九話 キラートマトの子守唄(2)

 六人のサキュバスが、股間に生やした肉棒を扱きながら、プリスレッドを取り囲む。

 勃起した肉棒で周囲を囲み、いつでも突き立てられるように、いやらしい笑みで推品に筒先を誇示する。

「先輩。サキュバスの子種汁は、妊娠する確率が八割を超します。六人で輪姦すれば、確実にトマトさんは…」

 推品が顔面蒼白で絶望する中。

「煩いな」

 プリスレッドが寝たフリをやめて、六人のサキュバスを一気に吹き飛ばす。

 肉棒を推品に見せている最中だったので、六人は無防備に急所を晒しているも同然。

 全員悶絶して床に転がり、戦闘不能。

「マンションを壊さずに配慮した分を差っ引いて、ウインナー潰しだけで勘弁してやる」

 遠萌ファイは顔色一つ変えずに、推品を椅子にしたまま、プリスレッドに向き合う。

「戦闘服のお陰? サキュバス六人掛かりの催眠攻撃が効かないとか、理由が知りたい」

「吾輩は天邪鬼だから、寝ろと言われると起きているのが好きなのだ」

 攻撃銃(ブラスター)を遠萌ファイの顔に向けながら、プリスレッドはサキュバス達に警告する。

「話は幹部とだけする。サキュバスさん達は、退け」

「退いていいわよ。邪魔だから」

 サキュバス達は、上司の許可を得たので、壁の向こうに去っていく。

 遠萌ファイは、少しニコリと表情を崩して話を続ける。

「先輩の新居を、壊さない為? 優しい」

「推品の家族アルバムのデータの入った、ノートパソコンが有る。たとえクラウド保存されていても、破壊される可能性は、排除したい」

 遠萌ファイは、測り難いものを見る目で、プリスレッドを見直す。

「命を守るだけじゃ、済まさないのね。贅沢な戦隊」

「戦士なら、心も守れと、教えられた」

「嫌な敵」

 遠萌ファイ。

 サジャリ魔王軍の首席参謀は、話し合いを神田推品への脅迫から、プリスレッドとの交渉に切り替えた。

「投降します。条件は、一人の妊婦の保護と、育児に関して」

「…マジで、その条件?」

 プリスレッドは、通信妨害がなくなったのを確認しつつ、応援を求める。 

 チャンバラ展開は大好物だが、真面目な話し合いは「ちょいと」苦手なプリスレッドであった。



 遠萌ファイが投降したという案件の波及は、プリスレッドの予想を大きく超えていた。

 プリスブラックとプリスブルーが一番に駆け付けたのは当たり前だが、その後、民間戦隊の中でもトップランクに入るチームの代表が、十人以上集まって遠萌ファイの交渉に立ち会うという段取りになると、ビビってきた。

