第15話 「その話本当か?グレテンシュタイン公
クルス、ショウタ、アンナの三人はアンナから金貨200枚を騙し取ったとされるグレテンシュタイン伯爵の屋敷に来ていた。
伯爵はクルスの名前を聞くなり、すんなりと屋敷の中に招き入れたのであった。
――グレテンシュタイン邸 応接間――
「……それではご用件を伺います」
神妙な面持ちで伯爵がクルスに尋ねた。
「……実はな、このアンナがなー、アホテンシュタイン公に金貨200枚を騙し取られたと言うんじゃ、まぁ正確にはワシから借りた金貨200枚じゃがな……んーうまー!!」
クルスがテーブルの上のお菓子を食べながら、屋敷に来た経緯を話した。
「………………グレテンシュタインです」
伯爵はプルプル震えながら静かに名前を訂正した。明らかに怒りを堪えている。
「え?………あ……すまんすまん…………間違えた!あははは!お菓子最高じゃなーあははは」
笑って誤魔化すクルス。目が泳いでいる。
「いえ……大丈夫です。それはそうと、先程仰っていた私がアンナさんから金貨を騙し取ったという話はどういう事でしょうか?申し訳無いのですが、身に覚えがありません…………」
伯爵は、クルスの言っている意味が分からず、困惑した表情をしている。
「………………ください……」
アンナは下を向きながらブツブツ何か言っている。あまりに小さな声の為、聞き取れない。
「え?…………どうしたのアンナさん?」
横に座っていたショウタがアンナに尋ねた。
すると………………
ガタンッ!!
アンナが急に勢いよく立ち上がった。
「え?」
「は?」
「ん?」
クルス、ショウタ、伯爵は急に立ち上がったアンナに驚いた。
クルスは危険を察知し、サッと紅茶カップとお気に入りのお菓子を手に取った。
「あぶな……」
アンナが勢いよく立った拍子にアフターヌーンティースタンドは倒れ、お菓子は散乱してしまった。
すると……アンナが……
「……返して下さい!!わたしのお金!!あなたがわたしのお金取ったんでしょ?!早く返して下さい!!」
アンナは動揺しているのか伯爵を問い詰める。
「…………いや……ワシの金…………」
クルスは、何とか溢れずに死守した紅茶をちびちび飲みながらボソッと呟いた。
「ちょっと!!落ち着いて下さい!!一旦座りましょう…アンナさん!!」
ショウタは急に立ち上がったアンナを落ちつかせようとするが、力が入っているのかびくともしない。
おいおい……
気持ちは分かるが、落ちつけよ‥‥
「…………えっと……アンナさん。私には何の事かサッパリ分かりません。わたしがあなたを騙すメリットがどこにありますか?わたしは自分で言うのもおかしいが貴族だ。お金には困っていない。私がそんな事をする必要はないでしょう?!」
グレテンシュタイン伯爵は慌てた様子で必死にアンナを説得をしている。
伯爵の目は真剣そのもので決して嘘をついているようには見えなかった。
確かに……貴族である伯爵がアンナを騙してまで金が欲しいとは考えにくい。
伯爵が言った様にメリットは無い。
しかし、アンナが言うには、伯爵が仕組んだ一連の動機は『セーラに教会を辞めさせる事』の筈だ。
すると……
「……とぼけないで下さい!!あなたは、セーラに教会を辞めさせる為に金を借りて来いって言ったじゃないですか?私は貴方が直ぐに完済してくれるっていうからやったのに…………こんな大金……私が一生かかっても返せない…………えぐッ…………うぐッ……ズズー」
アンナは必死に訴えるが、急に自分の状況に悲観し泣き出してしまった。
「……………………私がセーラに教会を辞める様に仕組んだ?!ちょっと、それはおかしな話です。アンナさん聞いて下さい。セーラを教会に入れたのは私です」
伯爵は泣きじゃくるアンナに優しく語りかけた。
「え?」
「は?」
「ん?」
アンナ、ショウタ、クルスの三人は驚いた。
どういう事だ?
話しが違うじゃないか?
伯爵とアンナは、静かに座った。
「その話本当か?グレテンシュタイン公よ」
クルスが伯爵に尋ねた。
「はい。本当です。セーラは以前は優しい子でした。しかし、1年程前から様子がおかしくなりました。家にいるとイライラすることが多くなり気に入らない事があると癇癪を起こす事もありました。見かねた私は近くの聖フランシス大教会にセーラを連れて行き、シスターイザベルに診てもらいました。すると、シスターは『セーラは呪われている。悪い気が身体に溜まっているからそれを抜かないといけない。教会で身体を清めれば良くなるはず。だからしばらく教会でセーラを預かるのはどうでしょうか?』と提案してきたのです。私はすぐに了承しました。そして、セーラを教会に入れたのです」
伯爵は静かに語った。
それを黙って聞いていたクルスが口を開いた。
「そうじゃったか‥‥‥おぬしも色々と大変だったのぅ。でもこれで何となく分かったわい。後は実際に見て判断するしかないのぅ」
クルスは、ニヤっと笑った。
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