第5話 なんか可愛いシスターがお金を借りに来た

ガチャ……。


カランコロン……

事務所のベルが鳴る。


「すみません……」


男性と入れ違いで若い女性が一人、緊張した様子で事務所に入ってきた。


20代前半くらいだろうか。美女だ。

ただ、どことなく性格がキツそうだ。

 

「ほーいほいほいほーい!」

クルスが玄関までスキップで向かう。妙なテンションだ。何故だろう。腹が立つ。


「すみません……あの…………お金を……貸してもらいたくて………………」

女性は申し訳なさそうに言った。


「お金?借りたい?お客さん?はいよ!それじゃこっちに座って~」

クルスは満面の笑顔で女性をテーブルの前の椅子に案内した。先ほどの男性の時の般若の様な顔と比べるとえらい変わり様だ。


スキップしながらでウザい。


「…………ハイ」

女性は少し不安気な表情を浮かべ、静かに座った。

その後、クルスは向かい合わせに勢いよく座った。


テーブルの傍らには先ほど破壊した大盾の残骸がある。


「ワシはクルス!!ペクニーアエ=コンメリクム=クルスじゃ!クルスでいいぞ。プリティな10歳!!このプリティファイナンスの社長じゃ!キラリンッ☆♪」

一昔前の魔法少女みたいな奇妙なポーズをしている。


「えっ?‥‥‥あ‥‥ハハハ‥‥えっ?!!社長?」

驚く女性。俺も驚いた。


それにしてもここに来て初めて知る様々な事実。

クルスは社長だった。

10歳?社長?名前ながっ!


こんなちっこいのが社長?



「は?そうじゃよ!!可愛いじゃろ?じゃろ?」

執拗に女性に顔を近づけ可愛いと言わせようとしている。


「え?は‥はい。可愛いです」

無理矢理言わされる女性。


「じゃろ~~よく分かっておるなお主!見込みあるぞ!それはそうと名前は何て言うんじゃ?」

可愛いと言わせご満悦のクルス。


「あ……失礼致しました。私は……セーラです」

セーラはクルスのテンションに圧倒され一瞬言葉が詰まりながらも自己紹介をした。


「セーラじゃな。仕事は何をしているんじゃ?」

クルスがえんぴつを鼻の下に乗せながら質問する。

明らかにやる気が無い……


「え?…………あの……シスターです。」


「シスター?どこの?」

クルスは足をプラプラさせながら質問を続ける。


「えっと……聖フランシス大教会です」

セーラはうつむきながら話す。緊張からか途中途中言葉が詰まる様だ。

緊張しているのがコチラまで伝わってくる。


「へぇ……あそこか……最近は教会の経営も大変じゃろ?」

鼻をほじりながら聞くクルス。

ピンッ!


鼻をほじるな!!!もっと興味持て!!

それに、そんなほじったら血が出るぞ!!

しかも!!今!何か飛ばしたな!!!何とは言わないが……コイツ!ありえん!不潔過ぎる!

あー…………疲れた……


ショウタは心の中でツッコミ過ぎて疲れた……



「えっ?あ……は……はい」

何故か驚くセーラ。

鼻ほじに驚いているのか?違うか!

クルスが教会の経営ナンチャラについて言ったから驚いたらしい。


「それで?金貨何枚必要なんじゃ?」

本題を切り出すクルス。


「200枚ほど…………」


「えっ!!!!」

ハッ!ヤバ……声出しちゃった。

ショウタは咄嗟に口を覆った。


クルスがこちらを見て睨んでいる。

ヤベッ……


「す……すみません」

ショウタは謝った。


びっくりし過ぎて思わず声が出てしまった!


は?金貨200枚?!聞き間違いじゃないよね?

家でも買う気か?大丈夫かこの人?何にそんな大金使うんだ!!!

とショウタは心の中で思った。


「ほー!!金貨200枚…………ずいぶん大金じゃな~。そんな大金何に使うんじゃ?」

ですよねー!気になる。気になる。


「…………あっハイ。簡単に言うと教会の運営の為です。先ほどクルスさんがご指摘された通り、わたくしのいる教会は現在、経営難です。教会では身寄りの無い子供達を引き取って育てているのですが、最近になって急にギルドからの寄附金が止まってしまったのです……教会の運営は、ほぼギルドからの寄附金などの援助で成り立っています。急に寄附金を打ち切りにしてしまうなんてあまりにも酷すぎる………………このままでは、子ども達が飢え死にしてしまう……しかし、わたくしにはどうすれば良いか分かりませんでした。そんな時……たまたまコチラの貼り紙を見て、お金を貸して貰えると知り、伺いました…………当面の運営費として貸して頂きたいのです…………」

一通り話し終えるとセーラは下を向いた。



うーん…………寄附金打ち切られて金が無いから借りに来たって事だよね?

これからどうやって返すんだろ?


というか、今まで貯金とかは?まぁ……無いから金借りに来てんのか……良く分からん。


絶対節約したら少しずつは貯金出来た様な……

知らんけど……



「ほう……それで金が必要だという事じゃな……」

セーラの話しを黙って聞いていたクルスが頷いた。


「はい……」


「それで?ワシから金を借りてもそもそも寄附金が無い状況は変わらんじゃろう?収入が無いなら返せないではないか?ウチの利息は1か月1割だぞ?金貨200枚借りたら1か月後には利息だけで金貨20枚だ。どうやって返すつもりじゃ?返すあてはあるのか?」


クルスは淡々と話し、セーラに尋ねた。

やっぱりそれ気になるよね~。返済原資ってやつ?返す方法は気になる。


どうやって返すつもりだ?どうする?シスターセーラ!

