第16話 クルスの正体?は?何それ?


※前回のお話※

アンナを騙したとされるグレテンシュタイン伯爵の屋敷に行った三人。

伯爵は、金持ち貴族である自分がアンナを騙す理由も無い。そして、セーラを教会に入れたのは自分だと言った。

セーラは以前より癇癪を起こすなどして情緒が不安定であった。見かねた伯爵は聖フランシス大教会のシスターイザベルに相談。

イザベルから『セーラは呪われている。しばらく教会で浄化が必要だ』と言われ教会に入れた。

その為、アンナがグレテンシュタイン伯爵?から言われた様な『教会を辞めさせる為』といった話は、ありえないとの事だった。


そして……その話を黙って聞いていたクルスが突然何か閃いた様だった。




――グレテンシュタイン邸 応接間――


「何となくわかったぞ!まったく手間をかけさせおって!!やれやれじゃぜ!」

クルスは、やれやれといったポーズをしている。


「ほ……本当ですか?クルス様!?何が分かったのですか?」

伯爵は目を輝かせてクルスを見ている。


輝かせ過ぎだよ……伯爵……


「……あぁ!!まずグレテンシュタイン公よ。お主は嵌めらッッッぶぎゅ!………………嵌められている!!」

ドヤ顔のクルス。


あっ噛んだ……そして……言い直した……

噛んだのを無かった事みたいにドヤ顔でフィニッシュしてたけど、ガッツリ噛んでたからね。バレてるからね。

と、ショウタは思った。


とにかく、伯爵は嵌められているらしい。


「…………良かった。クルス様が言うなら間違い無いです。ホッ…………」

伯爵は胸を撫で下ろしている。


ホッ……じゃねーから。

間違いしか無いからこの嘘つきバケモン幼女は……

信用しちゃダメだから。

短期間しか行動を共にしていないけど、分かるよ。



「うむ!!では……これから聖フランシス大教会に行くぞー♪」

クルスは拳を掲げて意気揚々と歩き出した。


「え?教会?」

皆ポカンとしている。

何故教会に行くんだ。良く分からない……


まぁ……いっか……


「いいから行くのじゃ!!!行けば分かる!!!」

クルスは地団駄を踏み、イライラしている。


「あッはい!!」

ショウタは返事した。


「…………わたしも行きます!!ここまで来たら私を嵌めたヤツの顔を見てみたいもの…………でも借金が………………あぁぁぁー!!うわぁぁん!」

アンナは情緒がおかしくなっている。


大丈夫かよこの人は……

無理だろ……こんな状態じゃ……

怒ったり泣いたり忙しい人だよ……



……そして、クルス、ショウタ、アンナ、グレテンシュタイン伯爵の四人は大人しく教会へと向かった。




――聖フランシス大教会――


ギィ………………

教会の大きな扉をグレテンシュタイン伯爵が開ける。

扉が軋む音が何とも言えない……


教会の中に入ると、シスターイザベルがいた。


「あら?グレテンシュタイン伯爵!どうしましたの?あれ?クルスちゃんとお兄さんまで!後は……可愛いお嬢さんまで、どうされたの?こんなに沢山で……」

イザベルは急な珍客達に驚いている



「シスターイザベル!!!久しぶりじゃのぅ!セーラはいるか?」

クルスはイザベルに挨拶するなりセーラの所在を尋ねた。


クルスの後ろにいたアンナはイザベルを見て言った。


「…………あれ……あの人……どっかで会った事ある様な………………無いような……………………ってそうだった!わたし…………借金返さなきゃ!うわぁぁぁぁん!!」

アンナはイザベルを見て一瞬何か感じた様だが、すぐに借金の事で頭がいっぱいになり、泣きじゃくってしまった。


「…………アンナさん!大丈夫ですか?落ちついて!もうッ……しっかりしてくださいよ。借金の事は犯人がわかれば解決するんですから!」

ショウタは泣きじゃくるアンナを宥めた。



「あらあらあら……可哀想に。大丈夫よ。安心なさい。神のご加護があなたを幸福にしてくれるわ。あっちにベッドがあるから少し休むといいわ。………………えっとクルスちゃんなんだっけ?」

