プロポーズ

 ──女装ははまる

 よく言われる言葉ではあるが、修二は身を持って実感していた。今までは家に帰りウィッグを外すと男に戻れる感じがしたが、髪を美容室でカットしてもらってからそれもなくなった。

 理沙の勧めで、脱毛サロンにいくようになり髭などを永久脱毛した。声で男がバレて恥ずかしい思いを減らすために、ネットの動画を見ながら女の子のような声を出す練習も始めた。

 街中でも男ばれすることが減ってきたが、トイレとお風呂のときだけ、自分が男であることを再認識する。他人に男とばれなくても、自分で男であることに気づいてしまう。その時がいつからか嫌に思えてきた。今では女の子でいる方が、本当の自分のような気がしてきた。

 

 お昼過ぎ、修二は石橋さんに頼まれれ領収書と経費入力があっているかをチェックしていた。

「サーヤ、コーヒー淹れて。」

 理沙から頼まれ、修二は作業を中断してコーヒーを淹れた。

「本部長、コーヒーお持ちしました。」

「この小皿のクッキーは?」

「お茶うけになるかなと思って、昨日焼いてきました。お気に召さないなら下げますね。」

「焼いたって、サーヤが?」

 理沙は、一口クッキーをかじり、コーヒーも一口飲んだ。

「コーヒーにあって、良い感じね。」

「ありがとうございます。」


「クッキー、美味しそうだな。」

 後ろから世良部長が会話に加わってきた。世良の部長の手は、修二のお尻を触っている。

「部長も私のお尻触ってないで、クッキー食べます?それとも、もう少し触ります?」

 修二はお尻を振りながら答えた。最初のころは男であるのにセクハラをうけることに屈辱をかんじたが、家族や工場スタッフのことを思えば耐えられるようになった。逆に女の子扱いされる悦びすら感じる。


「サーヤ、労災申請の書類できた?」

 デスクに戻ると、石橋さんから以前頼まれてあった仕事について尋ねられた。

「できてます。この封筒に入れてます。」

 修二が書類を渡すと、石橋さんは受け取った後、ハリセンを取り出した。それをみた修二はお尻を石橋さんに向けた。


───パッシン


 ハリセンの音がフロア中に響く。

「書類渡すときは、両手を添えてって前にも教えたでしょ。」

「はい、すみませんでした。」

 石橋さんのしつけは相変わらず厳しいが、このあと理沙から慰めてもらえると思うとまだ我慢できる。それに女性として至らなかった自分の未熟さを素直に反省できるようにもなった。


 日曜日の午後は理沙とのデートだった。いつものように少し遅れてきた理沙は、修二の今日のコーデをみてちょっと驚きの表情を見せた。

「その服、私買ってないけど自分で買ったの?」

「ネットで見てたらほしくなって、買ってしまったけど駄目でした?」

 今日の修二は、再度が別の柄に切替になっているプリーツスカートを着ていた。テレビの女子アナが着ているのをみて、自分も着てみたくなりネットで似たようなスカートが見つかったのでつい買ってしまった。

「いや、似合ってるよ。」

「ありがとうございます。」

 自分が買った服が褒められると嬉しい。


 夕日が沈むところが見たいという理沙の希望で、公園の駐車場に車を止めた。展望台まで歩いて向かう。いつも通り理沙の三歩後ろをついて歩いた。

 理沙が少し振り返って話しかけてきた。

「最初のころはスカート履いたら恥ずかしそうにしていたのに、今では自分でスカート買うようになってたし、お菓子作りもするようになったし、サーヤも変わったね。」

「この状況を受け入れるしかないと思ったら、逆に女の子になっていくのが楽しくなってきました。」

 理沙は修二の手を取り、一緒に展望台に向け歩き始めた。今までとは違う理沙の変化に修二は戸惑った。でも嬉しくて、自分の顔が熱くなるのがわかる。

「サーヤ、頬が真っ赤だよ。」

 理沙が笑顔で話しかけてくる。その小悪魔な表情がたまらない。

「そうだ、再来月に式場予約しておいたから。」

 それが理沙からのプロポーズだった。

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