第2話 冒険者への過剰防衛

あの娘、まさかこの水中で目が見えるのか?


久しぶりに体を洗えるチャンスだと思って、念入りに洗っていたのだが、視線を感じた。


まさかと思って、娘の方を見ると、慌てて目を閉じたが、目を閉じる前に確かに俺のことを凝視していた。


水中眼鏡の魔法を使っているようには見えない。まあいい。あんな小娘に見られても、今更どうってことはない。


さて、もうそろそろ溺死する頃かな。


先ほどまでもがいていた冒険者たちが、動かなくなって床に沈んでいる。


もう30分は経過しているので、死んだとみていいだろう。


俺はクリエイトウォータの魔法の発動を停止した。


部屋の隅間から水が流れ出していき、ゆっくりではあるが、徐々に水位が下がってきた。


水面が胸の高さまで来たあたりで、まだ目をつぶっている娘に声をかけた。


「おい、もうしばらくこっちを見るな。俺は何も着ていないんだ。ちょっと冒険者の服を失敬してくるから、そのまま待っていてくれ」


そう言って、体格が似ている冒険者の服をはがした。


流石にこいつの下着をつける気にはならなかったため、上着とズボンだけ身に着けた。


何だか自分が若いころの冒険者になったみたいで懐かしかった。


「おい、もう目を開けていいぞ。ちょっと手伝ってくれ」


娘がおどおどした感じで近づいてくる。よく見ると、まだ幼い。15,6歳か? ずいぶんと痩せているな。


こんな娘を襲うなんて、こいつらは死んで当然だな。殺すことまではなかったかな、と思っていたが、少しだけあった良心の呵責がきれいさっぱりなくなった。


「金目のものを取りだして、こいつらをこの部屋から外に出すぞ」


娘が恐る恐るたずねてくる。


「この人たち、死んでいるんでしょうか?」


「仮死状態のやつもいるかもしれないが、いずれ死ぬ。早くやれ」


2人で黙々と金目のものをポケットなどから取り出した。どうやら、彼女の持ち物も含まれていたようだ。こいつら、本当に人でなしだな。


「よし、部屋の外に出すぞ。扉を開けてくれ」


娘にドアを開けてもらい、1人1人の腕を掴んで、ずるずるとセーフティゾーンの外まで引きずり出していく。5人全員を引きだし終えるころには、俺は汗だくだった。こいつら、さすがに鍛えていたようで、かなり重かったのだ。でも、これで攻撃魔法が使える。


「魔力を借りるぞ」


俺は重力魔法を使い、5人を反重力で通路の突き当りまで飛ばした。あとは魔物が片付けてくれるだろう。


セーフティゾーンに戻ると、娘が床にぺたりとしゃがみこんでいた。


「どうした。気が抜けたのか?」


近づいて行くと、娘は下を向いて、どうやら泣いてしまっているようだ。


「怖かったか。もう大丈夫だ。安心していい」


娘はなかなか泣き止まないが、こういうときは放っておくのがいい。


しばらくそのまま見守っていると、ようやく泣き止んだようだ。


娘が顔を上げて、泣きはらした目で俺の方を見た。


「助けてくれてありがとうございます。私はルシアといいます。おじさんは?」

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