イザベルは泣きじゃくるアンナの背中を優しく撫でながら言った。


「シスターセーラじゃ!セーラはいるかの?」

クルスは、もう一度聞いた。



「セーラ?セーラなら居るわよ。今呼んでくるわ。待ってて。ちょっとこのお嬢さんをベッドに運んでから行くわ……えっと……クルスちゃんのお兄さん…………えっと……カスくんだったかしら?手伝って下さる?」

イザベルはアンナを抱えている。ショウタに手伝うよう頼んだ。


「あ…………はい……ショウタです…………」

ショウタは名前を訂正した。


ショウタとイザベルはアンナをベッドに横にした。


「それじゃ……わたし、セーラを呼んでくるわね……」


「あ……はい……お願いします。」


イザベルは教会の奥に行き、セーラを呼びに行ってくれた。


ショウタはクルスとグレテンシュタイン伯爵がいるフロアまで戻ってきた。


待っている間、ショウタはクルスに質問をした。

「クルスさん!!もったいぶらないで教えて下さい!あなたの悪いクセですよ!」

ショウタは怒っている。


「うるさいのぅ!!!ピーピーピーピー!ピヨピヨ」

クルスが鳥の真似をしているのか、手を羽の様にパタパタと動かしている。


「………………」

ショウタはクルスを睨んでいる。


「あっ!来たようですよ。セーラよ。元気だったか?」

グレテンシュタイン伯爵はセーラに駆け寄ると、セーラの頭を撫でようとした。


……しかし、


バシッ!!

セーラは伯爵の手を払いのけた。

「フンッ!!」

セーラは、そっぽを向いている。


「あっ!……」

伯爵は娘に手を払われ悲しい顔をしている。


「………………」

セーラは無言だ。


「どうしたんだ?セーラ。………………そうか…………やはりまだ呪いが残っているのだな……可哀想な子よ」

伯爵は哀れみの目でセーラを見ている。



「セーラよ!この前は悪かったのぅ!急にいなくなったりして。今日はお前さんを視る為に来たんじゃ……………………」

クルスはセーラをジーッと見ている。




「……え?…………クルスさん?クルスさん?何黙ってるんですか?」

ショウタはセーラをジーッと見ているクルスに尋ねる。


「…………分かった。」

クルスが呟く。


「えっ?何が?」

ショウタが尋ねる。


「セーラは呪われてなどおらん!!邪念の欠片も無い!!」

仁王立ちで自身満々に答えるクルス。


「ハァ?」

一同は驚く。


「……………………まさか……いや……でも…………クルス様が仰るのであれば間違い無いのでしょう……」

グレテンシュタイン伯爵が険しい顔つきで静かに答えた。何故か納得した様子だ。


「はい?……ちょ……ちょっと待って下さいよ。この変人の言う事を信用するんですか?グレテンシュタインさん!明らかに怪しくないですか?この人何者なんですか?!」

ショウタは興奮気味に伯爵に尋ねる。


「誰が変人じゃ!!カス!クビにするぞ!クソがッ!!」

クルスはプリプリ怒りながら一仕事終えたサラリーマンの様な顔で椅子にだらしなく座り、ペロペロキャンディーを舐めている。


「いや……実は……この方は…………あの……その」

グレテンシュタイン伯爵はクルスが何者なのか言えない様子だ。伯爵はチラッとクルスを見た。


「別にワシは構わん。ワシから説明するの面倒だから、おぬしから説明してやれ。お主から言った方が良いじゃろう。その後ワシから説明する」

何故かドヤ顔のクルス。太々しい顔をしている。何とも憎たらしい笑みだ。不信感しか無い……。


「話しても良いのですね?クルス様?」

念を押すグレテンシュタイン伯爵。


「良い良い!おまえらが勝手に決めた決まりじゃワシは特に問題無い。」

クルスはダラダラ寝転がっている。


「はい…………それではお話します。クルス様はSS級冒険者兼皇帝陛下お抱え霊能力者様で、呪法のスペシャリストです!!」

伯爵は力強くクルスを紹介した。


肩書き長い‥‥


クルスは胸を突き出しドヤ顔をしている。


「ハァ?!こんなちんちくりんが?何かあるとは思ってたけど……それと、SS級冒険者って何?S級までじゃないの?しかもS級だって世界に数えるほどしかいないんでしょ?」


