第33話 時空の部屋
「頭がこんがらないようにゆっくり話すね」
ルシアの説明は概ね以下の通りだった。
三つの建物は、
時間の経過が早い部屋
時間の経過が遅い部屋
時間の経過を元に戻す部屋
というそれぞれの役割があるらしい。
例えば、「時間の経過が早い部屋」に入って10日過ごす。するとその間、現実世界は10年経っているため、外に出ると10年後の世界を見ることができる。その後、「時間の経過を戻す部屋」に入ると、現実世界も10日後に戻るという仕組みだ。
一方、「時間の経過が遅い部屋」で1年過ごしても外の世界は1日しか経っていない。その後、「時間の経過を戻す部屋」に入ると、現実世界も1年経っているという仕組みだ。
「時間の経過を元に戻す部屋」にずっと入らないまま人生を終えることもできるらしい。
なお、「時空の部屋」に入ることのできるのは、ルシアと配偶者とその子孫で、必ず一緒に入る必要があるという。
「ライル、施設はあなたを配偶者と認定しているわよ。だから、私だけでは入れない。施設の説明は部屋の扉の前でエーというメイドから聞いたわ」
「配偶者とは光栄な話だ」
ライルはルシアにプロポーズ済だった。それはメリンダたちも知っていた。
「ライル、前に言った通り、私の出自が分かってからプロポーズの答えを出すわ」
「それは理解している。ところで、この施設の使い方だが、例えば、俺とルシアで時間が遅く進む部屋で10日過ごして、10年後のメリンダに会ってから、元に戻す部屋に入って時間をリセットし、10日後のメリンダに会って、10年後のメリンダは結婚していて子供もいたって教えることが出来るということか?」
メリンダが疑問を口にする。
「でも、それは兄さんたちがいない10年でしょう? 兄さんたちがいるといないとでは、未来はかなり違ったものになると思うよ」
「それもそうだな。だが、元に戻す部屋に入らなければ、そのままか。安易に使うべきではないような気がするが、メリンダたちの事故死や病死を避けることに使えないかな?」
「それも兄さんたちがいない世界でのことでしょう? 兄さんたちの存在にあまり影響を受けない人たちであれば使えそうね。例えば、次の王が誰になるとか、どんな天災に見舞われるとかは分かるんじゃない?」
「時空の部屋に入っている間に、元に戻る部屋が壊されたりしてたら、元に戻れないわね」
ルシアが危険な可能性を口にしたが、ライルもそれを考えていた。
「やはり安易には使えないな。慎重に考えよう。いったんキューブルームに戻ろう」
キューブルームは「元に戻す部屋」に繋がっているが、「時空の部屋」にはライルとルシアしか入れない。
そのため、ルシアが皆の前に右手をさしだした。ライルが小指、メリンダが薬指、ルミエールが中指、ナタリーが人差し指、そして、スターシアが親指をそれぞれの指で摘んだ。
この状態で、ルシアがキューブルームへの帰還を願うと、景色が変わって、六人全員がキューブルームに転移していた。
ルシアとスターシアはニ回目だが、他の四人は初めてだ。
「どういう仕組みなのかな?」
メリンダがつぶやいた。
ライルも首を捻っていた。
「分からない。施設を作った何者かが、時空の操作に長けているのだろう。ただ、『時空の部屋』に過去に戻る部屋はなかった。元に戻すところまでが操作の限界のようだな」
ルシアがパンパンと手を叩いた。
「さあ、考えることはライルに任せて、私たちはお風呂に入ろう! きれいに痩せられたかどうか、お互いにチェックするわよ」
ルシアの誘いにのって、女たちはお風呂へと消えていった。
残されたライルは、
(「全知の部屋」に行けば何か分かるかもしれない)
と、難しいことを考えるのは先送りにした。それよりも、この状況下でどうやってルシアと二人で風呂に入ることができるかを真剣に考え始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます