第11話 真犯人?の一週間前の行動 part2

「その願い叶えてやろう。お前を金持ちにしてやる……」



えっ?なに?アンナは突如聞こえて来た不気味な声に驚く。


「誰?」

アンナは恐る恐る尋ねた。


「…………金持ちになりたいんだろ?」

不気味な声はアンナの質問を無視して質問してきた。


「……えっ…………そうだけど……何よ。気持ちわる……」

突如聞こえる不気味な声を不審がるアンナ。


すると……

「わたしの言う通りにすれば金持ちにしてやれる……」

不気味な声は、また妙な事を言ってくる。


アンナはイライラした。

むしゃくしゃしている時に、おかしなイタズラまでされて怒り心頭であった。


「誰よ!!出て来なさい!!!!」

アンナは馬小屋にあった鋤を手に取り周りを警戒した。


「…………無駄だ。わたしはその場所にはいない。先ほどの質問に戻るぞ。金持ちになりたくないか?」

不気味な声の主は冷静に尋ねてきた。


「フン……誰か知らないけど、からかうのはやめてくんない。悪趣味なイタズラね……あーイライラする」

アンナは家へ戻ろうとした。


すると……不気味な声は、

「…………明日……同じ時間にこの場所に来い。言う通りにすればお前を金持ちにしてやる。要らないものを持ってこい。ゴミでもなんでもいい」と言った。


「………………」

アンナは不気味な声を無視して自分の家に戻った。


ボフンッ……

ベッドに大の字になって横になる。


「あー……なんなのよ全く……」


今日は色んなことがありすぎて疲れた……



……それにしても……さっきの嫌な感じの声……金持ちにしてやれるってずっと言ってたけどなんなんだろう。

冷静になっても意味分からない……


要らないものを持ってこいって言ってたな…………

訳が分からない……


アンナは、ふと部屋の隅にある木箱を見た。


「‥‥‥‥‥‥‥」


まぁいっか……………………


「金持ちにしてやる」その単語が頭から離れなかった。


その日は眠りについた………………



――翌日――夜


ホー……ホー………………

フクロウの鳴き声が聞こえる。


ドスンッ!!

アンナは木箱を馬小屋の近くに置いた。

昨日、不気味な声が聞こえてきた場所だ。


「おーい!ガラクタ持ってきてやったぞーー」

アンナは腰に手を置き暗闇に向かって話す。周りには誰もいない。


すると……


「…………よく来たな。来ると思っていたぞ……そのガラクタは、そこに置いておけ。明日また同じ時間にここに来るんだ……」

不気味な声は、また訳の分からない事を言ってきた。


「はいはい……」

めんどくさいと思いながら、明日何が起きるのか気になっていた。


――翌日――

アンナがまた翌日同じ場所に行くと、黒いローブを羽織った人物が立っていた。


「……………………来たか……」

ここに来て初めて姿を現した。声は不気味な声だ。


「やっと姿を見せたわね……それで?名前は何て言うの?私はアンナ……まぁどうせ知ってるんだろうけど……」

アンナが警戒しながらも尋ねた。


「………………グレテンシュタインだ……」

少し間を空けて不気味な声が名前を名乗った。


「えっ?!グレテンシュタイン?セーラのお父さん?えっ?本当?なんで?」

アンナは混乱した。この前見たグレテンシュタイン伯爵とは声も背格好も全然違う。

こんな怪しい雰囲気では無かった。この前会った時優しそうなおじさんだった。本当に同じ人?アンナは不思議に思った。


「……想像に任せるよ……それはそうと、これはお前の取り分だ……開けてみろ」

グレテンシュタインはアンナに袋を手渡した。


アンナは言われた通りに中を開けた。

すると……中に銀貨が入っているではないか。

数えてみると銀貨が11枚入っていた。


「え?何これ?」

アンナは驚いた。銀貨11枚は大金だ。

銀貨10枚で金貨1枚の価値になる。


「……お前の金だ。受け取れ……」


「どういう事?」

アンナは不思議そうに尋ねた。ただガラクタ、いやゴミを持ってきただけだ。庭に捨ててあった木片などのただのゴミだ。


すると……


「……大した事は無い。市場で売ったのだ。お前にとってはゴミでも違う人から見たら価値があるものになる可能性もある…『マルカリ』という街の市場を知っているか?最近話題になっている何でも売り買いする市場だ。わたしはそこでお前のゴミを金に変えただけだ。」


マルカリ?なんだそれ?街には、そんなものもあるのか?ってか誰がゴミなんか欲しがるんだよ…………

そもそもグレテンシュタインさんがなんでそんなことをする必要があるんだ……貴族がそんな事をする理由が分からない。それに私に声をかけてきた理由も分からない。考えれば考える程、訳が分からない。


「………………そうだな……お前の考える通りだ。だが、その疑問に答える事は出来ないな。ただ、言えることは『若者に夢やチャンスを与え、成功の手助けがしたい』とだけ言っておこう。ただし、お前は、私の言った通りにするのが条件だ。細かい事は考えなくていい……」

