十二話 逆バニー神拳伝説(1)

 緑山サンドは聞き耳を立てていた訳ではないが、喫茶『夢幻旅行』の変化には敏感だった。

 ここを根城にする民間戦隊に勧誘されているせいもあるが、伊藤飛芽の体型ジェットコースターからの電撃結婚には、興味をどでかく唆られた。

 うっかり御祝儀として大根二本を渡してしまい、返礼に極薄コンドームを一箱貰ってしまった。

(彼氏いないけどねえ、ワタシ)

 ポケットに入るサイズだったので、忘れてそのまま趣味の登山をしていると、ソロキャンプをしている女性が襲われている現場に遭遇してしまった。

「よいではないか、よいではないか」

 熊のように大きな男が、人目が無いと思い込んでキャンプから若い女性を引き摺り出している。

「その大学のテニスサークルで抱きたい女ベスト3に入りそうな美貌を、白昼の野外で解放するのだ〜」

「いやです!」

 抵抗する女性の体に、男の周囲から触手が伸びて巻き付いて拘束する。

 腕力だけでも圧倒的に不利だったのに、手足を触手に拘束されて、好き放題に衣服を剥がれていく。

 若い肌が顕になり、清楚な白い下着姿が触手に絡まれて、軋む。

「うむ、想像以上に、攻略し甲斐のあるエロボディ。余さずにいただきます」

 触手を駆使する熊男が、女性のブラジャーを捲ると、プリプリの乳首を口に含んで弄び始める。

 悲鳴をあげる女性の口に、触手が突き込まれて、声量を塞がれる。

(プリティスキンを呼ぶ案件だ!)

 普通の痴漢なら緑山サンドが蹴り潰しておしまいだが、エロい怪人を相手にしたら、返り討ち&イヤンバカン展開。

 緑山サンドは木陰に身を隠したまま、携帯電話でプリティスキンの電話番号に通報する。


飛芽「はい、飛芽です(あん)、ちょっと待て、動かすな(んふ)すまん、旦那が我慢出来ずに、休憩室で立ちバックしている最中で、ん、こら、ん」

緑山「休憩セックス中にすみません。タコタコ山のB地区付近で、熊怪人が女性を襲っている現場に出会しました。助けてください」

飛芽「よっしゃ、すぐに…(どっびゅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう)…青波に、回す」

緑山「あ、はい、すみません」


 電話越しに聞こえる程の中出し音にドキドキしながら、緑山サンドはお行儀良く待った。


青波「はい、青波デスサイズです。嘘です、青波です」

緑山「あのう、現在進行形の犯罪ですので、現場にどなたか急行して欲しいですが」


 青波綾風のボケには付き合わずに、緑山サンドは急かす。

 被害者は乳房と股間を執拗に舐られ、触手を突き込まれた口からは、被虐の喘ぎ声が垂れている。


青波「この距離だと、最短でも二十分掛かりますね。それだと手遅れになりますので、緑山サンドさんを臨時の戦隊メンバーとして採用しますね」


(仕組んだのか、あんたら?)

 疑心暗鬼が頭を擡げるが、緑山サンドは堪えて指示に従う。


青波「プリティスキンのスポンサー会社が売っているコンドームをお持ちですね? こちらのセンサーで把握しています」


(コンドームに、何を仕込んでいやがる?!)

