最弱スキル持ちと最強幼女の金融屋さん

冬来ノース

0章 惨めな冒険者編

第1話 異世界に転生したよ。イメージと違ってたよ。


自殺……事故死……病死……殺人……

社会の冷え込みに呼応する様に現世は死者で溢れていた………………


世は大転生時代!!

人々は前世に未練、後悔を残し、不運な死を遂げた後には、必ず幸せが待っていると信じて疑わなかった。

何故なら………………「TENSEI」出来るから!


死後はおとぎ話の様な異世界に転生し素敵な生活が待っている……


転生者達はスキルをフルに活用し、異世界で第二の人生を満喫出来る!!



物語の舞台は、異世界「パラディソス」

中世ヨーロッパ風な世界。

剣と魔法のファンタジー……

これぞザ・異世界!!!

いや……ジ・異世界…………………………





――パラディソス――とある街のギルド掲示板前――


「ハァ…………今日もか………………」

男が深い溜息をついた。



俺は「トガシ ショウタ」前世では32歳。

転生2年目の転生者だ。転生後の姿は自分で言うのもなんだがイケメン、金髪の17歳の青年。

職業は、みんな大好き冒険者。


若い、イケメン、異世界、冒険者……

さぞかし順風満帆の転生ライフを送っていると思ったかな?



残念!!!

全然満喫していません!!!!

むしろ逆です!辛いです…………



ボロボロのレザーアーマーにボロボロのショートソード。

はい!!初期装備です!!

最初っからボロい装備を1年も着ています!!


何ともみすぼらしい装備……

転生して1年も経つのに未だに、こんな装備なのだ。


何故か?


お金が無いからだ!!!

新しい装備が買えないのだ!!



えっ?冒険者だったらガンガンレベル上げてガンガン稼げばいいじゃん。って?


甘い!!


俺も冒険者になりたての頃はそう思っていた。


しかし現実は甘くなかった。それは………………

「冒険者は稼げない」…………だ!!


正確には、新米冒険者は全然稼げないのだ。



説明しよう!!


転生すると……皆が取る行動は大体同じだ。

まずは、森から始まり、ギルドに行き、お約束の冒険者になりたがる。


そして最初は薬草集めたがる。一番簡単なクエストが薬草集めだからだ。

慣れてきたらゴブリンを倒したくなる。ゴブリンが一番弱いからだ。


何故か可愛い女の子のハーレムパーティで旅に出たがる。

(これは関係ない……単純に羨ましい……)


「薬草集め→ゴブリン退治」この鉄板の流れで大抵の冒険者はレベルを上げる。

今まではこれで良かった。


しかし……

俺が転生した頃ぐらいから転生する者が急激に増え出した。

それ程皆、現実世界が辛かったのだろう…………

異世界パラディソスは転生者で溢れ返っていた。


そうするとどうなるか?


冒険者が増え過ぎた結果、今までは貰える報酬が冒険者過多により貰えなくなったのだ。

「そんなに薬草はいらない」

「ゴブリン退治はそんなにいらない」

初心者冒険者が薬草集めたり、ゴブリン倒しまくった結果、薬草は刈り尽くされ在庫で溢れかえる。

ゴブリンは激減し、全く出現しなくなる。そして村は襲われる心配も無いから依頼も無い。


故に簡単な仕事が無くなってしまった……。


薬草集めやゴブリン退治は、あくまで一例だ。

ネズミ退治やお使い依頼などの簡単な依頼も同様にすぐに無くなる。


需要と供給のバランスが崩れてしまったのだ。


そうすると、残る依頼内容は初心者では到底達成出来ない様な難易度高めの依頼ぐらいしか残っていない。

当然レベルの低い冒険者はそんな依頼、達成することが出来ないのはもちろん受けることすら出来ない。


ゆえに仕事が全然無いのだ。稼げない…………

そんな負のループにハマって抜け出せずにいた。


そうして稼げない初心者冒険者はゾンビの様にいつまでも最初の街でウロウロしているのだ。


俺も、そのゾンビの一人だ。

たまに回ってくるのは誰もやらない様な汚い仕事。

ドブ掃除や死体掃除。

しかも貰える報酬は雀の涙程の僅かな報酬のみ……これ1回じゃパンも買えない……

何度もやるしかない。

ほとんどボランティアだ。

しかし弱小冒険者にはそんな仕事しか残ってないのだ。


毎日生きるので精一杯。

落ちている腐ったパンを食べ、身悶える日さえある。



なんか………………前世より酷くないか…………

「はあ……」

俺は、もう一度深い溜め息をついた。


ギルドを出てしばらく歩いていると、前から見た事のある顔……


あれ?あいつ?

同じ時期に転生した「アダチ シンノスケ」だ!



シンノスケは高そうな装備を身に付けている。

しかもよく見たら可愛い女の子と一緒に旅をしているではないか?

なんだよアイツッ!!くそッ!