ショウタは目が点になっている。


ショウタはあまりの事実に混乱している。


「はい……SS級は過去にも先にもクルス様以外、誰も到達する事の無い領域です。クルス様は異常でした。ある時は大爆発を起こし火山が生まれ、またある時は、何も無い砂漠地帯に大瀑布を作り大河が出来ました。正に規格外です。また、クルス様は優れた霊能者でもあり、霊界と通じており、誰もなし得なかった蘇生魔法まで会得されています。その為、ギルドが等級の測定が困難とし、異例中の異例として新たにクルス様の為だけに作った等級がSS級なのです。貴族などの政府関係者の一部だけにその存在が知られています。

私も最初名前を聞いた時は驚きました。ですが、名前は勿論、特徴的なエメラルドグリーンの眼と、その出立ち……すぐにクルス様本人だと分かりました!!!」

伯爵は、身振り手振りを交えてクルスの凄さを力説した。


「ワッハッハーー!!すごいじゃろ?すごいじゃろ?もっと褒めろ!そして敬え愚民ども!!ワッハッハ!」

上機嫌なクルス。


「………………」

呆れるショウタ。


話しを続けるグレテンシュタイン伯爵。


「世界広しといえどクルス様以上の霊能者はいないと言われています(※グレテンぺディア調べ)また、賢者でもあるクルス様は、全ての魔法を会得されているとも言われています。その為、クルス様がセーラの呪いは無いと言えばそれ以上の根拠は要らないのです。あー!!生きている間にお会い出来て恐悦至極でございます!!」

長々と力説した後、クルスに尊敬の眼差しを向けるグレテンシュタイン伯爵。


「ワッハッハーーーーーー!!!」

クルスは褒められて調子に乗りまくっている。


「はいはい…………良く分かりましたよ……すごいすごい。それで?それじゃシスターイザベルは何でそんな嘘ついたんですか?」


ニヤ……

クルスは不敵な笑みを浮かべて言った。


「知らん!!!!ワッハッハ!!!」

バカ笑いするクルス。


「はぁぁぁぁ??」

ショウタはクルスにキレそうになった。


その時……


横にいたシスターセーラが静かに語り出した。


「あの………………わたくし……そう言えば、シスターイザベルに変な儀式をさせられました……『ここに来たシスターは皆やってるから安心して……すぐにイライラも無くなるから』って言ってました……」

セーラは下を向いている。


「儀式?どんな儀式じゃ?」

クルスがセーラに尋ねる。


「……ちょっと……恥ずかしいですわ……」

セーラは腰をくねらせ、頬を赤らめる。

シスターゴリラ……いや……シスターセーラどうした?


「発情期か?さっさと言え!シスターゴリラ!!いや……シスターセーラ!!」

クルスは、セーラの不必要なお色気にイラッとしたのか本心が口に出てしまったが、慌てて言い直した。


「ゴリ?………………いや、えっと……まぁ……首に噛みつかれのです。突然だったのでビックリしましたわ……ポッ」

恥ずかしがるセーラ。


「な……なんだって……わたしの可愛いセーラになんてハレンチな!!!許せーーんシスターイザベル!!」

グレテンシュタインは怒り心頭だ。


「首に噛みつかれた?………………それはもう……」

クルスはニヤっと笑った。


はいはい……バンパイアね

俺でも分かるよ。

いちいち含みを持たせるんじゃ無いよ!


「…………あれ……そう言えばシスターイザベルがいないわ。私を呼びに来た後、『後でいくわ』って言ってたのに……」

セーラが不思議がる。


もしそうだったら確かに遅い。




ハッ!

…………………………その時、クルスとショウタに妙な悪寒が走った。 



クルスとショウタは、アンナが寝ていたベッドへ向かう。




「……いない…………………………」

クルスは呆然としている。


「くそッ…………イザベルに攫われた……」

ショウタは壁を殴る。


もうちょっと早く気付いていれば…………


果たしてアンナはどうなってしまったのだろうか………………

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