 緑山サンドは、マトモでない所業に不安を感じつつ、まだ堪える。


青波「その品は、臨時の変身コスチューム受信アイテムとして使えます。試作品を転送しますので、皮膚に直に着けてください」

緑山「直にって…」

青波「包装紙を破いて、コンドームを舌の上に乗せると、確実です」

緑山「担いでいたら、後で締めるよ?」


 緑山サンドは、羞恥心や疑念を傍に置き、変身プロセスを優先させる。

 取り出したコンドームを舌の上に乗せると、すぐに変身が始まった。

 登山用の衣服が、プリティスキンの試作コスチュームに覆われていく。

 緑山サンドは一瞬、それがバニーガール型のコスチュームだと思った。

 逆バニーガールの、出立だった。

 通常のバニーガール衣装が、胸部装甲から股間まで覆っているのとは逆に、胸から股間までが剥き出しで、そこ以外が薄い装甲服に覆われている。

 つまり、乳から股間まで丸出しの、コスチュームである。

 緑山サンドは爆乳なので、非常に目立つ。

 バスト101センチが、白昼の木陰で、ぶるんと揺れる。


緑山「おい、逆だろう、これは」

青波「確かに。追加装甲を転送します」


 丸出しだった乳首がニップレスで防護され、股間はCストリングで完全に隠された。

 だが緑山サンドは爆乳なので、乳首は隠れても乳輪が隠れていない。


緑山「もう少し、ニップレスを大きめにしてくれ」

青波「まさか爆乳だったとは。このリハクの目をもってしても、見抜けなんだ」

緑山「早く!」


「何だ? 爆乳が丸出しになったかのような、芳醇な香りが鼻腔を刺激して、堪らん!」

 熊怪人・マクワタイゾウは、緑山サンドの爆乳の匂いに、敏感に反応する。

 触手を爆乳の匂いが流れてくる方向に伸ばし、緑山サンドの爆乳に到達する。

「しまっ…」

 爆乳を触手で拘束され、緑山サンドの体から、力が抜ける。

「あっ…この…」

 爆乳に絡み付く触手の感触が、緑山サンドの官能を刺激して、濡れさせてしまう。

 触手に爆乳を掴まれ、緑山サンドは半端な変身コスチュームのまま、熊怪人・マクワタイゾウの前に引き寄せられる。

 それでも、青波と通話したままの携帯電話は手放さずに、窮状を伝える。

「ぬおおおおおおおお????!!! 爆乳の逆バニーポニテ??!!」

 熊怪人・マクワタイゾウは、先程まで捕らえて嬲っていた女性を解放すると、全ての触手を緑山サンドに集中させる。

「俺の全身全霊で相手をせねば、失礼なエロさだ」

 拘束を爆乳から手足に変えると、熊怪人・マクワタイゾウは爆乳をニップレスごと口に含む。

 口に含んだ途端に、熊怪人・マクワタイゾウは罠に気付く。

 ニップレス装甲が分離し、熊怪人・マクワタイゾウの喉奥へと侵略を開始する。

 窒息死しかけて、熊怪人・マクワタイゾウは慌てて触手を自分の喉に入れて、ニップレス装甲を取り出す。

 その隙に緑山サンドは、寸止め美少女戦隊プリティスキンの戦闘マニュアルを試作戦闘服経由でインストールする。

 緑山サンドの両眼が、爆乳よりも雄々しく開眼する。

「プリスグリーン。初陣を決める」

 熊怪人・マクワタイゾウが体勢を建て直す前に、プリスグリーンは、正拳突きの構えを取る。

 暴力の行使から極力距離を置いていた緑山サンドは、このエロい敵に対して、容赦は無用だと断じる。

 全身のパワーを溜めて、拳に乗せて、解き放つ。

「プリティ・オーラ・ナックル!」

 その拳は、熊怪人・マクワタイゾウの心臓と背筋を打ち抜き、背骨を破砕した。

 拳は巨体を貫通し、熊怪人・マクワタイゾウの返り血が、プリスグリーンの頬を濡らす。

 その壮絶なパワーに、物陰から見物していたレッサーパンダが気絶した。

 絶命するまでの悪足掻きに、熊怪人・マクワタイゾウは触手たちに道連れ攻撃を命じる。

 プリスグリーンは、両腕の回し受けで触手を捌き退け、斬れ味抜群の回し蹴りで、触手を束で薙ぎ払う。

 トドメに熊怪人・マクワタイゾウの死期を早める為に、頭部にもプリティ・オーラ・ナックルを叩き込む。



青波「ただの全力グーパンチに、必殺技っぽい名前を勝手に付けましたよ?」

暗黒寺「素質が有るとは思っていたよ。爆乳とは意外だったが」

 プリスグリーンの爆乳、いや爆誕映像を確認しつつ、青波と暗黒寺は望んでいた人材の確保に、万歳三唱。

青波「これで、飛芽さんが産休に入っても、前線に出ないで済みます〜〜」

暗黒寺「素晴らしいパワー型だ。最高の戦力補充だね」


 と、ウキウキで緑山サンドとの正式契約を結ぼうとしたのだが、そこまで上手い話にはならなかった。

「逆バニーのコスチュームで戦う訳が、ないでしょ」 

 翌日、配達に来た緑山サンドは、これまで通りに民間戦隊への参加を断った。

「あ、あれは、一見すると逆バニーですけれど、全身が極薄のスキンで覆われていますからね? か、勘違いしないでよね?」

 青波が言い訳をするが、態度は変わらない。

「契約金は、前回提示の倍を出します」

 暗黒寺は、採算よりも人材確保を優先させたが、緑山サンドはブレない。

「すまないが…ワタシには、他にやりたい道がある」

 緑山サンドは、破廉恥な戦隊が勧誘を諦めてくれるように、裏事情を開示する。

 携帯電話の株取引アプリを見せ、宣言する。

「資金を貯めて、デイトレーダー! 全ての時間を、金儲けに費やす! さらば労働!」

「うるせえ」

 暗黒寺は緑山サンドの携帯電話をハッキングすると、プリティスキンに入る契約を結んだ電子交付書類を作成する。

「これで君は、正式にプリティスキンの一員だ」

「よしじゃあ、正式に国民生活センターに、相談する」

 暗黒寺は一分以内に行った全ての犯罪行為をキャンセルすると、改めて緑山サンドに申し込む。

「皆で幸せになりましょう」

「幸せという概念を、貶めるな」

 緑山サンドの加入は、尚も難航するのであった。

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