十一話 キラートマトの子守唄(4)
異変は、すぐに目に付くようになった。
客が渋谷センターガイキングビルに入ってから喫茶『夢幻旅行』に着くまでの経路に、妊婦さんに優しい手摺りや休憩所が増えた。
渋谷の各駅から渋谷センターガイキングビルまでの経路にも、同様の変化が。
マスコミは何処も扱わなかったが、遠萌ファイとの交渉を知る極一部の者は、微妙な顔で優しくなった渋谷の一部を見守る。
喫茶『夢幻旅行』の客層も、妊婦さんが多くなった。
ここでの食事は胎教に良いという都市伝説が、出所不明なのに根強く幅広く流布していた。
推品は自然と、滋養の良い料理を多めにメニューを編成し直した。
どの妊婦の胎の中に次期魔王が仕込まれているのかは、誰にも特定出来なかった。
喫茶『夢幻旅行』の周辺には、調査専門の人員が大量に配置されていたが、詳細は誰にも不明だった。
そんな状況で三ヶ月が過ぎると、喫茶『夢幻旅行』の面々の興味一位は、目に出来る確実な異変に向く。
伊藤飛芽の身長が、10センチ以上伸びていた。
胸囲も10センチ近く伸び、尻肉も発達が目覚ましい。
開店当初は「ロリかわ系」「戦うミニトマト」「プリティなキラートマト」的な表現で称されていた飛芽が、女振りをグングンと急上昇させている。
「成る程。推品の分泌物を直接食べると、本当にチート性能が身に付くのですね」
身長で並ばれ胸囲装甲で抜かれた青波が、飛芽と控え室で昼食を食べている最中に、しみじみとリニューアルされた飛芽の全身をガン見する。
「仲間を何て目で見やがる?」
「だってだって、一気に十年分都合良く進化したような急成長ですよ?」
「いいよ、吾輩は成長が控えめだったから、ここで一気に伸びても、これで丁度良い」
飛芽は胸を張って主張する。
飛芽の胸部装甲周辺のシャツのボタンが、弾け飛ぶ。
「育ち、過ぎですよ」
開いたシャツの間から、ブラからも溢れてしまった飛芽の巨乳が、飛芽の巨乳が、飛芽の巨乳が、青波の視界に入る。
「一年後には、地面に垂れていますよ、きっと」
「…いや、ほら。魔王が産まれても、吾輩がそれ以上の栄養を推品から摂取していれば、吾輩自身が対魔王戦闘の切り札に」
「基本性能が違うと思うので、飛芽が詰め込む必要はないと思います」
「そ、そうかあ。そうだな。衣料費も嵩んできたし、そろそろ、控えようかな…」
「という訳で、推品。毎日飲むのは、控えようと思う」
同居人の提案に、推品はベッドの上で身悶える。
股間を押さえて、身悶える。
日々美人度がレベルアップする飛芽の美貌を見ながらフェラチオ&精飲してもらった三ヶ月に感謝しながら、推品は欲望よりも飛芽の体調を優先させる。
「ああ、うん、そうだよね。毎晩三回以上飲むなんて、やり過ぎだったよね。うん、ごめん、今夜は、自己処理する」
推品は風呂場に駆け込むと、飛芽に飲んでもらうつもりだった性欲汁を抜きに行く。
飛芽は手伝おうかと腰を浮かすが、精液に触っただけでも成長促進の効果は有り得る。
「…同衾も、控えた方がいいのか?」
切なそうに唇を弄りながら、段々と不安になる。
「キスもしない方が、いいのか?」
久しぶりに、自分の身体が通常の人間とは違う「怪人」だと自覚する。
「吾輩は、破滅するのか? 水を吸い過ぎたトマトが割れてしまうように」
心底怖くなってきた頃合いで、スッキリした推品が寝室に戻って来て、泣いている飛芽を見て仰天する。
推品が弱々しく泣き伏している飛芽を見るのは、これが初めて。
素肌に触れないように抱き締めながら、推品は飛芽を宥めようとする。
「飛芽」
「吾輩、間違えた」
「飛芽」
