三話 元トマト怪人娘の転職(3)
デートを承諾されて、神田推品はガッツポーズを取った。
「よっしゃああああああああ!!!!」
天才少年シェフの体が、六〇センチは浮いた。
ただし、デートする場所は、セーフハウスの中だった。
しかも別室で、メタバース空間でのヴァーチャルデート。
エロい展開が、不可能に近い。
「なんでえええええええええええ?????」
推品は、突っ伏して超落ち込む。
暗黒寺が、寸止め美少女戦隊プリティスキンのリーダーとして、話を進める。
「非接触の形でないと、正常な判断が出来ない」
「接触しまくりながらの判断で、イイじゃないですか?! 若い二人のデートですよ?! それが自然でしょ」
「自称・魔王が欲しがる君の能力は、料理の腕ではない」
暗黒寺はシリアスを崩さずに、非接触デートの理由を説く。
「君の能力『食材覚醒』(食材の良さを引き出す)は、植物系・動物系の怪人にとって、強化のみならず『食べられても喜びを感じるレベルの服従』になる。つまり伊藤飛芽にとって、神田推品に触れられる事は、致命的な奴隷化に繋がる。
まあ、飛芽は人間としての暮らしが長いし、ここ数日の接触でも『ちょっとデレる』程度で済んでいるが、デートで手を繋いだり抱き合ったり唇を貪り合った場合、メス堕ち一直線。果ては身も心も、奴隷になってしまう」
推品は、料理人としての能力の悪用の果てを提示され、怖じる。
「あのう、それって…俺は飛芽と、ずっと…」
「身体より先に、心で愛し合ってくれないか、という事だ。
普通のデートを経てしまうと、君は飛芽に媚薬を塗り込みながら押し倒しているのと、変わらない。
それはレイプと解釈する。
犯罪だね。
非接触で惚れ合って、合意を得てから、好きなだけ乳繰り合うといい。チート能力抜きで恋愛が合意に達して結ばれるのであれば、それは犯罪ではない」
推品は、安国寺の説明を、脳内でじっくりと考慮する。
「そんな能力があるとは、全然自覚ないですけど、担いでいませんか? どうやって確認を?」
飛芽に手を出させない為のブラフと受け取り、推品は話の前提を否定する。
「ほう、疑うのも無理ないか。というか、疑われる事を想定し、特別ゲストを呼んであげよう」
暗黒寺は、呪符を六枚使って陣を組むと、怪人専用拘置所から女性怪人を召喚する。
飛芽と変わらない年代の、小柄なショートヘアの美少女が、ミニスカートなのに推品の前で体育座りする。
髪の色と体臭とパンチラがイチゴなので、推品は紹介されなくても何の怪人娘か推測出来た。
呼び出した暗黒寺が、召喚ゲストの紹介を請け負う。
「仮釈放待ちの季節限定イチゴパフェ怪人娘の、ゴンザレス・マッハ・飛猿子(ひえんこ)さんだ」
「本名???!!」
推測の斜め上の正体と名前に驚愕していると、ゴンザレス・マッハ・飛猿子さんが推品を押し倒し、マウントを取る。
「このガキとセックス勝負で勝てば仮釈放確実って、マジか? 美味そうな童貞君だが」
「神田推品君と手を握って、飛猿子さんが何分で落ちるのかを実験すればイイだけ」
「…それだけ? 手を握るだけ? R指定の作品なのに?! 頭悪いな、お前ら」
ゴンザレス・マッハ・飛猿子さんは、不満そうに、暗黒寺と推品を見比べる。
そして、殺気を向けてくる飛芽に対し、ガンをくれる。
「トマト、てめえ、ゴラァ、まだレッドか、このやろー、バッカやろー」
可愛いのだけれど凄味が酷いゴンザレス・マッハ・飛猿子さんに対し、推品は試しに剥き出しの太腿を手で撫でてみる。
途端に、飼い主に撫でられた家猫のように、ゴンザレス・マッハ・飛猿子さんが、溶けていく。
姿勢を崩して、そのまま推品を抱き枕にする。
「くうぅっ、これはぁ、未体験のぉ、好きにしやがれ、このベビーフェイスめぇ」
そのままショーツを脱ぎ捨てて、推品のズボンを脱がそうとするので、飛芽が後頭部に爪先蹴りを入れて気絶させる。
暗黒寺は柏手を打ち鳴らして、ゴンザレス・マッハ・飛猿子さんを、怪人専用拘置所へと送り返す。
季節限定イチゴパフェ怪人娘ゴンザレス・マッハ・飛猿子さんは、イチゴパフェ柄の使用済みショーツを残して送還された。
「…確かに、危険ですね」
倒れたまま、推品は自分の能力を自覚する。
ニッチではあるが、悪の秘密組織にとっては、メリットに満ちている。
植物系・動物系の怪人を奴隷化し、低賃金で雇用可能なスキルである。
神田推品には、犯罪組織に与する気がないので、護身の役にしか立てない能力だが。
いや、相手が発情してしまうので、逆に危険が増す。
「分かってくれたか」
暗黒寺は、安堵する。
推品は起き上がると、早速、飛芽の手を握ろうとする。
「飛芽、デート前に、手を少し握るだけでも」
少年は、メリットだけに目を向けて、一点突破を図る。
「悪用すなっ」
飛芽は真空飛び膝蹴りで、推品の顔面を蹴り飛ばす。
飛芽を口説く気は衰えないので、暗黒寺は何となく諦めた。
前置きでグダグダしつつも、メタバース空間でのヴァーチャルデートは進められた。
仮自室でヴァーチャル空間に没入する為のゴーグルをセットしながら、推品は指定の場所にログインする。
渋谷をモチーフにデザインされたヴァーチャル空間のハチ公前で、推品は等身大のアバターで、待つ。
(飛芽さん、これを記念デートにして、あとはお友達でいましょうね、で済ませる気かな?)