グレテンシュタインはアンナが何も言っていないのに、思った事を言ってきた。


「えッ………………なんで……」

アンナは驚いた。心が読めるの?何?訳分からない。

キモい……


「…………言っただろう?細かい事は考えなくて良いと……どうする?もっと稼げる話しがあるが……辞めておくか?わたしはどちらでも構わない。お前がダメなら別の者にチャンスを与えるだけだ」

グレテンシュタインはアンナに尋ねた。


アンナは悩んだ……

でも……チャンスなのかもしれない。

この人は、方法や動機はよく分からないにしても、ゴミを渡しただけで銀貨11枚をくれた。

これは事実だ。

話しを聞くだけでも聞いてみよう。


「…………分かったわ。稼げる話しって何?」



「……うむ……その銀貨11枚を私に投資しろ。今回はガラクタも何も要らない。その銀貨だけでいい。……明日にはお前のその銀貨を10倍の銀貨110枚に増やす。ただし今回は増やした後、手数料で銀貨11枚を貰う。まぁ元手が必要だからな。お前の取り分は銀貨100枚。要するに金貨10枚だ……どうだ?やってみないか?」

グレテンシュタインは不気味に語りかける。


「えっ!!明日には銀貨100枚!!」


「そうだ……どうする?早く決めろ」

グレテンシュタインはアンナに促す。



アンナは思った。

怪しい……でも………………

この銀貨はそもそも自分で稼いだ金では無いし、元々はただのゴミだった。別に渡した所で損にはならない。


そう思ったアンナは銀貨11枚が入った袋をグレテンシュタインに渡した。


「…………いいわ。はい……また明日来ればいいんでしょ?」

アンナが尋ねた。


「…………そうだ。では……また明日…………」

ヒュンッ!!


「キャッ!!」


グレテンシュタインは気付いたら消えていた。


「……何なのよ………………ったく……」


誰もいない場所でアンナは一人佇んでいた…………




――翌日――


「おーい!!きたわよー」

アンナがいつも通り同じ時間にやってきた。


柱の影から黒いローブを羽織ったグレテンシュタインがぬーっと出てきた。


「…………お前の取り分だ……開けて確認してくれ」

グレテンシュタインは会うなりローブから袋を取り出した。


「…………急ね…………うわ……おもッ!!」

アンナは言われた通り袋を開けた。

ジャラジャラ……


袋の中には大量の銀貨が入っていた。


「……嘘でしょ?何これ、まさか本当に100枚あるの?」

アンナは驚きを隠せなかった。こんな大金、農民では中々お目にかかれない。


「…………お前の取り分だ。」

不気味な声は、冷静に答えた。


「え…………あ……ありがとう」


アンナは銀貨100枚が入ったズッシリとした袋を手にした。

アンナは思った。

この人の言う通りにすれば本当にお金持ちになれるかもしれない。

もっともっとお金が欲しい!!

アンナは欲が出てきた。


アンナの微妙な表情の変化を見てグレテンシュタインはニヤっと笑った様に見えた。


「グレテンシュタインさん!次はどうするの??」

アンナは尋ねた。


「まぁ……待て……今から次の話しをする。ただし次は実際にお前にも動いてもらう」

グレテンシュタインは静かに答えた。


「なに?何をすれば良いの?」

アンナは早く儲け話しを聞きたくてしょうがないといった様子だ。頭の中は金でいっぱいだった。


「今度は金貨210枚を私に投資して欲しい。そうすれば10倍の金貨2,000枚にしてやる。手数料として金貨10枚は貰う」

淡々と話すグレテンシュタイン。


「えっ?…………さすがに……金貨210枚なんて無理よ。そんなお金は無いわ……手元に金貨10枚あるけど後200枚足りないわ」

アンナにそんなお金は無い。


「……話しは最後まで聞く事だな。金貨200枚は確かに大金だ。ただ簡単に手に入る方法がある……」

グレテンシュタインはわざと勿体ぶった言い方をする。


「えっ?簡単に?」

アンナのお金の事で頭がいっぱいの為、早く聞きたくてしょうがないと言った様子だ。


「……そうだ。簡単に金を貸してくれる所がある。ただし、少し悪いことをしなくちゃいけない。少しリスクはあるが絶対にバレる事は無い。どうだ?」

グレテンシュタインは冷静に話す。


「どういう事?わたしがお金を借りるの?借りたら返さなきゃいけないじゃない?」


「普通はそうだ。ただ、今回はお前が借金を支払わずに金貨200枚を借りる方法を教えてやる。誰にも言うなよ。お前が別人に成りすまして金を借りるのだ……」


「別人になりすます?」

アンナにはよく分からなかった。


「そうだ。お前は別人になりすまして金を借りに行く。簡単だ。少し演技すれば良いだけだ。この世界は本人の確認を厳格にしない。バレやしない。この方法ならお前は損せずに大金を手に出来る……」