「あのう、遠萌ファイさんは、大物なんですか?」

 らしくもなくお茶を淹れながら、机に座って推品の家族アルバムを見て爆笑している遠萌ファイに、飛芽が質問する。

「大物というより、レアものね。人のスキルを見抜く眼力は勿論…」

 遠萌ファイは足を伸ばして、推品の股間を足の指で突く。

「童貞君の初フェラチオまで、幅広い活躍を」

 飛芽が推品をガン見して、事の真偽を確かめようとする。

「…料理教室の帰りに、押し倒されて、無理矢理…」

 推品は顔がニヤけないように気を引き締めたが上手くいかず、遠萌ファイは要らん一言を付け足す。

「先輩は、お汁も美味しかったのよ」

 攻撃銃を遠萌ファイに向けて発砲しようとする飛芽を、周囲の戦隊戦士たちが手早く止める。

「挑発に乗るな。彼氏が元カノにフェラチオされたくらいで乱れるとは、修行が足りん」

 輝き戦隊キラキラレンジャーのシャイニングゴールドが、目に悪いレベルのキラキラしたコスチュームをしたまま、飛芽から攻撃銃を取り上げて説教する。

「無理矢理しゃぶられて、吸い取られただけなら、良かったね、気持ち良くて、と笑って済ませてやろう。それが人生だ」

 適当戦隊イカサマンのイカサマシルバーが、飛芽をコブラツイストで拘束しながら、適当なアドバイスをする。

「貴重な上級幹部クラスの捕虜に、銃を向けるな。情報の宝庫だぞ」

 取り調べ戦隊オトスンジャーのカツドンゴールドが、推品を別室に下がらせて、遠萌ファイの対面に座る。

 フェイスガードを外し、縦巻きロールの金髪美女の素顔を晒すと、交渉に入る。

「保護して欲しい妊婦の名前を明かさないのは、安全の為だと理解します。

 神田推品の店に入って、頻繁に彼の料理を食べる行為にも、干渉はしません。

 ですが、これから十ヶ月以内に、店の常連になる妊婦となれば、対象は絞られます。

 最初から明かしてもらった方が、お互いに守り易いと考える。

 どう?」

「既に最低でも三人の妊婦に、影武者を依頼しました。出産までは、的を絞らせません」

「民間戦隊が、胎児のうちに妊婦ごと殺そうとする可能性は、極めて低いと思いますが…そこまで警戒されるレベルの、魔王が産まれると?」

「この金剛参謀・遠萌ファイが、虜囚に堕ちても護ろうとする赤子。勿論、約定を反故にした場合のペナルティは、仕込み済み」

 遠萌ファイは、指を三本立てて宣言する。

「赤子が成長し、七五三を迎える度に、仕込みをひとずつ明かして無効化しよう。君たちは、計八年間、子供への手出しを控える。

 これが守られない場合、この金剛参謀・遠萌ファイは、少なくとも三つの百万人都市を破壊する」

「随分と一方的な脅迫になってきたわね」

「民間戦隊の溢れた国で、魔王の赤子を世話する以上、最高に最悪の手段を講じないと。

 これがハッタリではない証拠に、仕込みの一つを晒しておく」

 

 二時間後。

 渋谷の上空二千四百メートルに滞空していたステルスドローンが、民間戦隊の手で回収される。

 中には、ペストとエボラウイルスの散布装置が仕込まれており、遠萌ファイは交渉に成功した。



「という訳で、最低でも八年間、プリティスキンは神田推品の店と癒着する運びとなった」

 暗黒寺の言い方が酷い。

 まだ怒っている飛芽と、気まずくて小さくなっている推品の間に挟まれて対応に困る青波は、話を進めようと暗黒寺だけに集中しようとする。

「うちの戦隊だけではなく、他の民間戦隊もローテーションを組んで防御に回ってくれますよね?」

 八年間という長期間のディフェンス仕事に、青波は抜ける場合の確認を取る。

「心配しなくても、全員が一度に有給を取得しても、全員が一度に寿退職しても、全員が一度に産休しても、他の民間戦隊が穴を埋める。

 でも特別給付金ボーナスが入るので、私はこの仕事から離れない。私が最後まで見届けるから、飛芽と綾風は、八年間みっちりと務めなくても大丈夫」

 気が楽になった青波綾風は、ギスギスとした二人に話を振る。

 迂闊にも。

「じゃあ、後は、飛芽さんと推品が仲直りするだけですね」

 飛芽は衣服の上から青波の両乳首を摘むと、心得違いを糺す。

「おいこら、勘違いするなよ、天然エロ美少女戦士。吾輩が怒っているのは、このエロガキシェフが吾輩に懸想していながら、フェラチオ専用ガールフレンドを隠してキープしていた事にだ。

 これは普通に二股案件ではなイカ?

 この場合、するべき事は仲直りか?

 言葉の選択には、乳首を賭けろ」

「ふあう、違いました〜、仲直りではなく、調教とか再教育が必要でした〜」

「うん、それだ」

 飛芽は青波の乳首を解放すると、推品のズボンを鷲掴みにし、寝所に連行しようとする。

「フェラチオに関する記憶を、上書きしてやる。コンドームを装備しろ」

「…ふぁい?」

「吾輩が、しゃぶってやる」

 飛芽は推品をベッドの上に放り込むと、暗黒寺と青波に見せ付けるように、ニトリル手袋を装着する。

「生では接触しないから、安心して待機していろ。しばらく推品の悲鳴が聞こえると思うが、気持ち良さ故だ。踏み込んでくるなよ」

 そう言い置きして、飛芽は寝所の戸を閉める。

 暗黒寺は、茶を淹れ直す。

「あのう、暗黒寺さん」

「何だ?」

「推品さんだけでなく、飛芽さんも快感の悲鳴をあげたら、どうしましょう?」

 暗黒寺は茶を飲み干し、三杯目の茶を淹れてから、言葉を返す。

「いいよもう。放っておこう。嫉妬に狂って、しゃぶると自分から言い出すまで惚れている以上、もういいよ」

「そうですね」

 青波は口では同意しつつ、寝所に設置した隠しカメラで中の様子を確認する。

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