第10話 前人未到

俺たちは前人未到の地下59階に来ていた。


これまでとは違い、事前情報が全くないため、慎重に行動する必要がある。


ルシアが何だか気まずそうだったのと、俺も正体がバレそうに感じてしまい、早く「月の光」と離れたくて、ついこのフロアに来てしまったが、いささか無謀だったかもしれない。


まず最初にすることは、セーフティゾーンの場所の確認だ。幸いにも一本道になっていて、真っ直ぐにしか進めないようなので、進路に迷うことはなかった。


俺たちには盗賊がいないため、罠を見抜けない。そのため、盗賊系の魔法を次々にかけて行く。


「よし、罠はないようだ。離れないようにピッタリとくっついていろよ」


「うん」


俺たちには前衛がいないため、奇襲攻撃でどちらかが重症でも負ってしまったりしたら、即全滅となってしまう。索敵魔法は常時発信していた。


「来たっ」


「リッチ!? 10体!?」


すぐにナパームを発射する。10体を一瞬で蒸発させた。


こちらが先に魔法を発射出来れば瞬殺だが、怖いのはやはり先手を打たれたときだ。


非常に神経をすり減らしながら、前進して行く。


「ヴァンパイア! 5体!」


サンシャインを発動する。ヴァンパイアは5体とも何もできずに灰になった。


「どうやらアンデッドのフロアのようだ。しかも、フロアボス級の上位アンデッドが複数出て来るようだ」


「あっ、あれは!」


「バンシー!? 索敵を抜けた?」


すぐに目の前に膜を張り、真空の壁を作る。バンシーの声の攻撃を届かなくするためだ。そのうえで、ナパームを発射する。バンシーが3体倒れた。


「索敵を抜ける敵がいるとなると、ますます警戒が必要だな」


「あのさ、ライル、格納って防御にならないかな?」


なるほど。格納は生あるもの以外は全て取り込みが可能なはずだ。魔法はエネルギー波だからそのまま取り込めるかもしれない。 待てよ? アンデッドってそのまま格納できるんじゃないか? 生きてないから。


「ちょっと危険だが、試してみる価値はあるな」


ただ、あれか? ガバって開けたまま進むのか? ほとんど痴女じゃ……


「変な想像してるんじゃないわよ」


相変わらず鋭いな。俺は知らんぷりして話をつづけた。


「敵で試すのは危険だ。まずは俺で試した方がいいんじゃないか? 怪我しないような強さの水鉄砲とかがいいと思うぞ」


「それはそうだけど」


ルシアは恥ずかしがっているようだ。確かに、ルシアの裸に向かって水鉄砲とか、どんなプレイだよ。


「真面目な話、必要だと思うぞ」


「え、ええ」


「目をつぶるからさ。ちょっとやってみよう」


俺はルシアの前に立ち、目をつぶって水鉄砲ぐらいの強さのウォーターカッターを出し続けた。


「あっ」


「どうした!?」


慌てた俺は目を開いてしまった。


「ちょっと!」


ルシアはすぐに前を閉じた。


「すまん。あっ、て言うから、何かあったかと思ったのだ」


「成功よ。使えるわよ」


あっ、てのは何なんだよ。


ルシアが俺の前に出た。


「おい、ルシア」


前に出たルシアを止めようとしたが、ルシアはローブの前を全開にして、どんどん前に進んで行く。コイツは度胸あるんだよな。


でも、この戦闘隊形は他の人には絶対に見せられないな。

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