第10話 真犯人?の一週間前の行動
クルスとショウタが教会を出る一週間前‥‥‥‥
――ある辺境の小さい村――
アンナ17歳。普通の女の子。
貧しい農家の娘として生まれる。
父親、母親、兄の4人家族。
汚い茅葺き屋根の小屋。家の横に馬小屋がある。ニワトリなどがいる。
土の匂いと家畜の糞尿の匂いがする。
父と兄は朝から晩まで手が真っ黒になるまで畑作業や家畜の世話をして泥だらけになって帰ってくる。
母とアンナは家で内職や家事。
男は農作業。
女は家事、内職。家畜の世話。
それが農家だ。
何世代もそうやって生きてきた。これが当たり前。普通の事。貧しいのが当たり前。
アンナは、そんな生活に何の疑問も持たずダラダラと暮らしていた。
ある日…………
茅葺き屋根の家から怒号が聞こえる。
「アンナ!!!!!いつまでダラダラしてんの!!父さんとアランに弁当を届けてやってちょうだい!それぐらいならあんたでも出来るでしょう!」
割腹の良い母親がアンナに向かって叫ぶ。
アランとはアンナの兄である。
「は?面倒くさ……なんで私が?」
アンナは不貞腐れてゴロゴロしている。
「あ?なんか言った?」
母親はアンナを睨む。
「う………………はいはい……分かりましたよ」
母親には逆らえない。逆らえば家を追い出される。アンナは渋々従った。
アンナは父親と兄がいる畑まで弁当を届けに行った。
「何よ……めんどくさいな……ったく」
ぶつぶつ文句を言いながら歩いていると…………
畑に見知らぬ男性がいる。男性と父親が話しをしているのが見えた。
兄は農作業を続けているようだ。
その中に見たことないぐらい可愛い女の子がいた。
「うわ…………何……あの子……可愛い……」
アンナは言葉を失った。
一人圧倒的なオーラを放っている。
アンナと同世代くらいだろうか。
「おっ!アンナ?どうした?」
父親がアンナに気付き声をかけてきた。
「……ほら、弁当~。二人の分。めんどくさいけど届けてやったよー」
アンナはダルそうに父親に弁当を渡した。
「おー!ありがとな!!珍しく気が利くな。あっ……さては母ちゃんに怒鳴られたな?ハッハッハ!」
がっしりした体格の父親がアンナをからかった。
「は?」
「ドルフさん、こちらの可愛らしいお嬢さんは?」
男性がアンナを見て父親に尋ねた。
「あっ!すみません。はい。娘のアンナです!ほら!お前も挨拶しろ!こちらはグレテンシュタイン伯爵様だぞ」
ドルフは妙に焦った様子でアンナに挨拶させた。
「アンナ……です」
アンナは男性に挨拶した。ペコっと軽く会釈をする。
すると……
「こんにちは。私は隣町のグレテンシュタインと申します。こっちが娘のセーラです。道に迷って困っていたところ、たまたまドルフさんに助けて頂いたんです。ほら、セーラも挨拶しなさい」
ダンディなおじさんだ。
どうやらグレテンシュタインさんは貴族で伯爵らしい。アンナのいる村の領主に用事があり、村を訪れたらしい。
この可愛い女の子はセーラと言うらしい。
「ごぎげんよう。わたくしセーラと申しますわ」
セーラはおしとやかなお嬢様といった感じだ。
「さぁ……行くとするかセーラ。ドルフさんありがとうございます。助かりました」
グレテンシュタイン伯はドルフにお辞儀をした後、セーラを連れて領主の屋敷へ向かおうとした。
すると……
「あの……お父様?お父様が領主様のところに行っている間だけ、この村を見て回っても良いかしら?こんな機会滅多に無いのだもん」
セーラは村を見て回りたいと父親にお願いした。
「うーむ…………相変わらず自由過ぎるというか何というか…………」
グレテンシュタイン伯は腕を組んで悩む。
「お願いお父様!」
セーラは目を輝かせて父親に訴えかける。
「うッ………………鬱陶しいぐらい眩しい……」
グレテンシュタイン伯爵は対応に困った。娘を邪険にも出来ないし、かと言って一人でうろつかせるのも心配だ。どうしたものか。
すると……
「あの……グレテンシュタイン様。宜しければ娘のアンナに案内させますよ。といっても何も無い村ですがね」
ドルフはアンナに案内させると提案した。
「は?いやいや!勝手に決めないでよ!!」