淡々と話すグレテンシュタイン。


「…………え…………でも……それって悪い事じゃないの?」

アンナは不安そうに尋ねる。


「…………まぁ……そうだな。悪い事だ。でもな、キレイ事ばかりじゃ大金は手に入らないぞ。世の中は甘く無いんだ。この話しは苦労する事無く大金を手に出来るんだ。そりゃ多少のリスクもある。だけどな、それさえやれば、金貨210枚が金貨2,000枚に増えるんだぞ?正直お前が金貨200枚を用意する労力より私が金貨2,000枚用意するのが大変だ。どうする?やめるなら今のうちだぞ?前も言った様にお前がダメなら別の者に話しをするだけだ……」

またしても淡々と冷静に話すグレテンシュタイン。


「……………………」

アンナは黙ってしまった。


少し黙った後、アンナが口を開いた。


「……誰になりすますの?」


「………………セーラだ」






「えっ!?セーラ?……どうして?」

驚くアンナ。何故セーラに成りすます必要がある?


すると……グレテンシュタインは静かに答えた。


「……………………まぁいい…………理由を話そう………………実を言うと娘の為なのだ。簡単に言うとシスターを辞めてもらう為だ。セーラはわたしの言う事を全然聞かない。自由過ぎる。セーラは今、教会でシスターをしているのだが、私は反対だった。シスターなんて貴族がやる仕事では無い。私はいつも恥ずかしかった。私はセーラに言った。『頼むから貴族らしくしてくれ。シスターなんて辞めてくれ』と、しかしセーラは聞く耳を持たなかった。どうしても辞めて欲しかった。私はどうすればセーラがシスターを辞めてくれるのか必死に考えた。だが中々良い案が浮かばなかった。

ある日、この村に来た際、キミとセーラが仲良くしている様子を見て、ある事を思いついた。セーラが知らない所で、返せないぐらいの多額の借金を背負わせるのだ。セーラの安い賃金では到底借金は払えない。そうすれば必ずわたしに泣きついてくる。泣きついてた所で『シスターを辞める』という条件付きで借金を返すのだ。そうすればセーラはシスターを辞めるしかない。年頃も近いキミなら金貸しもすんなり貸してくれると思ったのだ。こんな回りくどいやり方をしてすまない。もちろん、先程の約束通り金貨210枚を投資して金貨2,000枚にしてキミに渡す約束は守るし、キミが借りた借金も先ほどの流れの通り私が完済するから安心してくれ。どうかな?」

グレテンシュタインは、いつもの冷静な感じとは違い、必死に訴えてきた。


アンナは驚いた……

娘を想う父親の気持ちも良く分かる……

娘を想うが故にこんなやり方になってしまったのだろう。

でもグレテンシュタインさんの言う通りにすれば、セーラを裏切る事になる…………


でも……言う通りにすれば、ちょっと悪いことするだけで金貨2,000枚が手に入る。


金貨2,000枚もあれば、こんな汚ない村を出て、綺麗な服を着て社交会に行き、セレブなイケメンと結婚し、玉の輿になり、優雅に贅沢な生活が出来る。

その為の自分磨きには十分過ぎる額だ。


わたしだって幸せになる権利はあるはずだ……



………………セーラごめん………………


アンナはグレテンシュタインの計画に乗った………………



アンナが了承するとグレテンシュタインは大層喜んだ。



すると、グレテンシュタインは金を借りに行く際の段取りについて説明を始めた。


その際の注意点を何点かアンナに説明をした。


まず、格好はシスターの服を着て行くこと。

シスターであれば「嘘をつかない」という先入観があるはずだから借りやすくなるはず。


次に金を借りる理由を聞かれたら「寄附金が打ち切られたから経営難」だと言う事。

実際に教会の経営は火の車だから怪しまれにくいはず。


次に世間知らずなお嬢様シスターを演じる事。本人がお金が返せなければ、家族や友人から回収すれば良いと考える。最悪それが無理でも………………おっとこれ以上は言うまい。


ざっくり言うと以上の事を注意すれば金は借りられるはずだ。と言う。


「これだけ注意すれば良いの?」

アンナは話しを一通り聞いた後、尋ねた。


「あぁ。これだけだ。…………あーそうそう、借りられる金貨が200枚じゃなくてもいい。ダメと言われたら引くんだ。借りられる額でいい。投資額と手数料もそれに応じて変えるから安心して良い。何か質問はあるかい?」

グレテンシュタインは優しく尋ねた。


「いえ。ないわ」

静かに返事をするアンナ……


「それじゃ頼んだよ………………」

アンナの肩をポンッと叩く。


「はい……」

あれ?……気のせいかな………………

アンナは肩を叩かれて妙な違和感を感じた。


しかし、考えても違和感が何なのかは分からなかった。


そして翌日、


アンナはクルス達のいるプリティファイナンスへと向かい金貨200枚を手にしたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る