四話 元トマト怪人娘の転職(4)

 神田推品は、唐突に自由になった。

「は?」

 今日の夕食は中華料理系で揃えて満腹させた頃合いで、推品は暗黒寺から事後報告を受けた。 

「君を狙っていた犯罪組織の秘密基地が、壊滅した」

 フルーツ杏仁豆腐を平らげながら、暗黒寺はサラリと重要な事案を伝える。

「はい?」

「十三の民間戦隊が、問題の組織を包囲殲滅した。その組織の自称・魔王も、戦死。敵の幹部もほとんど戦死か捕虜。逃げ延びた奴がいたとしても、君を誘拐してまで仲間にしたがる組織は、壊滅した。

 神田推品。

 君はもう、自由だ」

「…早っ」

 本当に一週間で解決。

 テレビ番組の中のスーパー戦隊と違い、民間戦隊は連携を取って敵組織をフルボッコにするので、解決も早い。

「そういうのは、早めに言ってくれ」

 既に夕食を完食してしまったので、飛芽は名残惜しそうに空いた皿を見詰める。

「もう料理専用奴隷として、推品を扱き使えないのか」

「明日の朝食以降は、料金を取るからな」

「命の恩人から、金を取るのか?!」

「取る!」

「結婚しよう」

「結婚しても、金は取る!」

「推品の倫理観は、壊れているぞ」

「壊れていても、安売りはしない」

「推品は奴隷の方が可愛いよ〜」

「それ、言っちゃいけないセリフ」

 飛芽と推品の戯れ合いが一段楽してから、暗黒寺は今後の話をする。

「とはいえ、民間戦隊が大量に存在するように、犯罪組織も無数だ。神田推品をスカウトしに、前回同様かそれ以上の手段を取るかもしれない。

 この懸念への対策に、寸止め美少女戦隊プリティスキンが用意するのは…」

 暗黒寺は、青波に用意させたイラスト入りフリップを取り出す。

「対策その一。

 神田推品の就職先と警備契約を結ぶ。

 この場合、就職先が神田推品を抱える危険を知った上での雇用となるので、ハードルが上がる」

 フリップには、推品の背後で、雇用主がビクビクと犯罪組織の影に怯えるイラストが。

 作意を感じるが、推品は即答する。

「却下。もう同僚に迷惑は掛けたくない」

「対策その二。

 神田推品が、自前の店を持つ。

 寸止め美少女戦隊プリティスキンが店のオーナーとなり、日常的に警備する環境を整える」

 フリップには、推品がスナックサファリみたいな店で、カレーライスを出しているイラストが。

 飛芽がウェイトレスをしている姿も入っている。

 実物よりも太腿と胸元の露出度が大きく、あざとくパンチラもしている。

 勃起しそうな程に、かわいい。

「いい」

 青波と暗黒時のイラストも描かれているのだが。推品は飛芽だけに食い付いた。

「そうでしょう? ほら、この飛芽さんの太ももの艶具合の再現が、我ながら絶品で。下着もシマパンなんです」

 青波の自慢に、推品はフルーツ杏仁豆腐を追加して褒め称える。

「おーい。まさか吾輩のウェイトレス採用も、対策その二に入っていなイカ?」

「…だって、日常的に、警備出来る、し?」

「吾輩、敵を倒して報酬を貰う生活の方が、性に合うし」

「その新撰組思考を、少し穏やかな方向にシフトしよう」

 推品は真剣に、飛芽のウェイトレスとしての採用に、乗り気。

 脳内では、閉店後に飛芽とエロマンガな展開でハッスルしているイマジネーションも湧いている。


「推品、飢え過ぎ」

 ウェイトレスの制服を着せたまま、立ちバックで求めてくる推品に対し、メス堕ちした飛芽が観念する。

「ばか…んん、あんっっ」

 スカートを捲り上げ、飛芽の引き締まった尻肉を鷲掴みにしてから、股間部分の布地をズラす。

