第16話 回想
『頼みますよ……。俺の努力に免じて』
努力に免じて、か。
彼と私は親子というほど離れていないが、一般的な兄弟よりは離れている。そんな微妙な年の差の私たちは遠い親戚関係で、子供の時から同じ親戚宅で暮らしていた。お互い訳ありで生まれ、正直周りはいい顔をしなかった。だから、私は高校を卒業してすぐ家を飛び出した。彼も一緒に来たがったので連れ出した。
それからは私が彼の親同然だった。しかし苦労より助けられた記憶ばかりがよみがえる。私が大学に行ったり研究に励むことができたのは、彼のおかげだ。
私を心配させまいとよく頑張る子だった。その姿を見る度、「お前は本当に努力家だ」と褒めたものだ。頑張り過ぎて体を壊さないか心配だ、とも。それでも彼はまるでおかしな冗談でも言われたように笑うばかりだった。
そんな彼が「努力に免じて」などと言うのだ。
彼を助けたいと思えば思うほど、彼の期待を裏切る未来しか見えない。何をしても彼は頑張り続けることになってしまう。もう、休ませてあげるべきなのだろうか。
いや、弱気なことを言っている場合ではない。私は手術が成功することを信じるのだ。
そのとき、手術室のランプが消えた。
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