第4話
「無い!なんで!?」
「無ければ無理ねぇ~」
学内の図書館に着いたはいいが、学生証が見つからない。
司書のお姉さんも困り顔だ。
今朝は間違いなく持っていたのに。
あの忌まわしいカフェに行く前に出席した授業の時にも間違いなくあった。
なのに、どこに行ってしまったのだろう。
学生証が無いと図書館にも入れないし、本の貸し出しもしてもらえない。
それよりも何よりも、授業に出席してもカウントされない。
教室の入口に設置された機械にカードを通すことで管理されているからだ。
樹は青ざめた。
次の授業まであと十五分しかない。
半泣き状態になってカバンをひっくり返したが見つからない。
すると、後ろから誰かが呼ぶ声がした。
「樹ク~ン!」
名前を呼ばれた樹はハッとして声のする方を見た。
そして、その瞬間、ゲッと顔を曇らせた。
伊織が走ってくるではないか。
どうして失礼なヤツが自分の名前を呼びながらこちらへ向かってくるのだろうか。
「やっと見つけた!」
はぁはぁと息を切らして微笑む伊織に、樹は不審な視線を送った。
彼の手の上には学生証がちょこんと乗っている。
先ほどまで気が狂いそうになるほど探していたものだ。
「えっ!?これどこで!?」
「さっきのカフェに落ちてましたよ。困ってるだろうと思って追いかけてきました」
にこやかな伊織に対し、樹はどんより顔である。
見つかったのは良かったのだが、よりによってどうして伊織が見つけるのだ。
「あ、ありがとうございます……」
低い声で、とりあえずお礼を言っておこうという姿勢が丸見えだ。
「キミ、外国語学部の青島樹クンていうんですね。よろしくお願いします」
「え?あ!?うっわ!」
こんな失礼なヤツに名前や所属の学部など言いたくなかったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
樹は自分で自分のことを呪うかのように頭を抱えた。
「アレ?ドウシタノ、イツキ?」
パッと顔を上げると、今度は金髪ロングヘアーの女性が走り寄ってきた。
「ローラ」
胸に本を二冊ほど抱え、その女性はにこにこと樹に歩み寄った。
「うん、この人がオレの学生証を見つけて持ってきてくれたんだ」
「ワ~オ!カンシャ!カンシャ!」
ローラと呼ばれたその女性は、伊織に向き直り、ぺこりと頭を下げてありがとうと言った。
澄んだ青い目が印象的だ。
樹とローラは何やら英語で会話をしている。
二人の距離感は、ただの友達というよりも、恋人同士のように見える。
ローラの方が年上のように見えるが、それもそのはず、ローラはこの学校の職員のプレートを首から提げていた。
ただし正職員ではなくアルバイトのようだったが。
「あっ、こんなことしてる場合じゃない!次の授業に行かないと」
時計を見て、樹は慌てて言った。
「とりあえず、助かりました」
ぺこりと頭を下げ、樹はその場から離れた。
そして一瞬戻ってきたかと思うとローラと手を取り合い、見つめ合い、顔を赤らめたかと思うと再び次の授業へと向かって走っていった。
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