第30話 買い物依存症
女たちはワールドショップとキューブルームを往復する日々だ。
ライルはルシアに頼んで、髭剃りを購入して、髭を剃った。ルシアに感激され、何度も頬にキスをされて、さすがに照れ臭かった。メリンダたちはジト目で見ていた。
ショップは魔力を換金して決済する仕組みのようで、ルシアとメリンダはほぼ無限の購買力を得た。
次から次へと買い漁っているようで、キューブルームに部屋がどんどん増えて行く。ルシアの靴の部屋、メリンダのドレスルーム、ルミエールのメイク部屋といった感じだ。
電気というもので動く「電化製品」なるものがカタログに掲載されている。そのなかに「美顔器」というものがあり、ルシアたちは魔法の箱だとすぐに購入したのだが、動かし方が分からない。ライルは助けてくれと言われたが、当然ライルにも分からない。
諦めるかと思ったら、女たちの美への執念は恐ろしく、どうすれば動くかをツェーに聞きまくり、バッテリーなるものを購入し、とうとう動くようにしてしまった。先日、メイク部屋から歓声が上がっていた。
だが、あいつら自身が、全く動かなくなった。
朝昼晩はワールドレストランでアース星の料理を食べる。これにはライルも同伴する。どうやらアース星の料理が一番ライルたちの口に合うようだ。
女たちは、アース星のスイーツにも夢中になり、さらにカクテルにも夢中になり、とにかく美味しいものを食べたり、飲んだりし放題だ。
その後はショップに入り浸り、後は寝るだけだ。
ある日の朝、朝食を済ませて、いつものようにショップに向かう女たちに向かってライルは声をかけた。
「サザーランドのダンジョンにはいつ行くんだ?」
「そのうちかな」
ルシアが答えた。
ライルは言わねばなるまいと覚悟を決めた。
「お前たち、身体がなまって、筋肉が落ちてきているぞ。代謝が少なくなって、そのう、少しというか、かなりぽっちゃりして来たんじゃないのか?」
ライルは女たちのバックに稲妻が数本落ちる幻影を見たような気がした。
全員がタジタジとして、後ずさりしている。
ようやくルシアがショックから立ち直り、メリンダに語りかけた。
「そ、そうね。メリンダ、そろそろ行った方がいいんじゃないかしら」
「ええ、姉さん、ちょうど私たちもそろそろ行こうか、と思っていたところなのよ、ねえ、ルミエール」
最近、メリンダたちはルシアのことを姉さんと呼ぶようになっていた。
「もちろんよ。もう今日にでも行くべきと思うわ。スターシアもナタリーもそう思うでしょう?」
「「もちろん」」
こうして、勇者パーティはサザーランドに向かうことになった。
***
サザーランドはビクトリアの南にあるダンジョンの町だ。全員初めての町だという。
旅をするときに面倒なのが、まず最初に最寄りのダンジョンから地上に出なければいけないことだ。
今回はまずビクトリアのワールドショップまで行って、地上まで登る。魔物を倒しながら、70階も登るのだ。
これがかなり面倒なのだが、今回の女たちは積極的だ。痩せるためのいい運動になる、といって、動きまくっていた。
ようやく地上に出て、ここからは馬車を購入してサザーランドの町に行くのだが、女たちが歩いて行こうと言い出した。
綺麗な女性は綺麗を維持するために相当な努力をする、と滅多に話さないレンドルがポツリと話していたことを思い出してしまった。
「分かった。歩いて行こう」
ライルは女たちに付き合い、サザーランドまで歩くことにした。
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