第7話
「あっ、ほら図星だ!キミの恋バナ聞きたいなぁ」
女子高生のようにはしゃぐ伊織に、樹は渋々口を開いた。
「――こないだ、初めて彼女と一緒に旅行しました。京都に一泊で行ったんですけど」
「あ~、こないだバイト休んでた時か。お土産くれたよね。へぇ~。それで?」
「ちょっと遅くなったけどオレのハタチのお祝いにって。あ、お金は折半ですよ。で、彼女が色々行きたいとことか考えたり、計画してくれて、それで一緒に泊まって、その、オレ初めてだったんですけど、えっと」
照れているのか、樹の声がだんだんと小さくなってくる。
話し方もしどろもどろだ。
「それで、卒業したんだ」
「あんまり大きな声で言わないでください」
「そしたらさ、彼女のこと、もっと好きになっただろ?可愛いって思ったろ?」
伊織がニヤニヤした声で話しているのが分かる。
「まぁ。でも、好きとか嫌いとか」
「何だよ」
「オレの彼女、積極的だから前に進めたけど。さっきも言いましたけどオレ、草食な方だし」
相変わらず樹の声は小さい。
「キミは年上の彼女にリードしてもらうのが好きなのかな。僕は自分がリードする方が好きだけどね、覚えててよ」
「伊織さんのそんな情報覚えて、オレどうしたらいいんですか」
「でも年上の女性が好きなんだろ?同い年はダメなの?年下も可愛いんじゃない?」
間髪入れずに伊織の言葉が飛んできた。
「年上しかあり得ない。年上じゃないと心が動かないんです」
「ふ~ん、性癖ってやつかな。もっと彼女のことが好きに思えたら、きっとキミは彼女のこと手放したくなくなるだろうし、自分からもっと求めるようになるだろうけどね」
樹は伊織の方に身体をごろりと向け直した。
「人にばっかり言わせてますけど、伊織さんはどうなんですか?もしかしてまだなのに偉そうにオレに言ってるとかじゃ」
「彼女と結婚を考えてるぐらいなんだから、察しろよ」
「そ、そうですね」
言い返す余地がなく、樹は一瞬で黙った。
「結婚かぁ」
樹は、ぽつりと呟いた。
ローラのことは好きだが、やはり結婚という言葉には繋がらないような気がする。
彼女は自分に結婚という未来を求めているのかもしれないけれど、それなら応えることができないかもしれず、申し訳ないではないか。
「キミはわりと冷めてるから、もっと情熱的な燃え上がるような恋をする必要があるんじゃない?」
伊織は次から次へと恥ずかしげもなく照れるような言葉を口にする。
「のめり込むように相手を好きになるってことですか?」
「そう。我を忘れるような。ずっと彼女のことを考えてないといられないような」
「そんな、恋愛に振り回されたくないですよ。理性的に生きていきたいんです」
だから、相手が別れたいと言ったらいつでも手放すし、そんなに深入りはしない方が自分も相手も傷つかないのだと樹は言った。
そして好きになりすぎると、別れるときにつらいからとも付け加えた。
「おいおい、さっきから聞いてたらキミは別れることを前提に付き合ってるの!?」
「別にそういうわけではないですよ。そういう時が来たらって思うだけです」
「まあ、そういう考えだと一生一緒にいたいと思えないのかもなぁ」
樹は、幼い頃好きだった女性が結婚してしまい、行き場の無い気持ちを抑え込むことができずつらい思いをしたことを思い出していた。
それならいっそ、そんなにも誰かを好きにならなければいいのだと無意識に考えるようになってしまったのかもしれない。
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