第19話  「………またねおチビちゃん……」

※前回のお話し※

クルスとショウタはアンナが囚われている廃城へ着く。

アンナは玉座の間に囚われていれしい。

アンナはイザベルに血を吸われ弄ばれていた。

イザベルはアンナの血を気に入り我慢出来ず襲いかかろうとした瞬間、突然ドアが開いた。




――廃城――玉座の間


バタンッ!!!

「どーーーーーーんッ!!!!」



突然ドアが全開になった!!!

イザベルとアンナはドアの方を見る。


「あれ………………お取り込み中?」

クルスだ。今まさにイザベルがアンナに襲いかかろうとしたタイミングで勢いよく入ってきたのだ。ナイスタイミング!


「………………チッ…………」

イザベルは小さな声で舌打ちをした。


……ショウタも離れたところで恐る恐る様子を見ている。



「………クルスちゃん……どうしたの?こんなところまで?一人で来たの?危ないじゃない」

イザベルがクルスに向かって言う。白々しい……


「……はっ……もう演技しなくても大丈夫じゃぞ。シスターイザベル、いやバンパイアのイザベルよ……」

吐き捨てるように言うクルス。


「……あらあら……バンパイア?何の事?冒険者ごっこかしら?アナタが勇者役?……オホホホ……」

クルスを小馬鹿にしている。


すると………………

「いいな!それ!ワシが勇者じゃ!!お前は魔王役な!設定は………………そうだな……最強超絶プリティの勇者クルスちゃんが、作り笑いがぎこちない、しわくちゃお化けの怪物シワクチャンを倒して、攫われた借金まみれのクソ姫を助けに来たシーンじゃな!!うん!いい!いいぞ!ノッてきた!!」

クルスは目を輝かせている。


なんじゃそりゃ……

しわくちゃお化けのシワクチャン………………

なんてネーミングセンスだ……

なんて緊張感の無い人だ……ふざけてないで早くアンナさん助けろよ!

とショウタは思った。自分は安全なところから見ているだけだが……


クルスのおふざけは止まらない……


「そういや…………剣が無い…………光の剣!勇者と言えば剣じゃ!伝説の剣BBA(ババア)キラーじゃ!」

クルスは、落ちていた木の棒を拾い、雷を纏わせ始めた。


バチバチバチ……バチバチ……

木の棒は電気を帯びてとてつもなく光っている。


ブゥン!!ブゥンッ!

電気を帯びた木の棒を振るクルス。

振る度にライ○セイバーのような音を出ている。


「あははは!いい感じじゃ……良く切れそうじゃ!!」


「は?」

イザベルは、その光景を見て目を丸くしている。

クルスがふざけている事よりも、おもむろに使用した魔法が気になっている。


なにあの魔法?ただの木の棒に電気を帯びさせて超高熱の剣を作り出したとでもいうの?

バンパイアのわたしでも、見た事ないわ……

しかも……あの子、魔法出す時、詠唱した?

まさか……無詠唱?フッ……ありえない……ありえない……人間で無詠唱出来るヤツなんてS級クラスの冒険者くらいよ。S級なんてこんなところにいる訳ないもの……

バカバカしい……どんなトリックか知らないけど、凄い手先が器用なおチビちゃんってところかしら。


イザベルはクルスを手品師か何かと思っているらしい。




ブゥン!ブゥン!

クルスは木の棒を振り回して無邪気に遊んでいる。

「ほっ!…………やっ!……そりゃ!」


ジュッ…………………………

木の棒が触れたところが赤く熱せられて焼けている……

「あ……やべ……焼けちゃった!……家主さんゴメンよ」

クルスは、誰と話しているのか分からないが謝っている。


まぁ……良い。どうでも良いわ……さっさと片付けて、アンナちゃんの血を飲まなきゃ……この子はデザートくらいにはなるでしょ……


あー鬱陶しい…………


イザベルはクルス目掛けて襲いかかった!


「死になさいッ!!!」

ヒュン!!


ショウタが叫ぶ!

