樹はその姿に、テレビで観たことある!と言って興奮していた。
ひと時も目を逸らすことなく、興味津々で見つめる樹。
最近、こんなに目をキラキラさせたことはあっただろうか。
子供の頃、大好きだった新幹線を初めて生で見たときの感動に似ていた。
「はい、どうぞ。エバ・グリーンです」
「うわぁ~!」
薄い黄緑色の液体が、眩しく輝いている。
グラスの縁にミントの葉やパイナップルの実が添えられており、見た目にも華やかだ。
「感激してないで、味わってみたら?」
伊織がどうぞと勧めてきた。
樹は覚悟を決め、ゴクリと喉を鳴らした。
一口目を味わってみる。
口の中にスッとしたクールな温度が広がるのが分かる。
全体的に甘めだが、それをミントの味がきゅっと引き締める印象だ。
「美味しい!すげぇ」
「ご満足いただけたようで何よりです」
長谷川もにこにこしている。
「いつまでも、お二人の友情が色褪せることのないように」
樹と伊織は、黙って長谷川の顔を見た。
「友情は――」
樹が口を開きかけたので、伊織はまた「友情などない」などと言って否定される覚悟をした。
しかし。
「これから育みます」
「そうですか」
優しい笑顔で長谷川が微笑んでいる。
「樹クン、育んでくれるの?僕と?」
「悪くはないかなって思ったみたいです。もう一人のオレが」
そう言って樹は照れくさそうに、人差し指で鼻の下を擦った。
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