第28話 火事の原因
ライルとルシアは二人でビクトリアのダンジョンに潜っていた。
メリンダたちにはビクトリアに来るように王都に伝言を残して来た。
ビクトリアの冒険者組合で情報収集したところ、最深記録は地下59階で、フロアボスはゴーストドラゴンのようだ。そこまでは二人でも大丈夫とみて潜ったのだ。
ゴーストドラゴンの格納までは予定通りだったのだが、地下60階で先に進めなくなった。
地下60階は海だったのだ。
海で戦う場合、一人が魔法で氷の板を作り、パーティ全員が板の上に乗って海上を移動するのが一般的だ。このとき、板を制御しながら戦うのはかなり危険であるため、板を作っている魔法使いは参戦しない。制御を誤ると水中に落ちてしまい、全員が魔物の餌食となってしまうからだ。
バキュームで海水を抜くことも比重が重すぎて出来ないし、空気を送り込んでこのフロアを空気の空間にすることも水圧が強すぎて出来ない。
打つ手がない状態だった。
「メリンダ達を待つしかないか」
「そうね。少し休みましょう」
ライルとルシアは、地下59階のセーフティーゾーンで少し仮眠することにした。
ライルは夢を見た。回顧の夢だった。
魔王戦の前夜にマリアから告白された。
「聖女は神様以外を好きになってはいけないの。でも、あなたを好きになっちゃった。神様には内緒よ」
「だったら、俺が神になればいい」
マリアは笑っていたが、当時怖いもの知らずだった俺は、割と本気で言ったんだ。
そして、魔王戦でのマリアの最期の場面になり、ライルは目をそこで覚ました。
汗をびっしょりかいていた。
隣でルシアが静かに寝ている。
(俺は幸せになっていいのだろうか。マリアは命をかけて俺を守ったが、俺はマリアを死なせてしまった。でも、俺はルシアを幸せにしたい)
眠っているルシアの額にキスをしようとしたとき、セーフティーゾーンのドアが思いっきり開いた。
「あ、ごめん」
すぐにドアが閉まった。メリンダ達だった。ライルはドアを開けた。
「中に入れよ。ちょっと寝顔にキスをしようとしただけだ」
(いや、このラブラブ兄貴はしれっと何を言っちゃってるのよ。目に毒な二人だわ)
「はいはい、ご馳走様」
そう言いながら、メリンダたちが入って来た。
防具を外してくつろいだ格好になったメリンダがライルに聞いて来た。
「私たちを待っていてくれたの?」
メリンダの問いに対して、ライルは現状を説明した。
ルシアを起こさないようにメリンダが小声で話し始めた。
「そういえば、教皇から面白い話を聞いたわよ。ルシアさん、娼館にいたことあるでしょう」
「それは」
とライルが説明をしようとしたが、メリンダは続けた。
「娼館の下働きでしょ。知ってるわよ。実はマリアさんが何とか助け出そうとしていたんだって」
「マリアが!?」
「そうなの。マリアさんはルシアさんの三つ年上よね。マリアさんはルシアさんが娼館に売られたことを学園で噂に聞いて、ルシアさんの養父の貴族のところに直談判に行ったり、娼館の女主人にルシアさんを大事にするように申し入れに行ったりしていたそうよ」
「そんなことがあったのか」
「マリアさんて伯爵家のご令嬢でしょう。だから、娼館の女主人も大人しく言う通りにしていたらしいのだけど、マリアさんが聖女になって、娼館に来られなくなると思って、ルシアさんを娼婦にしようとしたらしいのよ。ルシアさん大人気で、いつデビューするんだって、客からも随分とせっつかれていたみたいよ」
「ひょっとして、あの火事は?」
「そう、怒り狂ったマリアさんの仕業なの! マリアさんの起こした火事だから、誰も怪我してないのよ」
マリアは怒ると怖かった。あのニックでさえ、マリアを怒らせないよう気をつかっていたぐらいだ。
「あの綺麗なお姉さんって聖女様だったんだ」
ルシアが会話に入って来た。目を覚まして話を聞いていたようだ。
「火事で私を死んだことにするから、ここから出て行きなさいって、私に教えてくれたお姉さんがいたのよ」
ルシアはお姉さんに迷惑がかかるかもしれないと今まで黙っていたのであった。
「ライル、辛いね」
ルシアもライルもマリアに救われた人生を生きているのに、そのマリアに恩返し出来ないことが辛い。そして、誰よりも幸せになるべきマリアが死んでしまっているのが辛い。
「あの、教皇が言ってたけど、マリアさんて、女神になって天界で楽しくやってるみたいよ」
メリンダがほほをポリポリしながらぶっちゃけた。
「え? そうなのか?」「え? そうなの?」
ライルとルシアは驚いている。
ルミエールがダメ押しをする。
「はい、私もそう聞いてますし、実際に元マリアさんの女神様から神託を頂いたこともあります」
ルミエールはさらにぶち壊し的な発言を続ける。
「マリアさん、まるで人格変わってしまって、おちゃらけたノリのかる~い女神になっちゃってますよ。そういえば、この前、ライルさんに会いましたってお伝えしたら、『あら、俺が神になる、のライル君ねっ』って、おっしゃってました。よくわからなかったんですけど、ライルさんわかります?」
「わ、分かるわけがないだろう」
ライルはくそ恥ずかしかったが、段々と心が晴れていった。勝手にマリアのことを可哀想だと思っていたが、マリアはそんな風には思われたくないだろうし、実際、楽しくやっているようだ。
よかった。こっちも楽しくやろう。
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