第25話 ルシアの出自
「それがどうかしたのか?」
ライルに動揺は見られなかった。むしろ、ルシアが動揺しまくっていた。
魔王の計算では、ライルが動揺してルシアへの信頼がなくなり、ルシアがライルに絶望して、魔王が憑依に成功するという手筈だった。
「どうかしたかだと? ルシアの母親は古代人なのだぞ」
「だからそれがどうしたというのだ。ルシアの母が何であろうと俺のルシアへの愛は変わらない」
「ライル」
「ルシア」
二人の世界をこんなときにも作ってしまうライルとルシアに魔王も勇者たちもげんなりした。
「魔王、行くわよ!」
メリンダが気を引き締めて、戦闘を開始した。
だが、魔王は体に変調をきたしていた。体がしびれてしまって、非常に重たく感じる。
「貴様、何をした!?」
魔王がライルを睨む。
「別に何も。それよりルシアの出自の続きを話さないのか?」
魔王が意識を失って倒れた。
「メリンダ、とどめを刺せ」
メリンダはよく理解できないまま、ライルに言われたとおり、勇者の剣で魔王にとどめを刺した。そして、ルミエールが遺体を格納した。
「えっ? なに、これ? これで終わり?」
メリンダは何だか納得が行かなかった。あっという間に魔王退治が終わってしまったのだ。
「魔王がクリエイトエアーで呼吸していたので、毒を混入させた。木炭を不完全燃焼させたときに発生するガスを送り続けたのだ。魔王の話に付き合っていたのは、時間稼ぎだ」
「ライルさんの魔法って、そのう、ロマンがないわよね」
ルミエールの感想が恐らくメリンダ達の感想なのであろう。
「戦いで死んでしまうよりはいい」
みんな静かになった。
「よし、家に帰るぞ」
みんなゾロゾロと家に戻った。
エントランスでルシアが叫ぶ。
「さあ、こんなときにはお風呂に入って、さっぱりするぞぉ!」
お風呂と聞いて、女性たちに元気が出て来た。ライル以外が風呂場に向かった。
ポツンと残されたライルは、犠牲者を一人も出すことなく戦闘を終えたことが、何よりも嬉しかった。
「あ~生き返るわ~、極楽極楽」
どこの世界でも風呂に入ったときの第一声はこんなものだ。
「それにしても、魔王弱すぎぃ」
「ほんとよねえ。何あれ? 私一回も魔法使ってないわよぉ」
「一回も攻撃受けてないしぃ」
「私、歴代勇者で一番働いてないんじゃ……」
「ニックには負けるでしょ。ライルに言わせると、あいつ足引っ張ってたから、働きとしてはマイナスだしぃ」
「きゃはは、それウケるぅ」
なんだかんだ言いながらも、命がけで魔王を倒す任務の重責から解放された実感が徐々にわいてきて、女たちは思う存分リラックスするのであった。
風呂から出て、みんなで今後について話し合った。
メリンダたちは国王と教皇に報告後、迷惑でなければ、ここに戻って来たいという。ここをベースにして、冒険者としての活動を引き続き行いたいそうだ。
「全然迷惑じゃないわよ。部屋はいくらでもあるから、いつまででもどうぞ」
ルシアは大歓迎の笑顔だった。
ライルはそれもいいが、と前置きして、別の提案も出してきた。
「残りの6つのダンジョンを制覇してみないか? ダンジョンは古代人の遺跡だというのが通説だが、多分あっていると思う。ここのキューブハウスのような素晴らしいお宝をゲット出来るかもしれないし、何よりもルシアのルーツを探ることが出来る」
どうやら全員がダンジョン制覇に賛成のようだ。
「よし、まずはアーから情報収集だ。キューブハウス以外のことを聞いたことがないが、色々と知っている可能性がある」
ライルの推測は当たっている可能性が高いとルシアは思った。
「分かったわ。私が聞いてみる」
***
またもやサタンから神に相談があるという。
「なあ、あんなのありか?」
「おぬし、間抜けよのう。勇者のいる敵地にふらりと行って、あんな簡単にやられて」
「……」
「いや、それにしても、まったく盛り上がらんかったのう」
「再戦じゃないか?」
「あほう、惨敗のおぬしに何もいう権利はないわい。次からはお主ではなく、別のものに任せた方がいいんじゃないか。ふぉっふぉっふぉ」
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