「危ない!!!!」






ボト……………………




腕だ…………キレイな指の腕だ…………




「え?………………」

イザベルが止まる……


「ほら…………言わんこっちゃない……」

ショウタが頭を抱える。


「あらら…………ワシは悪くないぞ!!振り回してたら……イザベルが向かってくるから…………知らないよワシは……お前が悪いんじゃからな!!」

クルスがイザベルに向かって怒る。


イザベルは自分の腕をそーっと見る………………

「ぎ……ギャァァァァァ!!わ……わ……わたしの腕が…………な……なんで?……全く見えなかった……」

イザベルは腕を押さえながら理解出来ないといった表情を浮かべている。

痛みを必死に堪えているのか滝のような汗が出ている。




クルスがイザベルに近寄って呆れた表情で言った。


「全く…………段取り守ってくれよ。イザベル。お前は魔王役なんじゃ!ワシが考えてた段取りはな、まず、ワシがセリフを言ってから切る。『魔王覚悟~!!姫を返すんだ~!!』みたいな?しかし、魔王は強すぎて歯が立たない。『あー魔王!強すぎる~どうしよう~』クルスちゃん絶対絶命のピンチ!するとクルスちゃんが突然光り輝き覚醒する。善なる精霊の力により覚醒したクルスちゃんは圧倒的なパワーで見事魔王を打ち滅ぼし、姫を救出する。みたいなさー!そんな流れを考えてたわけじゃ!なのに、イザベルときたら、段取り説明する前に『死になさいッ!!』とか言ってちょっとカッコつけて…………ププ……襲いかかってきちゃうんじゃもん!しかもワシがBBAキラーを振り回してる時に向かってくるんじゃもん。腕無くなってんじゃん魔王イザベル~。腕無かったらワシがイジメてるみたいじゃん。勘弁してよ。もう色々ビックリじゃよ。ワシビックリ……」

クルスは長々と話し始めた。やれやれといったポーズをしている。


なんてやつなの………………

ありえない……ありえない……ありえない……ありえない……わたしは、バンパイアなのよ……高貴なバンパイア……しかもただのバンパイアじゃない。バンパイアロードなの!!


魔界でバンパイアを根絶やしにされてから人間界に潜入してしもべを増やそうと思っていたのに………………

クソがッ………………なんなの…………このガキは……


腕を押さえて必死に耐えているイザベル。

クルスを睨みつけている。イザベルの腕からは、紫色の血がポタ……ポタ……と落ちている。


クソッ………………

一旦、形勢を立て直さなきゃ…………

傷が深すぎる……

ウッ!!


バサッ!!!

なんと!イザベルの背中から黒い悪魔の様な翼が現れた。


バサ……バサ……バサ……

飛び上がるイザベル…………


「……………………またねおチビちゃん……」

イザベルは捨てゼリフを残し飛び去ろうとした。


ヒュン!!!


バコーーーーン!!!

イザベルは急に落下した。しかも思いっきり……


「………………う……うぐぐ…………な……何これ……身体が動かない……」

イザベルは落下した場所で動けずにいる。何かに押さえつけられているようだ。


「ワシからは逃げられんぞ…………ロードもこんなもんか…………質が下がったのぅ。昔はもっと骨のあるヤツが多かったぞ。おぬし弱すぎ。ワシほとんど何もしてないもん。今は重力魔法で押さえつけてるがな。こんな低級魔法で屈するようなザコに貴重な時間が奪われたと思うと何だか腹が立ってきたな………………殺すか……」

クルスは、そう言うと冷たい目でイザベルを見下した。

さっきまでふざけていたクルスとは別人かのような冷たい目をしている。


クルスの指先に太陽のような真っ赤な炎が浮かんだ。


「これは地獄の業火じゃ。ゆっくりゆっくり燃えていくぞ。しかも肉体が無くなっても尚燃え続ける炎じゃ。お前らバンパイアは肉体を再生するからのぅ。再生力が無くなるまでずっと焼かないと復活してしまうからな。じゃあなイザベル。ワシをこけにした罰は高くついたな」


クルスはイザベル目掛けて指先の地獄の業火を放とうとした。


「ヒィ!!!!」

イザベルは目を閉じて死を覚悟した。


……次の瞬間!!



「待って下さい!!!」

ショウタがイザベルの前に立ち塞がった。



「ん?なんじゃ?カス?そのババアバンパイアに惚れたか?」

クルスはイライラしている。


「違います!…………イザベル殺したら金貨200枚はどうするんですか?どこにあるか分からないのに殺しちゃったら今まで必死になってここまで来た意味が無いじゃないですか!!殺すのは金貨の在処吐いてもらってからにしましょう!」

ショウタは爽やかな笑顔で言った。


「……………………」

イザベルはショウタを見て黙っている……


「…………お前…………笑顔でよくそんな事言えるな…………まぁ……いい……確かにお前の言う通りじゃな……やれやれ」

クルスはショウタの言い分を聞いて納得した。


ショウタはクルスに『イザベルの腕が治るまでは金貨の在処を聞くのは待とう』と提案した。クルスはお人好し過ぎると反対したが『どこにいても俺のスキルで見つけるから問題無い』と言い、なんとかクルスを説得した。


イザベルは命を救ってもらったショウタに感謝しきりだった。クルスからは『お前は甘い!魔物に優しくするヤツなんて見た事ない』と言われたが気にしなかった。


クルス達はアンナの縄を解くとアンナとイザベルにヒールの魔法をかけた。


アンナは最初はイザベルを怖がりどうしようも無かったがショウタが『アンナさんの借金が帳消しになるにはイザベルに生きてもらわないといけない』と説得して嫌々納得した。


そして、クルス、ショウタ、アンナ、イザベルの四人はグレテンシュタイン伯爵とセーラが待つ聖フランシス大教会へと帰るのであった。


※1章もうすぐ終わるよ!

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