第27話 ワールドレストラン
「さて、どうやって入るのか、今回も分からないな」
ドアのない建物の前で、ライルが独り言のようにつぶやいた。
動かすには恐らくまた魔力が必要だと思うのだが、魔力を提供するようなところはどこにも見当たらない。
「ん? ルシア、何かあるのか?」
ルシアがかがんで水の中に手を入れている。
「多分ここね」
レストランが白く輝き出したが、しばらくして輝かなくなった。キューブルームのときと同じだ。
「次はこっちね」
ルシアが反対側の水の中に左手を入れて、何かを触ったようだ。
正面にドアが現れた。
(これ、ルシアがいなかったら、入れたのか?)
ライルがそう思っていると、扉が横にスライドする。中には息をのむような素晴らしい空間が広がっていた。
正八角形の天井の高い部屋の中央に、豪奢な丸テーブルと六脚の椅子が備え付けられていた。壁は腰の高さより上が全面ガラス張りで、外の景色が見られるようになっている。
「綺麗な部屋」
ルシアが溜息をついている。
ライルとルシアはとりあえず、隣りあって椅子に座った。すると脳内に女性の声で話しかけられた。
『いらっしゃいませ。ワールドレストランのメイドのベーです。ご注文をお伺いします。本日はテンタウルス星のオラルリ料理をお出しします。コースとアラカルトがございます。メニューを展開させて頂きます』
メニューが頭の中に広げられた。どこの星の何の料理か全く分からないので、とりあえず二人はシェフのお薦めコースを頼んだ。
最初に食前酒が出て来た。テーブルの上にふっと現れるのだ。もちろん仕組みなど分からない。
「……」
正直、微妙な味だった。
非常に薄いお茶のような味だ。これでも酒なのだろうか。
次に出て来たのは前菜だろうか。よくわからない形のよくわからないものだ。これもふっと現れた。
ナイフとフォークではなく串が出てきた。刺して食べるようだ。
「うっ」
はっきり言おう。かなり不味い。
ジャリジャリして、しかも、味が濃いのだ。
「俺はオラルリ料理は苦手だ」
「私もよ」
『ルシア様、お口に合いませんでしたでしょうか』
ダンジョンの施設はなぜかいつもルシアびいきだ。ルシアの名前を知っているのも謎だ。魔力の提供者だからなのか?
「ええ、かなり味付けが濃いのね。食感もよろしくないわ」
こう見えて、ルシアは貴族育ちのため、お上品に食事をする。串刺しもお気に召さないようだった。
『大変失礼致しました。すぐに料理をお取り替えします。薄味がお好みでしょうか』
「そうなのかもね。味付けは先ほどの料理の、そうね、10分の1でいいと思うわよ」
『かしこまりました。アース星のジャパニーズ料理のカイセキコースをお出しします』
フォークとナイフの代わりに箸が出てきた。ライルとルシアは箸の使い方が分からなかったのだが、脳内で箸の使い方の映像が流れた。
下手くそな箸の使い方でなんとか料理を口にした。箸ってのは、串が一本増えただけだし、生のままで魚が出てきたりして、またもやワイルドな料理かとおもいきや、めちゃくちゃ美味しかった。
「俺、ジャパニーズ料理の虜になりそうだ」
「私もよ。見た目も美しくて、何て繊細で上品な味かしら!」
二人で大はしゃぎしていると、ベーが話しかけて来た。
『お気に召して頂いたようで何よりです。ところで、キューブルームとのゲートをお繋げしてよろしいでしょうか』
「ええ、お願いするわ」
ルシアが返事をすると、奥の壁にドアが現れた。
席を立ってドアを開けると、キューブルームのエントランスにつながっていた。
すごい、いつでもこの料理を食べることが出来るのだ。
「ルシア、ビクトリアを早く攻略したくならないか?」
「ええ、二人でお風呂に入りながら、次の作戦を練りましょう」
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