 推品は肉棒の先端を、濡れ始めている飛芽の花弁に狙い定める。

 避妊具を付けずに合体しようとする推品に対し、飛芽は新作コンドームを渡す。

「付けろよ、礼儀だぞ」

 推品は渋々と、肉棒を花弁から一時離脱させる。

 新しいコンドームの装着に手間取っていると、飛芽が竿を握って装着を手伝おうとする。

「ほらほら、シッカリと」

 念入りに装着しようと、飛芽の手が推品の竿と玉袋を摩ってしまう。

「うっっっっっ」

 童貞は、イマジネーションの中でも、童貞である。

 飛芽の指で軽く扱かれた快感で、推品は道半ばでイッてしまう。

 大きく跳ね上がった肉棒が、緊急で制御不能な射精をしてしまう。

 飛芽の手を大きく飛び越し、飛芽の可愛らしい顔面に、熱々の白濁液が大量にブッかかる。


 そこまでイマジネーションして、推品は気を引き締める。

 列車事故で両親を失って以来、独り立ちの為に料理の腕を磨いてきた結果、巡り巡って目の前に店長の座が提示されている。

 飛芽で脳内自慰をしている場合ではない。

 そうは分かっていても、推品は我慢できずに、立ち上がって飛芽の手を握ろうとする。

 回避されたけど。

「あ、ごめん。思わず」

「うん、ああ、今のは吾輩もビックリした」

「伊藤飛芽さん!」

 推品は、左右に青波と暗黒寺が居ようとも構わずに、突っ走る。

「レッドという天職を転職しろとは言いません。でも、飛芽と離れたくない。副業で、俺の店で結婚してください!」

 飛芽のアホ毛が飛び出て天井に突き刺さり、青波の顎が外れ、暗黒寺のメガネが半分外れた。

(あ、違う、結婚でなくて、バイト)

 言い間違いに欲望が混じって変な文章に成ったと気付き、推品が泣きたくなる。

 飛芽も、顔を真っ赤にして、泣きそうになっている。

(順序を吹き飛ばしてしまったああああああああ)

 ものすごーーーーーーく気まずい空気の中。

 顔を真っ赤にした飛芽が、横を向いて、小さな声で、返答する。

「… … … … … 」

 推品・青波・暗黒寺は、飛芽のセリフを拾おうと、耳をほぼゼロ距離に寄せる。

「ごめん、もう一回、返答をリピート」

「 … 空いた時間に … 試用期間だけ … ウェイトレスを … てもいい 」

 震える飛芽の目が、推品の喜悦に輝く瞳と合わさる。

「客のクレームは、全て推品に回しちゃうぞ?」

 精神的にやや立ち直った飛芽が、慣れぬ接客バイトへの保険を口にする。

「分かった! 全部回せ! 飛芽にクレームを付けた客は、全て通報して社会的に抹殺する!」

 推品は、寸止め美少女戦隊プリティスキンと、新しい関係を結び直した。



 一ヶ月後。

 渋谷スクランブル交差点を眼下に見下ろせる最高の立地で飲食店を構えた神田推品は、伊藤飛芽(ウェイトレス)が股間にクリームパフェをぶち撒けてしまった客(身長2メートル30センチ、体重150キロ)からのクレームに対応していた。

「おうおう、こういうハプニングが起きたら、当のウェイトレスさんが『ふきふき』するのが自然の掟じゃないの? 店長さんがお詫びに金を包めばいい問題か〜!? 『ふきふき』一択でしょうが?! 『ふきふき』で世界は平和に満ち足りるぜ、どっピュン! なんなら、逆に客のオレがウェイトレスに『ふきふき』してもいい」

 客というより、こういうハプニングを待ち受けてセクハラを強要するタイプの変態だ。

 客席に座っていても見上げなければいけない巨漢を相手に、喫茶『夢幻旅行』の店長・神田推品は、そういう客の企みに乗っかってワザと股間に盛大にパフェを溢した飛芽を内心で苦笑する。

