第9話 挑戦

あの人は常に一歩先に進む人だった。自分だけ過去に記憶を持ち込み、俺の記憶を抹消するのは簡単だっただろう。


ただ、「もう諦めていい」と言われて「はいそうですか」なんて無理な話だ。あの「時間」は俺が死に、博士が生きるものにしなければ。博士は二人が生きる可能性だって探したはずだ。でもそれは見つからなかった。だから自分を犠牲にしようとしている。


そこから何度も繰り返した。何度も何度も。

でもダメだった。俺の繰り返す「時間」の中に生きる博士は存在しなかった。

原因は様々だったがいつもあと少しのところで彼は必ずどこかで死んでいく。俺の知らないところで。俺の目の前で。俺の腕の中で。


その度に俺は緑色に縋りつく。彼の声が聴きたくて。もう一度話しかけてほしくて。もう一度名前を呼んでほしくて。

俺の名前の部分はうまく録音されていなかったが、それでもよかった。ただ、彼が俺に話しかけてくれている。それだけで嬉しかった。


タイムループするごとに何かしらのエネルギーを吸い取られているのか、俺の体は段々細くなっていった。


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