第3話 お腹が減って死にそうだよ。ヤバいよ。ヤバいよ。


「ふわぁ……………………腹へった…………」


眠い目を擦りながら重い身体をゆっくり起こす。


窓ガラスに映った自分の顔が見えた。


髪はボサボサ、目の下にはひどいクマが出来、覇気が無い。

とても10代とは思えない……心は30代だが……


「ひどい顔‥‥‥」


見た目は子供!頭脳も子供!その名は………………

迷探偵ショウタ!!キラーン!!ってか?…………

つまらん…………あーつまらん。非常につまらん。


いかんいかん!!


ふざけている場合では無い!!


転生して一年、今が一番ヤバいかもしれん。


そう!


「は・ら・へ・り」


ただの腹減りではなく、重度の腹減り。

おへそと背中がくっつきそうという表現は、この事なのかと思う……



2日まともに食べていない。


最後に口にした食べ物は落ちていた腐ったパンだ。

スラムに落ちていたのを拾って食べた。


そのせいだろうか……


頭痛や身体のだるさがヒドい。


もはや空腹なのか体調が悪いのか分からなくなってきた。


…………流石にしんどいな……


空腹感を紛らわせる為、水を大量に飲む。

ゴク……ゴク…………ゴク………………


「ふぅ…………気持ち悪い……」



俺には家は無い。いつも路地裏のスラム街で寝泊まりしている。この生活を半年している。ホームレスも板についてきた。


そろそろギルドへ行くか。


ギルドは街の中心にある。スラムからは少し離れている。

毎日早朝ギルドへ歩いて行くのが日課だ。

俺が寝泊まりしているスラムからは歩いて15分程だ。


見慣れた風景だ。今では特に感動も無ければ、驚きも無い。慣れとは恐ろしいものだ。


中世ヨーロッパのような街並み。

石畳の道路。街の中央には、昔に街を救ったと言われている英雄の石像が立っている。

剣を掲げたイケメンだ。

ニッコリ笑っている。なんか嫌い……


くそがッ!!ニヤニヤしやがって……


いかんいかん……腹が減ると心が荒む様だ。


物言わぬ石像に当たってもしょうがないのに。


「うっ…………汚いわね……」

通りすがりのマダムが俺を見て鼻を抑える。


道を歩いているといつもこうだ。まぁ……俺は相当臭うのだろう。


まぁ……臭い俺がいけないのだ。


でもな!!おまえも化粧と香水の匂いがキツ過ぎるんだよ!!


あー……荒んでるな俺……




そんなこんなでギルドに着いた。


ちなみにギルドとは、冒険者に仕事を斡旋してくれる場所だ。ハローワークみたいなもんだな。

まぁ説明する必要は無いか。



見飽きた外観。


見飽きたドアを開ける。


見飽きた受付を横目に掲示板へと向かう……


――ギルド 掲示板前――


周りには同じようなボロボロの装備の冒険者が立っていた。


掲示板の前には結構な人だかりが出来ていた。掲示板を覗き込む。


「俺が出来そうな仕事はあるかなーっと……」


全然無い……


見飽きたよ。この光景……

いつもじゃん!


残っている依頼といえば……

高ランクのダンジョン攻略や強力な魔物退治だ。

Cランクパーティぐらいじゃないと無理だ。

単独ならBランクぐらいは必要だろう……

誰がコカトリスやドラゴンなんて倒せるんだよ……


E~Gランク任務なんてここ最近見てないぞ。

どうなってんの?