アンナは少し食い気味で突っ込んだ。
「アンナ、お前今日はヒマだろ?父ちゃんを助けると思って協力してくれよ、なっ?」
ドルフはアンナに頼んだ。
「………………う……まぁ……しょうがないわね……」
アンナはドルフのしつこい懇願に負けて村の案内を引き受ける事にした。
「まぁ!アンナさん。ありがとうございますわ。嬉しいですわ」
セーラはアンナが道案内してくれると分かり大層喜んだ。
しかし、村の案内なんてあっという間に終わった。
なんせ小さい村だ。これといって紹介するようなところも無い。
最初こそ乗り気じゃないアンナだったが時間が経つにつれ、セーラと仲良くなっていた。
二人は日が暮れるまで遊んだ。
遊ぶといっても川や山を散歩しながらダラダラ話しをするぐらいだ。
しかし、セーラが話してくれる町の話しは、アンナにとっては、どれも新鮮でキラキラしていた。
街に滅多に行く事が無い為、ワクワクが止まらなかった。
町にある珍しい菓子や洋服の話しなどアンナが知らない事ばかりだった。
しばらくして………………
「ねぇ、セーラ。こんな歩いて疲れないの?ちょっと休憩しよーよ。私疲れたー。……よっこらせ」
アンナは岩に腰をおろした。
「あら?もう疲れたの?運動不足じゃなくて?」
セーラも岩に静かに腰を下ろした。
「うっさいなーー!農民だからって皆体力あるって訳じゃないんだからねー」
アンナはムスっとしている。
「クスクス……これは失礼しましたわ」
セーラは口に手を添えて上品に笑っている。
「それよりさー、聞けば聞く程セーラが羨ましいわー。私なんて、生まれてから死ぬまでずっと農民よ。あー!セーラが羨ましい~」
川辺で岩に座り足をプラプラしながら話すアンナ。
「あら、そうかしら?貴族なんて退屈よ……くだらない習い事、退屈なお茶会……お世辞や嫌味で本音は言えないし……私からしたらアンナが羨ましいわ……」
セーラも足をプラプラしている。
「そっか……お互い無いモノねだりだね……」
アンナが言った。
「ですわね…………」
セーラが残念そうに言った。
「はあ」×2
二人は深い溜息をついた。
その後、二人は村へと帰っていった。
日が暮れた頃、セーラの父が迎えに来た。
泥だらけになった娘を見て父は少し心配したが、娘の楽しそうな笑顔を見てアンナにお礼を言った。
セーラとアンナは、また遊ぶ約束をして二人は家に帰って行った。
家に着いたアンナは父親に粗相が無かったかと聞かれたが、何も無かったと答えた。
ふと……自分の服を見た。
……あぁ……なんて……汚くみすぼらしい服だろう。
父さんも母さんも兄さんも村の皆全員汚い格好。
今まで格好なんて気にして無かったのに……
それにひきかえセーラはキレイで可愛い服。
一日セーラと遊び沢山話しをした事で貴族と農民の格差を痛感した。
これが現実……明日も明後日も明明後日も10年後も50年後も繰り返される現実。
「農民は農民」…………この事実は何があっても変えられない。天地がひっくり返っても変わらない事実。
頭では分かってはいるが、何故か……何故だろう。モヤモヤする。
…………現実が急に嫌になった。
「ちょっと……馬小屋掃除してくる」
アンナは家を飛び出した。
「おー。ありがとなー」
父親は全く心配する素振りも見せない。
バタンッ!
馬小屋に駆け込み、一人で月を眺めていた。
あぁ……私もセーラみたいな貴族になりたい………………
セーラは窮屈だとか退屈だとか言っていたけど、そうは思えない。お金があれば何でも出来るじゃないか?好きな事も何もかも思い通りだ。
汚くて臭い仕事なんかしなくたって良い。
お金持ちになりたい……
貴族になりたい……
あー貴族になりたい…………
自由になりたい………………
「ハァ…………」
深いため息をついた……
分かっている。農民は農民。どう足掻いたって金持ちにはなれないのだ。
貴族になんか、なれっこない……
するとどこからともなく不気味な声が頭に響いた。
「その願い叶えてやろう。お前を金持ちにしてやる……」
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