第11話 過去、その時

目を開けるといつもとは違う世界が広がっていた。

狭い部屋ではなくどこかの道。前方に一人の男が歩いていた。俺の見慣れた背中だった。


「あの」思わず声をかける。


「?」

男が、まだ若いが振り返る。


「もう諦めてもいいですか」 足掻くことを。逆らうことを。あなたを救うことを。


「え?いい……んじゃないですか……?」

怪しい男が急に声をかけても、彼は答えてくれた。


何も事情を知らない相手に許しを請うなんてずるいと思う。でも、俺は諦めの意味ではなく、純粋な赦しが欲しかった。


「ありがとう」 そして、ごめんなさい。

これで前に進もう。進みたくもない前に。俺は彼との根競べに負けたのだ。


「……大丈夫ですか?」


急な言葉にはっとする。振り返ると心底心配そうにこちらを見ている彼がいた。フッと自然と笑みがこぼれる。若い時からお人よしだったんですね、博士は。


やっぱりいつだってあなたはあなただ。


さあ、帰ろう。

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