この美しくも辛く重々しい始まりで「めちゃくちゃハッピーエンド」って⁉︎

 密林の奥深く、雨季になると湖に沈み、霧の中で湖面にその姿を映す幽玄な美しさを現す宮殿で夜毎繰り広げられる『語り比べ』を中心に進む物語です。

 お話の筋は作品のあらすじを読んでいただくとして、とにかくこのお話がすごいのは霧に包まれた宮殿に漂う湿度や、不意に握られた手から伝わる熱、サンパギータの不思議な語り様まで、あらゆるシーンがくっきりはっきり脳裏に浮かんできてしまうのです。

 さらには、語り部の青年ロキラタが愛を告げた時、語り手の名もなき侍女が一緒には行けない、心だけを持っていってほしいと告げた後の二人の会話——

「ここに居たがっている心を、どうやって持っていけばいいのです?」
「心を裂きます。一番柔らかい所を差し上げます。わたしはあなたの心を乞いませんから、それでお許しください」

 ロキラタを恋しいと思いながら、それでもサンパギータから離れることのできない彼女のこのセリフ……!
 恋や愛を語る言葉がこれほど豊かにあるなんて……、とため息をつかずにはいられません。

 サンパギータの秘密、語り手自身の過去、そしてロキラタの真意など多くの謎が「語り比べ」が進むにつれて徐々に明らかになっていくのですが、とにかく先が読めず目が離せません。

 辛いシーンもありますが、タグにあるとおり「めちゃくちゃハッピーエンド」なので、ぜひ最後まで見届けてこの世界に酔いしれてほしい一作です。

 十万字程度なので一気読みがおすすめ!

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