テイク〇

第3話 再演

ああ、またこの感覚だ。ゆっくり目を開けるといつもと同じ光景が広がっている。

デスクランプだけが点いた薄暗い部屋。所狭しと置かれた古い資料の山。机に置かれたひときわ目立つコンピュータも。


自分の部屋を後にして、俺はの元へと向かう。部屋に入って、彼に話しかけて、そして……。いつも通りやるだけだ。ひとつ深呼吸をして覚悟を決めた。


ウィンと軽い音を立ててドアが開く。部屋の中央の椅子。コツコツと響く足音に合わせ鼓動が速くなる。大丈夫、大丈夫だ。これでいい。

俺が何も言わないので、彼がこちらへ振り返る。いつも通り、優しい顔で。


「どうした?」なんて。


このまま何もせず、部屋を出ていけばいい。笑って、別れを告げるんだ。

そうすれば……そうすれば。どうなるかなんて誰よりもわかっている。


そうだ、彼は無残に殺されるんだ。


「特殊捜査班だ!家宅捜索をさせてもらう!抵抗をすれば発砲するぞ!」

突然入ってきた連中が部屋のものを手あたり次第に調べていく。そんな乱暴に、汚い手で触るな!博士の研究を汚すな!


そう言う前に彼が驚いた顔で立ち上がる。


バン!


乾いた音が部屋に響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る