(元トマト怪人娘から見たら、俺は厄介者だなあ)
(嫌われていないとは思いたいけど嫌われているような)
(いやもう絶対に、監視カメラでバレてるだろ、飛芽さんで抜いていたの)
(民間戦隊の保護対象でなかったら、絶縁だろ)
(違うの〜〜調べていたら、堪らなくなっただけで〜、という言い訳が通用する訳もなく)
(デートのフリをして、マジ説教の罠?)
十五歳の天才少年童貞シェフが悶々としていると、伊藤飛芽がアバターで現れる。
等身大ではあるが、衣装は胸元の開放的なスケーター・ワンピース(トマト色)。
唇に口紅が乗っており、本気でデートをしに来た面構えである。
笑顔で待ち合わせ場所に来た飛芽に、平服で来た推品は慌てて、もっと見栄えのする衣装に変更する。
「気合いが足りないなあ〜。義理でデートを承諾したとでも思った?」
葛藤を見透かされて更に動揺する推品の腕を、飛芽が腕組みして隣に並ぶ。
推品の二の腕に、飛芽の胸部が当たる幻覚が。
その幸せな幻覚を抱いたまま、推品は渋谷スクランブル交差点を飛芽に引き摺られていく。
「吾輩は、異性の奢りで遊ぶなんて贅沢、久しぶりだからな。テンションが高いのは、その為だ。デレてはいないから、勘違いするなよ?」
「ああ、ふむ、なるほど」
「デレてはいないが、搾り取る。代わりに、ハグし放題を許可してやる」
(何の罠だろう?)
と思いつつも、推品は飛芽をハグしてみる。
そのまま理性が吹き飛びそうな程に素晴らしい抱き心地に、推品は泣きそうになる。
(罠でもいいから、飛芽が欲しい)
抱き締めつつも、飛芽の様子を、間近で観察する。
(こころ、心、心を確認)
どう見ても、嫌がっていない、ように見える。
それどころか、女の顔で笑っている、かもしれない。
(いや、不快な思いをさせない為の、義理スマイルかもしれないし)
まだ恋愛経験値が足りないので、飛芽がデートを本当に楽しんでいると、確信を持てない推品だった。
飛芽が推品の奢りでヴァーチャル空間の映画館や本屋で遊んでいる間。
暗黒寺満娘と青波綾風は、飛芽の生命反応を詳細まで診断して、結論する。
「マジ惚れですね」
青波は、ウキウキと断言する。
飛芽のバイタルは、恋愛ゲージ以外を除いて、平常である。
「濡れていますよ、飛芽さん」
「言わなくていい」
暗黒寺は、この展開に熱る青波を制止する。
「予想は良い方向で当たってくれた」
推品の能力の影響は、過去のデータを見渡しても、認められない。
「既に惚れている場合は、能力の影響は及ばない。まあ、飛芽の場合、怪人よりも、人間の要素の方が大きいという要因もあるだろうけど。あと、レベルが高いので、レジストに成功。自覚していないけど」
暗黒寺は、次の不安要素に頭を悩ませる。
「この事は、まだ二人には、教えてはいけない」
「教えないと、相思相愛なのに、触れ合えないままですが?」
青波の顰蹙を買っても、暗黒寺の顔は渋い。
「タイミングがなあ…推品が魔王の誘いに乗らない人材だと確信できないと、我々はプリスレッドも失う事になる」
「寿退社を阻害する気ですね?」
天然の青波でも、暗黒寺の腹は読めた。
「だって、前衛が不在だと、私が危ない」
青波は、やや厳しい目で安国寺を見ながら、言質を求める。
「いつまで、伏せておく気ですか?」
「前衛が三人体制になるまで」
そこは正直に、暗黒寺は言明する。
恋愛関係すら寸止めされている事に、デートで浮かれる伊藤飛芽は、気付きようもなかった。
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