サーヤの休日

 土曜日、会社は休みだが修二はいつも通り午前五時に目を覚ました。休みと言えども、理沙がいつ起きるのかわからないので、ゆっくり休んでいる余裕はない。いつも通り朝の身支度を済ませ1階に降りてトイレを済ませた後、朝食の準備に取り掛かる。

 昨日の理沙は休み前ということでワインを飲みながら海外ドラマを見ていたので、平日のように6時過ぎには起きてはこないと思うが、万が一起きてきた時に備えておかないといけない。

 一度理沙が起きた時に朝食の準備が間に合っていなかったときは、ご飯抜きのまま一日立ちっぱなしのお仕置きを命じられた。デリバリーで頼んだ食事を美味しそうに食べる理沙を、空腹の状態で立ったまま見ているのはつらかった。


 10時過ぎにようやく理沙が起きてきた。

「おはようございます。」

「サーヤ、おはよ。」

 修二の挨拶にめずらしく理沙は返事をした。修二のお尻をサッと撫でたあと、トイレへと入っていた。機嫌がよさそうなので、胸をなでおろした。


 朝の身支度を終える時間を見計らって、朝食の準備をして、コーヒーを淹れる。最初のころはタイミングを間違えて、理沙がリビングに戻ってきたときに準備が間に合わず怒られることもあったが、今は慣れてきて理沙がリビングの椅子に座るのとほぼ同時に作り上げることができるようになった。

「今日はパンケーキなのね。」

「ブランチなので多少ボリュームを持たせてみました。」

 修二は恐る恐る答えた。今日は甘さ控えめのパンケーキに、目玉焼きとソーセージにルッコラなどの野菜を添えている。

「いいんじゃない。」

 理沙は満足そうに食べすすめている。その姿に修二は嬉しさを感じる。理沙と生活をはじめて尽くすことの喜びを知った。


 理沙が買い物に行くということで、理沙の朝食が終わった後修二も急いで朝食をすませ、出かける準備を始めた。

 理沙から指定された白いブラウスとピンクのスカートに着替える。ピンクのスカートで外出は恥ずかしいが、ミニ丈でなく膝丈な分だけ良しとしよう。

 

 着替えが終わり、メイクを始めた時に下着が透けていることに気づいた。

 薄手のブラウスからは、昨日お風呂上がりに理沙から渡された黒の下着がはっきりと透けて見える。

「男だから、透けて見えても問題ないでしょ。」

 透けていることを理沙に伝えても特に気にもとめず、他の服に変えてほしいという修二のお願いは却下された。


 街中を歩くとすれ違う中年男性が、修二を見て振り返っていく。その突き刺さるような視線が痛い。

「あの人、下着透けてるよね。」

「あれ、わざとじゃない?」

 後ろの女性の聞こえがしな話し声も修二の心に突き刺さる。修二の3歩前を歩いている理沙が、コーヒーショップに入った。修二も後をおってお店に入る。


 いつもなら先に席に座って修二にドリンクを買いに行かせる理沙が、注文カウンターに並んでいた。修二は初めての事態に戸惑ったが、ひとまず席を確保しなければと思い出し、空いている席に座って待つことにした。

 数分後、トレイにドリンクをのせた理沙が戻ってきた。小さいサイズのカフェラテと、Lサイズのアイスコーヒーがなぜか3個あった。

「サーヤ、お待たせ。買ってきてあげたよ。」

 理沙はカフェラテをトレイからとると、飲み始めた。残りのアイスコーヒーが修二の分ということだろ。

「ありがとうございます。」

  修二はアイスコーヒーを受け取り、3本とも飲み干した。


「このスカート可愛いね。あっ、こっちもいいね。サーヤはどっちがいい?」

 理沙は楽しそうに服をえらでいるが、修二はトイレに行きたいのを必死でこらえていた。

「理沙さん、トイレ行きたいんですけど。」

 尿意の限界に達した時、理沙に怒られるのを覚悟で修二はお願いした。

「じゃ、行っておいで。」

 意外とすんなり許されたことにほっとして、トイレを探した。婦人服売り場のこのフロアには女子トイレしかなく、男子トイレは上の紳士服売り場にしかないようで、あわてて上の階に向かった。


 トイレに入ると紳士服売り場のフロアということもあり、男性が数名いたが気にしている余裕はなく、空いている個室に入って用を済ませた。スカートを履いた修二がトイレに入ってきたことに驚かれたが、それも気にする余裕はない。

 トイレに間に合ったことに安堵しながら、手をあらっていると横にいる男性から不審な目で見られた。

 急いで理沙のところに戻ると、理沙は小悪魔な笑顔を浮かべていた。


 アイスコーヒー3杯分の尿意は泊ることがなく、そのあとも数回トイレに行くことになった。

「サーヤ、またトイレ。本当は男子トイレで、みんなに見てもらいたいんでしょ。」

 理沙からは嘲るように言われたが、理沙の嬉しそうな表情をみてると、自分の恥ずかしさも我慢できるようになってきた修二であった。

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