ショウタも心の中でセーラに尋ねた。



「………………そ……それは………………仕事を見つけます!!何とか仕事を見つけて返します!だからお願いします!お金を貸して下さい!」

セーラは必死にクルスに訴えた。


えぇーーー!

出た!ほぼ無計画!仕事を見つけて返します!ってこれから仕事見つけるんだよね?いやいや……


まぁ……俺はもっと無計画だから~何も言えないんだけどね~~。


ジーッとセーラを見るクルス。


「…………あの?なんでしょうか?」

クルスの視線に耐えかねて尋ねる。


すると…………


ドンッ!!


机の上に金貨が沢山入った袋を勢いよく置いた。


「ほらよ!金貨200枚じゃ!」


「あ!ありがとうございます!」

セーラは大金を受け取ろうとする。


パシッ!!



が、クルスは金貨が入った袋を離さない。

「待て!貸すには条件がある。利息についてじゃ。利息は通常1か月1割だが、信用の無いアンタは1か月3割払ってもらう。要するに1か月後には金貨260枚返さないと完済しない。つまり1日の利息だけで金貨2枚じゃ。本当は初めて来た客に200枚も貸せん。わしもリスクがある。しかもあんたはこれから仕事を探して返すと言っている。そんな仕事も無い様なヤツには普通は貸さない。でもアンタは返す人の目をしている。目を見て分かった。さあ、どうする?」

クルスはドヤ顔でセーラに尋ねた。


「あ…………ありがとうございます!!!その条件で問題ありません!宜しくお願いします!!」

深々と頭を下げるセーラ。


えーーーー!!

ウソでしょ?お金貸しちゃうの?

何の信用も無いこの人に?しかもほぼ無職だろ?

いくら利息3割にしたってあり得ないでしょ?



あ!!そうかーー!

分かったぞ!分かったーー!!分かったーー!!

はいはい。そういう事ですか!クルスさんも悪い人だよ。

返せない時はピンク色のいかがわしーーい店で働いてもらうんだな。絶対そうだ!

美人だし!!シスターだし!!

マニアックな変態からの需要ありそうだ。

それでガッツリ稼いでもらうんだなー。



あー怖い怖い。やっぱり怖いな。金融屋さんは……

ヤ○ザみたいな怖い人とムフフな仕事はセットなのかなー。


…………なんか色々考えてたら急に怖くなってきたな。厄介事に巻き込まれそう。やっぱり面接受けるのやめようかな………………

ショウタが、そんな事を考えていると……



「ヨシ!それじゃココにサインして!」

クルスが元気良くセーラに言った。


「あっ……はい」

セーラは言われた通りに用紙にサインした。


すると……

「○×△☆♯♭●□▲★※」

クルスが何やらブツブツと呪文の様な言葉を唱え始めた。

すると……先ほどの用紙が光り出し、うっすら光る透明な鎖が浮き出てきた。


その瞬間……

ガシャン!


光る鎖はシスターセーラの足にしっかりロックされた様に見えた。


「ヨシ!これで完了じゃ!」

クルスはニカっと笑う。


「あ……あの今のは?」

セーラが尋ねた。

うん。だよね。今の何?めちゃくちゃ気になる。

ナイス質問!シスターセーラ!


「あー………………今のは『契約の鎖』じゃ。まぁ、目に見えない魔法の鎖じゃな。心配するな!完済して契約が終了すれば外れる。何も問題無い。ただし……返さないで放置していると少しずつ鎖が締まり、いずれ歩けなくなり、終いには…………まぁ……気をつけてくれ」

淡々と話すクルス。


コワッ!!!なにそれ!!しかも終いにはって何だよ!!!

含みを持たせた言い方するんじゃないよ!気になるだろ!


「えッ?!!」

セーラは明らかに動揺している。


「大丈夫じゃよ!きっちり返してくれたら何も問題無い!!それじゃ!一か月後に事務所に返済しに来てくれな~」

クルスはニヤニヤしている。


「はい……それじゃ失礼致します」

セーラは金貨200枚を持って足早に事務所を後にした。


ダメだ……怖い!

やっぱりクルスの、あの目が怖い!

笑いながら人を殺せる人の目だ!!


鉄製の大盾は素手で破壊するし、見たことない魔法使うし……

子供に化けた悪魔に違いない。


やっぱり俺には踏み込んじゃいけない世界だったんだ。


やっぱり帰ろう……

トイレ行くフリして逃げればいい……


そうだ……そうしよう。


ショウタは立ち上がり、無言で事務所の出口の方へ

向かおうとした。


すると…………


ショウタの妙な動きに気付いたクルスが声をかけた。


「オイ!お前!!どこ行くんじゃ?!」

ヒュンッ!!!


ドスッ!!


「ヒィッ!!!!」


ショウタの顔スレスレにナイフが突き刺さった。

ウソでしょ!!!

この人ナイフ投げてきたよ!全然見えなかったし!!


ショウタを睨んでいる。


「いや…………まぁ……あははは……トイレどこかなっと思って……」

適当に誤魔化すショウタ。

怖い!怖い!怖い!怖い!!!!怖すぎる!!!


「ウロチョロするんじゃない!黙って座っておれ

!トイレぐらい我慢しろ!」


ショウタは混乱している。


「あ……ははは……はは」

この状況で逃げる勇気も無く、静かに座った。


一体どうなってしまうんだ……俺……

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