「そうですか。セクハラ目的ですか」

「人聞きが悪いな、小僧。ハプニングを有効活用しているだけ…」

 推品は荒ぶる客を無視して、飛芽にオーダーを出す。

「飛芽。店に『ふきふき』目的の変態が現れた。駆除を頼む」

「はっはっは、意外と稼げる副業で、吾輩は嬉しい」

 話の流れを察した客が、立ち上がって戦闘態勢を取ろうとするより速く、飛芽はウェイトレス姿からプリスレッドに変身する。

 手刀で払い除けて脱出しようとする客に対し、プリスレッドは肘打ち一発で顎を砕く。

「逮捕だ、痴漢。警察は二分で来るから、諦めろ」

 そして二分以内に駆けつけた警察に痴漢を引き渡すと、変身を解いてウェイトレスに戻る。

 その一部始終を、他の客たちがスマホで撮影しまくる。

 その映像を餌に、ネットに寸止め美少女戦隊プリティスキンと喫茶『夢幻旅行』の話題が拡散していく。


【〜とあるネットの片隅で〜】

「股間の食い込み造作が、神ですな」

「フリフリ付きレオタード。民間戦隊でないと、あり得ないエロ型コスチューム(感謝の土下座)」

「三日に一度は戦隊戦士の活躍を拝めるという店の評判は、間違っていなかった」

「変身途中のセクシー描写も、スクショ出来ましたぞ、お屋形様」

「シマパンだったし」

「もうバストサイズが80は超えちゃったよね、トマト」

「なあ、この店の若店長、トマトと出来てる?」

「そこを掘り下げるな若造(裏拳)」

「死人が出るぞ、若いの(キャメルクラッチ)」

「女戦士のセフレの存在なんぞ、卒業とか引退するまで、意識しなくていいのじゃアアアア(地獄の断頭台)」

「ごめん、俺が間違っていたよ、兄ちゃん(吐血)」

「分かればいい、分かれば」

「なあ、他のウェイトレスも、民間戦隊の人?」

「青波ちゃんは…違うだろ」

「あれは戦士じゃないよ。客に胸を揉まれても喘ぐだけで、トマトに助けられるまで何も出来なかったし」

「一般人でしょ」

「痴女だろ」

「普通は、へし折るよね。普通の戦士は」

「身を任せないよな」

「CM要員じゃね?」

「一番エロ可愛いのになあ」

「フェイスガードやヘルメットを被らないのは、ビジュアル担当だから?」

「見せパンならぬ、見せ隊員?」

「俺は偶にシフトに入る、暗黒寺推し」

「あれも戦隊とは無関係だろ」

「でも、ドキュンの客が、心臓発作で搬送されたし」

「それ、攻撃?」

「それがワザとなら、スタンド使いだろ」

「でも、あの巨乳に手を出そうとした客が、軒並み…」

「祟りじゃあ」

「文系黒髪ロングの巨乳を揉もうとすると、渋谷では心臓発作に襲われる。これ渋谷聖闘士の常識」

「渋谷聖闘士って何だよ」

「聖闘士に渋谷は似合わないよ」

「それ聖闘士差別」

「一週間で五人は、祟りだろ」

「暗黒寺さん、強キャラ?」

「巨乳文系というより、凶乳魔導師?」

「被害者はどうせ痴漢だ。変態だ。性犯罪者だ」

「情けは無用」

「でも、あの乳は揉みたいです」



 そこまでネットの書き込みをチェックした暗黒寺は、休憩室で顔を顰める。

「やばい。五人連続で、同じ呪いをかけてしまった。バリエーションを考えるべきか、シフト入りを減らすか?」

 と、正体を隠す方針を貫く暗黒寺に対し、青波綾風は悔しそうに涙目で決意する。

青波「みなさん。次に私が客にセクハラされたら、助けないで下さい」

 青波は、店内メールで所信表明をする。

青波「自力で迷惑な客を撃退してみせます。そして、変態逮捕の報奨金を、ゲットして見せます!」

推品「分かった(次回は青波がセクハラされるパターンか)」

飛芽「いいぞう(次回は青波が輪姦されるお約束か)」

暗黒寺「セーフティラインは、どこまで?」

 青波は、自身が敗北して、エロ小説のメインディッシュにされる可能性を考察してから、返信メールを送る。


青波「着床しそうになったら、寸止めしてください」


 三人は、心中で「それはっ、ほぼ助かっていない状況だろ?!」とツッコミを入れたかったが、青波の成長を促すために、自重した。


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