第三章 遺跡の発掘
第26話 7つのダンジョン
ルシアはいろいろと工夫しながらアーと会話した。アーはルシア以外には事務的な会話しかしないが、なぜかルシアとだけは雑談もするし、ルシアだけ名前で呼ぶ。
ちなみにアーがどういう存在なのかは、俺たちにはさっぱりわからない。
結論から言うと、アーは世界に7つあるダンジョンの階数と最深階の施設の名前だけ知っていた。宝ではなく、施設なのだそうだ。
各ダンジョンの最下層にはキューブルームへのゲートがあり、ゲートのカギを開けることで、キューブルームからも行き来できるようになるらしい。
各ダンジョンの階数と施設の名前は以下の通りだ。この順番でないとそれぞれの最深階には行けないという。
イグアス 地下60階 キューブルーム 済
エンジェル 地下60階 ワールドレストラン
ビクトリア 地下70階 ワールドショップ
サザーランド 地下70階 ワールドパスポート
グトルフォス 地下80階 時空の部屋
ガイアナ 地下90階 全知の部屋
ナイアガラ 地下99階 誕生の部屋
なお、「古代人」という単語は「コダイジン」という名前として扱われてしまって、アーには意味が分からないようだった。それで、単純にダンジョンが作成された年代を聞いてみたのだが、今から10年前と言われた。どうやら、アーの時間は止まっていたようだが、ダンジョンは何者かによって、同時期に一斉に作成されたということは分かった。
ライルはルシアからの報告を聞いて、方針を決めた。
「まずはエンジェルのダンジョンからだな。全員で王都に行って、メリンダたちがお偉いさんに報告している間に、俺とルシアで先に攻略する」
エンジェルのダンジョンは王都の郊外にある。以前ニックたちとトレーニングで使ったダンジョンで、ライルはよく知っている。イグアスと同じで、地下59階にゴーストドラゴンがいて、ライルたちが討伐したのだが、地下60階への扉が開かなかった。
当時はトレーニングが目的だったし、ニックが勝手に約束した魔王との対戦期限が迫っていたので、そのままにして地上に出たのだが、イグアスを攻略していなかったから、開かなかったのだろう。
ライルはメリンダたちにエンジェルのダンジョンの状況を説明した。
「恐らく、今行けば扉は開くはずだ。エンジェルの地下59階はイグアスよりもさらに強力なアンデッドがいるので、簡単に攻略されはしないだろうが、一刻も早く行った方がいいと思う」
「二人で大丈夫?」
メリンダが心配そうに聞いて来た。
「大丈夫だ。俺たちはイグアスの制覇者だぞ?」
「あのう、不思議だったのですが、どうやって地下60階まで来られたのでしょうか。ゴーストドラゴンは私たちが倒すまでは生きていました」
ルミエールが遠慮がちに聞いて来た。攻略方法を聞くのはマナー違反だからだ。
「ライル、メリンダたちには話しても大丈夫だよね?」
ルシアは自分の格納スキルの性能が知られてしまって、国の倉庫女になることをかなり恐れていた。
「メリンダ、俺とルシアを勇者パーティの一員として国に報告してくれるか?」
「もちろんそのつもりよ」
「ルシア、もう格納の話をしても大丈夫だ。勇者パーティの一員としての地位があれば、国から利用されることはない」
ルシアはほっとして、ルミエールに種明かしをした。
「ルミエール、ゴーストドラゴンは格納して、地下60階に行ってからリリースしたのよ」
「え? 格納? あんな大きなものをですか? それに生きて、確かに、生きてはいないですね。そんな攻略法があったとは」
同じ格納スキルを使えるルミエールだが、格納出来るのはせいぜい2メートル四方だ。
「俺も驚いた。以前、俺たちがまる1日かけてやっと倒した相手を1秒で格納したんだからな。恐らくホーリーライトはたまたま有効であっただけで、ゴーストドラゴンの本来の倒し方は格納が正しいように思う」
素っ裸にならないと使えないという話は今のところは伏せておいた。
「さて、行こうか」
地上に戻って、「月の光」の道案内メンバーに改めてお礼を言ってから、6人は王都に向かった。
「月の光」の隊長のカトリーヌは、ルシアを大好きになってしまっていたようで、ルシアはカトリーヌから抱きつかれて、かなり照れていた。
王都に行く途中でライルとルシアはメリンダたちと分かれ、エンジェルのダンジョンへと向かった。
ライルは何度も潜ったダンジョンだ。あっという間に地下59階まで到達した。
「ルシア、この階はアンデッドだけだが、イグアスよりは強いぞ。大丈夫か?」
「大丈夫よ。行くわよ」
ルシアがスタスタと前を歩いて行く。魔物が現れるとローブの前をバッと開けて素っ裸の体を晒し、格納スキルでアンデッドを収納してしまう。
このスタバを繰り返すことで、ボス部屋に10分で着いてしまった。
やはりボス部屋は空室だった。1年前、ゴーストドラゴンを倒して、振り返ったときのマリアの笑顔がライルの脳裏をよぎった。
ライルがマリアのことを思い出したのは久しぶりだった。この数ヶ月は、ずっとルシアと一緒に暮らしていて、マリアの面影に苦しめられることはなくなっていた。
(マリア、俺には好きな人が出来たんだ。許してくれるよな)
「ライル、すごいよっ!」
ルシアの興奮した声が階下から聞こえて来た。
地下60階は一面が湖だった。そして、前方に湖に浮かんでいるかのように見える白い大きな建物があった。
「あれがワールドレストランか」
ライルはそう呟いて、ルシアの手をとった。そして、レストランへと真っ直ぐに伸びている道を二人で歩いて行った。
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