ショウタは心の中で叫んだ。


おっといけない……

見つからない様にしなくては。こんな惨めな姿見られたら恥ずかしいからな。


小心者のショウタは気付かれまいと咄嗟に身を隠した。



すると…………


「あれ?きみ……ショウタくんじゃない?久しぶり!」

シンノスケが声を掛けてきた。


ビクッ!!!急に声をかけられ焦った。

普通に気付かれた………………


「あ……ぁぁ。久しぶり」

ショウタは、オドオドしている。


「本当久しぶりだね!!転生した時以来じゃない?今何してるの?」

無邪気に聞いてくるシンノスケ。


「いや……まぁ……冒険者」

頭をポリポリと掻きながら話すショウタ。シンノスケとは目線が合わない。


「ふーん……ランクはどれくらい?」

シンノスケはショウタの装備をチラっと見ながら言った……


「えっ?…………えっと……Cかな……」

もちろん嘘だ。


※冒険者はランクというものがある。S~Gまでだ。

上からS⇒A⇒B⇒C⇒D⇒E⇒F⇒G

Sなんて存在するのか分からない勇者級だ。

Aは英雄級。Bは聖騎士級。Cは騎士級。Dは戦士級。Eは兵士級。Fは新人級。Gは農民級


ちなみに俺はGだ。新人にもなれていない。

普通は依頼をこなせば等級は上がると思われるが、この世界ではギルドが指定した依頼を達成しない限り、等級は上がらない。


ショウタがいつも受けている依頼は、死体掃除やドブ掃除ばかり。これらは等級が上がらない。

故にいつまで経っても等級は最底辺のままなのだ。


「C!?すごいな!?僕もCだよ!!それじゃ何処かの依頼で、また会うかもね!その時は宜しくね!」

Cだと?シンノスケがC?ショウタと同時期に転生し同時期に冒険者になった筈なのに、等級が遥かに上…………。


「う……うん」

ああ、虚しい。


「ねぇーん。早く行こうよーーシンノスケー!みんな待ってるわよ~~!!」

近くにいたかわい子ちゃんが痺れを切らした。


「あー!!そうだった!そうだった!ゴメン!ショウタくん。今度ゆっくりご飯でも食べようよ!じゃあね!」

爽やかな笑顔だ。


「うん」


シンノスケと連れのかわい子ちゃんは去っていった。





去り際にシンノスケ達の会話が聞こえてきた。

「ねぇ……あの人と知り合いなの?」

かわい子ちゃんは不思議そうにシンノスケに尋ねる。


「あー……昔ね。でもアイツ『ランクC』らしいよ。」



「え!!ウソでしょ?」

かわい子ちゃんが驚く。


「うん、俺もそう思う。あんなきったない装備でCなんて無理無理。Cランク舐めんなって感じ」


「ウケる。シンノスケひどくな~い?可哀想だけど嘘だってバレバレだよね。何でバレるウソつくのかな?」

かわい子ちゃんは笑いながら話す。


「さぁ?……プライド高いんじゃない?可哀想に……」



「シンノスケ酷すぎー!でも大好きー!」

胸をシンノスケの腕に当てアピールする。


「こらこら~!まだ昼だぞ!ワッハッハ」

シンノスケがビッチのほっぺにツンツンする。


「やだーもー!キャハハハ」


二人はバカみたいに大笑いし去っていった。



うぜー!!!ウザすぎる!!

全部聞こえてんだよ!

何が「こらこら~」だよ!!

クソがッ!!

昼間っから公衆の面前でイチャコラしやがってコラ!

こっちがコラコラって言いたいんだよコラ!!



「爆ぜろ!爆撃魔法!!エクスプロージョン!!!」


ドッカーン!!!!


「キャー!」

「うわー!」


「くくくッ……バカめ!」

※ショウタはしばらくシンノスケ達が爆発する妄想をして一人でニヤニヤしていた。

※ショウタは魔法は一切使えない……



「やだ……何あれ……ヤバくない?」

「きも……」


ちょうど町の娘、二人組ギャルが横を通り過ぎた。

ショウタの不気味な笑みにガッツリ引いている。



み……見られた……

あぁ…………恥ずかしい…………



まぁ……いいや。


それにしても、シンノスケのやつ羨まし過ぎる。

何故だ!


あぁ……妬ましい!!!!


この差は何なのだ!!

話しが違うではないか!!!

俺が知っているアニメやマンガ、ゲームでは転生したらバラ色の人生が待っている筈だ!!

何故こんな惨めな思いまでしなきゃいけないんだ?!!


不公平!!

不平等!!

不公正!!


不二家!!!は??



悔しいーー!!




グニャ……


あ!………………う○こ踏んだ………………


「クソ野郎ーーーーーーーッ!!!」


香ばしいう○こ臭を見にまとったショウタの叫び声が街に響き渡った…………








「……………………」

ペロペロキャンディーを舐めている女の子が、その光景を少し離れた所から、じっと見ていた…………

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