第7話
「あの、好きです!ずっと見てました!カッコいいって思って憧れてました!」
大学の校舎の裏。
初夏の風は爽やかで、緑の木々が陽気に揺れている。
今朝、大学の敷地内に入った途端に呼び出されて行ってみると、このようなことになっていた。
「……ごめんなさい。彼女いますし、あなたと付き合う気はないです」
困った顔をしている女の子を横目に「失礼します」と言って通り過ぎる樹。
告白されたのは一度や二度ではない。
どうしてこんな無愛想な男がいいのだろう。
樹は自分でも不思議に思っていた。
同級生や下級生からの告白は全くもって興味が無い。
年上が好みなのだが、それでも心の奥の何かが反応しなければ、誰でも良いというわけでもない。
ローラの場合、自分の理想としている「何か」を持っている女性だったから。
上手く言い表せないが。
そして、どことなく初恋の女性に似ている気がしたからだ。
『もっとにこやかに笑えばいいのに』
伊織に言われた言葉が蘇ってくる。
(ほんと、そうだよな。つまんねー男だ)
そんなことを考えながら、トイレの鏡に顔を映し、ニッと笑ってみる。
すると、後ろから急に話しかけてくる者がいた。
「あれ?笑えるんじゃないか」
ドキッとして振り返ると、伊織が立っている。
嬉しそうににっこり笑っている。
ぴくぴくと引きつった笑いを浮かべ、樹はくるっと背を向けた。
この男は一体何なのだろう。
樹に付いて回っているのだろうか。
「ほら、もうちょっとにっこり笑ってみて?」
じゃれついてくる子猫のように伊織が付きまとってくる。
さすがに疲れてきた。
樹は相手にしないようにさっさと歩いた。
「おめでとう。今日、誕生日なんでしょ?」
伊織の言葉に、樹はピタッと足を止めた。
この前無くした時に、学生証に書いてあったのを見たのだろう。
「別に、めでたくもないです」
「どうして?樹クンがこの世に生まれた日だよ?」
無邪気に伊織が言えば言うほど、樹はどよんとしたオーラを向けてくる。
相変わらず名前で呼んでくるのが馴れ馴れしいと感じる。
「どうでもいいんです。ほっといてください」
「今日は彼女とお祝いしたりするの?」
「……彼女はバイトです。オレだけ休みで、一人寂しくハタチを祝います」
足を止めた樹に、ふ~んと言いながら伊織も立ち止まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます