1章 入社試験編 シスターの憂鬱
第4話 『悪銭身に付かず』だってよ。なんそれ?
ショウタは、事務所の前に立っていた。
チラシを見て来てみたは良いが、入る決心がつかずにいた…………
ええい!考えていても始まらない。中に入ろう。
……どうやら二階みたいだな。
カツ……カツ……カツ………………
少し緊張した足取りで階段を登っていった。登っていくにつれて足元がフラつく。これは緊張なのか単に空腹からくるものなのか。自分でもよく分からなかった。
二階に上がるとすぐに可愛らしい木製の扉が視界に入ってきた。細かな彫刻が施された扉だ。
「プリティ……ファイナンス……なんとまぁ……オシャレな屋号だこと……」
…………まぁどうでもいい。
ショウタは扉をノックした。
コン……コン……
「すみませ~ん。面接希望で来ましたトガシ ショウタといいます」
少し緊張した声で話す。
「……………………」
ん?返答が無い。留守か?
もう一度言ってみるか。
「すみません~」
さっきよりも少し大きな声で言ってみた。
すると………………
ドダ……ドダ……ドダ……
誰かが近づいてくる足音がする。
ガチャ……
ドアが開いた。
ショウタの目線の下に女の子がいた。
フリフリの服を着た10歳くらいの見た目の女の子。
………………何で子供が?
「なんじゃ?うるさいのぅ……今忙しいんじゃ!」
女の子は不機嫌そうな顔で不審者を見るかの様な目でショウタを睨んでいる。
「いや……その……面接で来たんです……」
なんで女の子相手にオドオドしてるんだ俺は……。
「面接?…………あぁ……そう言えば昔に求人出してたかのう?忘れてたわ……」
「えっ?」
焦るショウタ。今は募集してないの?
「今立て込んでるからな…………うーーーん……まぁ良い……入れ!!」
良かった……一瞬、面接してもらえないかと思った。
「ここに座って待っていろ!」
女の子は近くの椅子を指差した。
ゆっくり座るショウタ……ふと何かに気付いた……
「あっハイ……………………ってうわ!!!」
なんと!!
床に男性が土下座の体勢でじっとしているでは無いか……………………
見た事無いぐらいキレイな土下座だ。
何?この人?
「あぁ……こいつか?気にするでない」
いや……気になるだろ。普通。
近くの椅子に座って待っているよう案内された為、座って待つことになった。
それにしてもこの人なんで土下座なんかしてるんだろう。
冒険者かな?格好が冒険者風だ。
……まぁこんな所に来て土下座してるんだから借金してる人だろうな。
事務所の中を見渡す。
事務所と言っても普通の民家の様だ。
真ん中に大きなテーブルがある。椅子が4つある。
奥にも部屋がある様だが、暗くてよくわからない
入り口付近に椅子があり、ショウタはここに座っている。
ショウタは、ある事に気付いた。
至るところに武器やら鎧やらが飾られているのだ。
しかも……かなり高そう……
なんか紫色のオーラが出た禍々しい武器もある……
あれ…………絶対ヤバいやつだ……
なんだここ?金貸しだよな?
何で武器がいっぱいあるんだ?………………
その辺の武器屋より沢山あるぞ。
そんなことを考えていると………………
ドガンッ!!!!!!!!
突如、響く大きな音。
「ヒィッ!!」
男性が叫ぶ。
ビクッ!!!
な……なんだ?ビックリした!
金属に何かがぶつかったかの様な激しい音だ。
あまりにビックリして椅子から落ちそうになった。
ふと男性と女の子の方を見てみる……
すると………………
女の子の近くの巨大で分厚い大盾の中央に穴が空いている……
女の子の手からは、煙が出ている。漫画みたいだ。
「(エッ!?…………この子がやったのか?…………ウソだろ…………)」
開いた口が塞がらないショウタ。
目の前で起きた状況が理解出来なかった。
すると……
「早くしろ!!さっきから何回も言ってるように、今すぐ金貨50枚用意するか、ダンジョンの下層で魔石掘りの仕事やるか、お前に残された道は二つじゃ。さっさと好きな方を選べ!!」
女の子が男性の顔を覗き込む様にして静かにキレている……
非常に気まずい空気だ……重い……重すぎる…………
男性は土下座のままの体勢で床に向かって話し始めた。
「お願いします!!!あと二日だけ!!!あと二日だけ待ってください………………この通り今は、銅貨一枚だってありません。空っぽです。今は食べるものにも困っていて、もうどうしようも無いんです。払えるお金があればとっくに払っています。クルスさんもご存知の通り弱小冒険者は仕事が無くて大変です……ただ、この前デカい依頼を達成したので、二日後にはギルドから報酬が支払われるんです!!それで利息分は必ずお支払いします!それでも払えないなら煮るなり焼くなり好きにしてくれて構いませんから………………ぅぅ……えぐッ……うぐ……」
男の人は弱々しく泣きながら女の子に必死に訴える。
男性の横には空のバッグが置いてある……
あーあ……
大の大人が小さな女の子に罵声を浴びせられ泣いてるよ……
…………なんか可哀想だな。この人……
食うものにも困り、借金もある。なんて悲惨だ……
俺は借金が無いだけ、マシだな……
ショウタは目の前の男性と自分自身の境遇を重ね合わせていた。
男性の境遇が痛い程分かるだけに自業自得だとは
思えなかった。
ショウタも似たような境遇の為、仕事が無い大変さは痛い程理解出来たのだ。
それにギルドからの報酬の支払いが遅れる事は、よくある事だ。
すると………………
女の子は男性の話しを黙って聞き終えると、顔をじーっと見て話し始めた。
そして……男性の横に置いてある空のカバンを見て言った。
「そっか…………そりゃ大変だったな……その話本当だよな?本当なら可哀想だから待ってやるよ」
何か言いたげな顔をしている……
「ハイ!!本当です!」
自信満々に答える男性。
「ふーーーん」
すると……………………
「……これ見して!!」
そう言うと女の子は男性の横にあるバッグを横取りした。
ガシッ!!
「あっ!!ちょっと!!」
男性が抵抗するがバッグは女の子に奪われた。
女の子はバッグを漁る。
おいおい。バッグは何も入って無かっただろ?
さっき見たじゃないか?
女の子はバッグを念入りに調べ始めた。
すると…………
「………………!!やっぱり!!みーーーッけ!」
そう言うと女の子は男性の方を見てニヤっ笑った。
「あれれ~~??金が無くて食べる物にも困ってたんじゃ無かったっけ~??」
女の子はわざとらしく男性を見てニヤニヤ笑っている。
すると……
女の子は空の筈のバッグを床に置いた。
ドンッ!!!
ずっしりとした音がした。
えっ??ドンッ?
空のバッグから聞こえる筈のない音だ。
バッグの中身が見えた………………
なんと!!!
バッグの中敷きの下に大量の金貨が入っているではないか!!
「え………………いや…………その…………なんで?!バレる筈無いのに……………………この金で、これから『ゴブリンファイト』で一儲けしようと思ってたのに!クソッ……」
慌てふためく男性。
え?
めちゃくちゃ金貨入ってんじゃーーん!!
見た感じ……ちょうど50枚くらいだろうか。
それで払えばいいじゃん?何故ウソをつく?
とショウタは心の中で思った。
「…………おかしいと思ったんじゃよ。事務所に入って来る時は、バッグに何か入っていると思っていた。だっておぬしがバッグを持っている時、肩が下がっていた。その下がり方からして何か重い物を持っている感じじゃった。しかし、おぬしがバッグを開けた時はバッグは空じゃった。怪しかったが、最初はそこまで気に止めて無かったが、おぬしが言い訳を必死に語る時に確信したよ。バッグに何か入ってるのを隠してるなコイツって…………調べてみたら案の定じゃよ。まさかこんな原始的な方法だったなんてな……まぁ金があれば問題無い」
「ヒッ!…………すみません……」
女の子に見破られ観念したのかすんなり金貨を支払う男性……
※ちなみに『ゴブリンファイト』とはパラディソスで流行しているギャンブルだ。
闘技場でゴブリンを一対一で闘わせ、どちらが勝つか賭けるものだ。
熱狂的なファンが多数いる。富豪の中にはゴブリンオーナーになってゴブリンを育成し豪華な装備を与え競わせるのが流行っているらしい……
まぁ馬主みたいな感覚だろうか……知らんけど。
「まったく……手間かけさせおって……」
女の子は金貨を数えている。
「…………」
男性は無言で下を向いている。
「……48……49……50!はい!ちょうど50枚じゃな!まいどあり!」
机の上に金貨を並べている。
「………………」
男性は無言で肩を落とし、事務所を去っていった。
「金貸して欲しかったら言えよ~……あいつは良いカモだよ。悪銭身に付かずとはよく言ったもんだ」
女の子は事務所を後にした男性の後ろ姿にヒラヒラ手を振りながら言った。
…………それにしても全然気付かなかった。
バッグの下に隠してたんだな……
あるならさっさと出せば良かったのに。
なんか……男性に同情していた自分が情け無い。
ギャンブル中毒は怖いな……
まぁいいや……
さっ!終わったから早く面接して欲しいな……
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