第9話 旧メンバーとの再会

俺は冒険者16人が地下58階に乗り込んで来たことを探知した。


俺たちはフロアボス部屋とは反対側のセーフティゾーンにいたが、冒険者パーティはまっすぐフロアボスの方に向かったようだ。


俺たちはこのときはまだこの冒険者たちが「月の光」だとは認識していなかった。


「おかしいな。もう4、5時間経つが、まだフロアボス部屋の手前のセーフティゾーンに留まっているぞ。何かあったのかもしれないな」


俺はルシアに話しかけた。


「行ってみる?」


「そうだな」


俺たちはフロアボス部屋の方向に向かった。


フロアボス部屋の手前のセーフティゾーンに入ってみると、中は女性ばかりだった。リーダーが「月の光」を名乗った。「月の光」はイグアスでは超有名な女性だけのダンジョン攻略パーティーだ。


「月の光」には最近3人の新メンバーが加わったのだが、その3人がルシアをクビにした奴らだ。ルシアと4人チームを組んでいたが、「月の光」からオファーがあり、ルシアを追っ払って、3人だけ移籍した。


ルシアから少しずつ聞いたのだが、3ヶ月前の魔法改革を境に、パーティ内でのルシアへの扱いがまるで変わってしまい、生活できるかどうかのギリギリの安い給料で3ヶ月間酷使されたらしい。俺が出会ったときのルシアが、栄養失調寸前のガリガリの体だったのは、コイツらのせいだ。


ちなみにルシアは今は適正体重になり、本来の輝くばかりの美しさを取り戻している。胸も復活していい感じになっている。俺はコイツらがルシアの美しさに嫉妬していたんじゃないか、とも思っている。


いずれにしろ、会ったら思いっきり蹴飛ばしてやろうと思っていたのだが、何とこの3人が今、死にかけていた。蹴飛ばしたら、死んでしまうだろう。


俺は「月の光」のリーダーに話を聞き、その内容をルシアに伝えた。


「どうやら、すでにフロアボスと戦ったらしい。それで、仕留めきれず、撤退したのだが、そこの3人に撤退命令が伝わらず、大怪我をしてしまったらしい」


ルシアは怪我をしている3人が、元パーティメンバーだと気づいていた。


「治癒魔法を使える人はいないのかな?」


「いるらしいが、魔力もマジックポーションも使い果たしたらしい」


「じゃあ、私が渡して来るね」


ルシアが神官の女性2人に魔力を渡して来た。


どうやら治療が間に合ったようだ。3人が起き上がって神官から事情を聞いたようで、こちらにお辞儀をしている。ルシアだとは気づかないようだ。


フロアボスの手前のセーフティゾーンはかなり広く、3人の怪我人と俺たちとは20メートルほど離れていた。3人が立ち上がって俺たちに近づいて来たところで、ルシアだと気づいたようだ。


「ありがとう」


パーティの元リーダーが3人を代表してルシアにお礼を言った。残りの2人は複雑な表情をしていた。


「間に合ってよかったね」


そう言って、ルシアは彼女たちのことは忘れることにしたようだ。ルシアが忘れるって言うなら、俺が蹴飛ばす訳にはいかないな。


俺はルシアに声をかけた。


「ルシア、せっかくここまで来たんだ。下に降りるか」


「そうね、そうしようか」


俺たちのフロアボス戦を決めるとは思えない軽いノリに「月の光」の面々が呆気に取られている。


俺たちは「月の光」のメンバーたちに軽く挨拶して、フロアボスの部屋に入っていった。


***


カトリーヌは「月の光」のリーダーだ。


カトリーヌは3人を問い詰めていた。ルシアのような魔力持ちは、こういったフロアボスとの長期戦には喉から手が出るほど欲しい人材だ。そんな人材をなぜ手放したのかと。


ルシアは帰りの分も必要だろうと大量の魔力を「月の光」のそれぞれのメンバーに与えてくれたのだ。大丈夫なのかと確認したら、すぐに回復するから問題ないとのことだった。何という才能だ。


恐らく自分のように軍勢を率いて戦う地位にいない限り、その価値は分からないだろう。例えば、軍隊の魔法部隊にルシアがいたら、弾切れのない魔法部隊の誕生だ。敵を圧倒出来る。


その価値にこの娘たちが気付かないのは理屈の上では理解できなくもないが、天下の逸材を「月の光」が手にする可能性があったことを知って、つい問い詰めたくもなる。


「でも、たった2人でグリフォンに挑むなんて、ルシアは何を考えているんだ?」


元リーダーだったという女が頭の悪いことを言っている。ここまで2人で来ているのだ。それ相応の力があるのだ。


ただ、グリフォンには魔法は効かない。確かにどうやって戦うのだろう。


そう思って、いつの間にか静かになっていたボス部屋の方に注意を払っていたら、地下59階への扉が開く音が聞こえてきた。


「何だと!? 1時間もしないうちにたった2人でグリフォンを倒した!?」


カトリーヌは3人たちの顔を苦々しく見つめた。

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