俺のスキルで出来る依頼なんて一つも無い…………


個々の強さは全て「スキル」と「資金力」に左右されると言っても過言では無い。

スキルが実用的であれば依頼も達成しやすいし、資金力があれば強力な装備を手にして冒険を有利に進められる。

この前出会ったシンノスケは恐らくスキルに恵まれていたのだろう。


……俺はどちらも無い。

まず、スキルについてだが、

大まかに「戦闘」「生産」「その他」に分類される。

『戦闘』は字の如く戦闘向きのスキルだ。

例を言うならば単純に剣の扱いが上手かったり、攻撃、補助魔法が使えたり所謂、戦闘に特化したスキルだ。


『生産』は何かを生み出すスキルだ。戦闘に特化したものではないものの、スキルを活かして一花咲かせることが出来るスキルだ。

主に鍛治、錬金術、符呪、といったスキルだろう。他にも数え切れないほど存在するらしいが俺は知らない……

「鍛治」は剣や盾、鎧といった装備を作り出すことが出来る。

「錬金術」はポーションや身体強化薬などを錬金することが出来る。

「付呪」は道具に魔法を付与することが出来る。


どれも魅力的だが、個人的には「付呪」があるやつなんて羨ましい。

それは符呪装備は、べらぼうに高く売れるからだ。


例えば一番安いこの弱いショートソードも見違える様に強くなる為、価値が跳ね上がる。

ショートソードの1本価値は銀貨1枚だ。

しかし、符呪を施せば最低でも金貨1枚にはなる。

銀貨10枚で金貨1枚だから単純に10倍だ。


俺みたいな弱小スキル持ちは「付呪装備」で身を固めれば、ある程度強くなれる。


自分で「付呪装備」作って装備も出来るし、売ることも出来る。羨ましいスキルだ。


符呪スキル以外でも生産系は便利だ。鍛治スキル、錬金スキル……色々あるが、自分で何かを生み出せるスキルなのだ。

生産系は何より金が稼げる。作って売ってを繰り返すだけで金が貯まる。羨ましい。


「その他」はそれ以外。

俺のわけわからんスキルがこれだ。全く役に立たない。

ちなみに俺のレベルは2だ。

ザコモンスターが全然いないから全くレベルが上がらない。

たまに出てきたやつを死に物狂いで倒した事があるくらいだ。

スキルもレベルも弱いからパーティにも誘われない。


スキルを活用した仕事は「迷子の子供や老人」を見つけることぐらいだ。


しかもそんな頻繁に迷子は出てこない。

最近の迷子探しは2ヶ月前だ。




「資金力」については……

その名の通り金だ。金が無いと装備が買えない。

冒険者にとっては装備が命だ。装備が整っていれば生存率が上がる。

例えばショートソードを新しく買えたとする。

今までのぼろぼろのショートソードが新しいショートソードに変わるのだ。

単純に壊れづらくなる。

まぁ……当たり前の事だ……。


そうすれば今までゴブリン1体を相手にするのが限界だったのが、2体以上を相手に出来るかも知れない。

まぁ……大して変わらないが。

それでも今よりはマシだ。


この様に当たり前の事だが、金は大事だ。


俺は資金力も無ければ、スキルも弱い。


だから出来る仕事と言えば専ら掃除だ。

死体を掃除するのが俺達弱小スキル持ちだ。

もう死体掃除ばかりだ。


しかし今日は、それすらも無い…………

ヤバい。金が無い。どうする?

二日何も食べてないぞ。ふらふらしてくる。


パン屋行って盗むか?

いや……ダメだ……パン1個でも捕まる。 


捕まったら一生奴隷だ。

犯罪で一番多いのは窃盗。パン盗んでも奴隷だ。

次が殺人。殺人で捕まったら死刑だ。


単純だ。殺人以外奴隷って厳しすぎだろ。


でもそれも良いか…………

毎日毎日何の為に生きているのかも良く分からなくなってきた。

奴隷になったってご飯は食べられる。

正直今の生活よりもマシかもしれない………………


そんなことを考えながら、ふらふらとパン屋の前に着いた。

さぁ……やるか……


パン屋に入ろうとした。

するとパン屋の外壁に貼り紙が貼ってあった。


『即日融資!無担保無保証!金貨10枚まで無利息キャンペーン!!

ご来店お待ちしております!


【求人情報】

スタッフ募集中!明るくアットホームな職場です。

初心者大歓迎です!やる気さえあれば採用!!

月額給与、金貨10枚~、経験、年齢に応じ社内規定により決定致します。

ご応募お待ちしております。


プリティファイナンス 担当 クルス』


あぁ……この前、顔に張り付いた貼り紙だな。

ん?なんだ?


前はよく見て無かったが……求人情報?こんな事書いてあったのか。全然気付かなかった。

ま……俺には関係ない…………借金取りなんか誰がやるか…………俺は冒険者だぞ!!


ふらふらになりながら、貼り紙を捨てた。


ポイッ!!


「………………」

黙り込むショウタ。


ふと思った。

俺は、ついさっきまでパンを盗もうとしてた最低な人間だ……


借金取りなんか?

何を言っているんだ俺は?

今の俺の仕事なんか、良くて死体掃除じゃないか?

偉そうにそんな事言えるのか?

それで冒険者って言えるのか?言えないだろ?


今の俺は金も無い……仕事も無い……家も無い……

あるのは、変なプライドだけじゃないのか……


何の為に意地を張ってる?


冒険者に、こだわって仕事が無くて慣れの果てがパン泥棒?


ダメで元々だ。行ってみるか。ちょうどここから近そうだ。門前払いされたら諦めたら良い。

『プリティファイナンス』か。変な名前…

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