「もう、推品と一緒にいない方が」
「飛芽」
「吾輩、このままだと、壊れるだけだ」
「飛芽」
「推品の前で、壊れたくない」
「飛芽と離れる気はないぞ」
「きれいなまま、離れた方が」
「やだ。飛芽は俺の嫁だ」
「もう一回、言え」
「飛芽は、俺の嫁だ」
「もう一回、言って」
「飛芽は、俺の嫁だ」
「もう一回、言って」
「飛芽は、俺の嫁だ」
「もう一回、言って」
「飛芽は、俺の嫁だ」
「もう一回、言って」
「飛芽は、俺の嫁だ」
「是非、もう一回、言って」
「飛芽は、俺の嫁だ」
泣き止んだ飛芽が、にんまりと笑いながら、体を丸く丸める。
「推品。魔王と張り合って、推品の体液を飲む作戦は、中止だ」
「うん、中止しよう」
「ここまで育った以上、出荷あるのみ」
「出荷!?」
飛芽は、サイズが合わなくなってしまったパジャマを、破り捨てる。
推品が初めて見た時よりも、遥かに大きく艶かしく熟れた肉体が、露わになる。
「上の口ではなく、下の口で飲む。そうすれば、十月十日後には、有り余った栄養が、赤ん坊として下から排出されて、吾輩は元の体型に戻れる」
「…いや、その理論は、おかしい」
推品は賢者タイムの最中なので、セクシーになった飛芽の大規模戦術転換には食い付かずに、緊急電話で助けを求める。
「暗黒寺、助けて。飛芽が子作りを求めてきた」
「待てこら、この流れで断るなよ! 吾輩、大恥だろう?!」
夜中に緊急電話で叩き起こされた暗黒寺満娘は、推品の部屋に来るまでは罵詈雑言の限りで罵っていたが、着いた途端に解決策を見出して提示する。
「戦って流血してみろ。体液が流れれば、元の体型に戻る」
「おおっ!?」
推品は納得したが、飛芽は納得しなかった。
「いやだ。吾輩は推品と子作りして、地球をハーフ・トマト怪人で満たしてやる。地球は、ハーフ・トマト怪人の植民地になるのだ」
暗黒寺は飛芽のアホな返答など聞かずに、激戦区で戦っている民間戦隊に飛芽を貸し出す準備を進める。
「もしもし? シマパンダーの諸君。援軍だ。受け取れ」
「いやだって言って…」
暗黒寺が柏手を打つと、飛芽が激戦地へ強制的に転送された。
「飛芽は明日から欠勤だから。シフトの穴は、私が埋めておく」
一ヶ月後。
何もかも元のサイズに戻った伊藤飛芽は、推品の部屋に戻るや、命令した。
「推品、炒飯が食べたい」
「うん、三分待っていて」
「焼き豚〜〜、増し増しで〜〜」
リクエストを言うや、ボロボロになった身体をソファの上に投げ出して、グダっと脱力する。
「あ、忘れていた」
プリスレッドの変身アイテムをゴミ箱に投げ捨て、暫く休む態度を表明する。
「お〜し」
何か嬉しくなって、推品は四十五秒で炒飯を作ってしまった。
それを三十二秒で平らげてから、飛芽はようやく平常心を取り戻す。
「ふう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う」
長く息を吐くと、隣で食いっぷりを見守っていた推品を押し倒す。
「では、結婚しようか」
「おう、出荷するぞ」
飛芽と推品は、まず上の口から貪り合った。
程なく、全身の全てを貪り合った。
気が付くと夜中で、推品の腕枕で飛芽が寝ていた。
寝言で、何かの子守歌を呟いている。
「もう、何も寸止めしないよ」
推品は、そう宣言してから、寝直す。
飛芽は、自分が寝惚けながら囀る子守歌の歌詞を、出所を忘れたので夢の中まで探しに行った。
夢の中で敵も味方も、何もかも流れて、微睡に薄れていった。
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