お買い物
行先を告げられないまま、修二は理沙の後ろついていった。数分歩いたところで、理沙はデパートに入っていた。修二もそのあとを追って、デパートに入った。
「まずは、化粧品からにしようかな。」
理沙はデパート1階にある化粧品売り場の方へ向かっていた。修二でも知っている化粧品ブランドの前で理沙がとまると、その店員さんが理沙に声をかけいた。理沙が利用しているブランドで、店員さんとも顔なじみのようだ。
「ほら、サーヤこっちに来て。こちらいつもお世話になっている、西山さん。サーヤ挨拶しなさい。」
理沙が手招きして、修二を呼んでいる。
「佐野修二です。よろしくお願いします。」
「最近は男性も多いから、歓迎ですよ。」
男が化粧品を買いに来て不審がられるかと思ったが、そこはプロ意識でそんな様子をおくびとも見せずに答えた。しかし、男という単語が周りのお客さんにも聞こえたのか、一斉に注目を浴びてしまった。
修二は促されたまま椅子に座り、西山さんが修二にメイクを始めた。
「お客様の肌質ですと、ファンデーションはこの色合いの方が似合いますね。」
「アイラインはこんな風に目じり側を少し下げて書いたほうが、タレ目っぽく見えてかわいく見えますよ。」
西山さんが、プロらしくメイクのアドバイスをしてくれる。メイクがすすに連れ今までのメイクとは違う印象になり、男っぽさが消え女性っぽくなっていく。
一通りメイクが終わった自分の姿に思わず見とれてしまう。
「サーヤ、こっち向いて。」
理沙が呼んだので、そちらの方を向くとスマホで写真を撮られた。
「あとで、今の動画と写真送っておくから、家でも練習しておいてね。西山さん、一式買ったらいくらになる?」
西山さんが電卓で計算したのち、電卓の画面を理沙に見せていた。高いとは思っていたが、想像以上の値段に驚く。
「じゃ、クレジット一括で。」
理沙は驚いた様子もなく、クレジットカードで精算をすませた。
「次はそろそろ夏物の季節だし、、服を見に行こうか?」
理沙はエレベータで3階の婦人服売り場に移動したのち、目的のお店まで迷うことなく進んでいく。
「東条様、いらっしゃいませ。」
ここでも顔なじみのスタッフから理沙は声をかけられていた。理沙は店内を見て回り、いくつかスカートを選び修二の体に当てた。どれもミニスカートばかりだ。
「これがいいかな?試着してみて。」
ひざ上15cmはありそうなグレーのプリーツスカートを、修二に手渡してきた。これを履いて今日みたいに街中を連れまわされると思うと、想像しただけでも恥ずかしい。
「サーヤは何か気になるのある?」
珍しく修二の要望を聞いてきた。このままだと、ミニスカートを買うことになるので、とりあえず目についたレースのタイトロングスカートを手に取った。
「そうね、これもかわいいから着てみて。色はピンクがいいでしょ。」
ほかにも黒や紺など落ち着いた色があったが、修二の好みを聞くことなく理沙はピンクを選んだ。
「自分からスカート欲しいって言うようになるなんて、サーヤも変わったね。本当は最初から女の子になりたかったんでしょ。」
そんなわけないが、否定して理沙の機嫌を損ねるわけにはいかない。
「理沙さんのおかげで、女の子になれて嬉しいです。」
言いながら顔が赤くなるのが自分でもわかる。そんな様子をみて、理沙は満足そうに微笑んでいる。
「ちょっと休憩しようか?私、カフェラテね。」
コーヒーショップに入り、理沙は注文カウンターに行かず席の方へとまっすぐ進んでいった。修二は注文カウンターに行き、理沙のカフェラテと自分のホットコーヒーをオーダーした。その時の声で、修二が男であることに気づいた店員が驚いた様子を見せた。
コーヒーを受け取り理沙のいる席へと向かったが、店員同士ヒソヒソと話している様子だった。
「今日いっぱい買ってもらいましたけど、大丈夫ですか?」
試着後気に入った様子だった理沙は、修二は着てきた服に着替えている間に会計を済ませていた。試着の時に値札をみたが、修二がいつも着ている服の数倍はする値段だった。そうなると初日に渡されたこの服も、それと同じくらいするはずだ。理沙はお金を修二に請求してこない。修二は疑問を口にした。
「大丈夫よ。サーヤには、かわいいお嫁さんになってもらわないといけないからね。安物の服だと貧相に見えるからね。サーヤも早くこの服にふさわしい女性になってね。」
「ありがとうございます。」
「それに、お父さんにお願いしてサーヤの給料私の口座に振り込まれるようにしてもらったから。お小遣いが必要な時は言ってね。」
精神的にも経済的にも理沙に支配されていく修二であった。
「あと来週から、新入社員の調理研修が始まるから、サーヤもそれに参加してね。エプロンとかは準備しておくね。」
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