寸止め美少女戦隊プリティスキン

九情承太郎

第一部 寸止め美少女戦隊、立ち上げます

一話 元トマト怪人娘の転職(1)

 胸元に貼り着いた白濁液をシャワーで洗い流しながら、伊藤飛芽(いとう・とめ)は、やっちまったなと反省する。

「誤解される誤解される誤解される絶対に、エロい方向で大きく誤解されて、吾輩ヤベえ。前作で一番マトモなキャラとレビューで讃えられた、吾輩の評判がヤベえ」

 胸部装甲を中心にぶっかけられた白濁液が排水口に流れていくのを見届けてから、飛芽は手早くボディソープで胸元を洗い終え、シャワーを切り上げる。

 居間に控えていた神田推品(かんだ・おしな)は、伊藤飛芽がバスタオル一枚で出て来たので、カワイイ目を見開いてガン見する。

 もぎたてのトマトのように生気に満ちた輝く赤毛をセミロングで揃え、攻撃的にエロ可愛い小顔が、パンツ一枚の推品の股間を覗き込む。

「拭いただけ?」

「ティッシュで充分に、拭けました」

 飛芽は、嗅覚で臭いを確認する。

「まだイカ臭いよ。シャワーで流しなよ」

 推品の視線が、飛芽よりも飛芽の胸の谷間に行ってしまう。

 飛芽(推定年齢十五歳)の胸部装甲は、微乳のカテゴリーで評される微妙な大きさではあるが、シャワー上がりのバスタオル一枚で構成された谷間を間近で見てしまった以上、十五歳の健全男子である神田推品に残された人生の選択肢は…

「シャワって来ます!」

 完全に勃起してしまう前に、シャワールームに駆け込むという、一択。

 誤解を招く臭いを落としっつ、脳裏に焼き付いた伊藤飛芽の胸部装甲でリミットオーバー寸前にまで高まってしまった性欲を、発散しておく。

 発散してから、そこが他人様の家であると思い出し、慌てて洗い流す。

 慌てているうちに、家主が買い物を済ませて帰宅する。


 狭い小型電気自動車内でスーパー戦隊の主題歌メドレーを流しながら、家主は帰宅する。

 圧の強そうな気配を漂わせる文系のおかっぱ頭型眼鏡美人は車庫入れの無傷を確認してから、助手席の清楚系長髪美少女に命令を下す。

「起きろ、青波。寝顔に性的なイタズラをされるぞ」

 助手席で居眠りをしていた青波綾風は、物騒な警告を受けて飛び起き、フロントガラスに頭を打つけて頭を押さえる。

 ドジな清楚系美少女の自爆には構わず、暗黒寺満娘は買い物カゴを後部座席から出して、玄関を顔認証で開錠する。

「ただいま」

 帰宅して早々、美味しそうなイカ臭さが漂っていたので、いやんバカンな可能性を想起しつつも、居間に入る。

 伊藤飛芽がバスタオル一枚から、紅白のシマパンに履き替えている最中だった。

「おかえり」

 風呂場には、シャワーを使用中の気配。 

 保護対象の少年が居間にいない以上、シャワーを浴びているのは少年だろう。という推測を確認する為に、満娘(マコ)は風呂場のドアを開ける。

「入るぞ」

 神田推品(かんだ・おしな)が、赤面しながら、股間を念入りに洗い流している最中だった。

「あ、あの、すみま…」

「構わない。無事を確認しただけだ」

 少年の不慮の自慰行為には言及せず、満娘(マコ)は室内の映像記録を居間で確認する。


 三十分前。


 大皿で白いイカ墨パスタを手際良く作った推品が、ちょいドヤ顔で飛芽の前に料理を置く。

「俺のオリジナル、ビジュアルが白いイカ墨パスタ。店で注文したら、三千円は取るけどね」

「くうっ、恩着せがましい! でも匂いだけで吾輩は敗北を宣言する」

 無我夢中で食べ始めた飛芽が、一分で食い尽くして残った白いイカ墨も飲み干そうと、大皿を持ち上げる。

 突然、飛芽が咽って、胸元に白いイカ墨を溢す。

 口から隠し味の唐辛子が吐き出され、白いイカ墨を撒き散らして推品の股間も汚す。

 二人は慌てて、服と床と絨毯を綺麗に掃除した後で、飛芽から先に脱衣してシャワーを浴びに行った。

 推品はせっせと、二人の衣服に付いた白濁液を拭き取りながら、順番を待っている。


「敵に催淫ガスを吸わされた訳でも、保護対象と恋に落ちてパイズリしてあげた訳でもないようだ」

「即堕ちするように見えるの、吾輩?」

「まあ、別に、飛芽が少年の性欲を処理してあげたというオチでも、構わなかったけどね」

「その手の誤解は、絶対に容認しない」

 トマト色の普段着に着替え終えた伊藤飛芽が、黒衣の作家に言明する。

「吾輩はレッドだ。斬り込み隊長だ。エロ可愛さは求めるなよ、求めたら辞めるぞ、こんなポッと出の民間戦隊」

「求めないよ。エロ可愛い要員は、間に合っているし」

 買い物を冷蔵庫に詰めていた青波綾風が、風呂場から出てきた神田推品にぶつかって倒れ、二人とも転倒する。

 推品の顔が、ラッキースケベ現象で綾風の清楚系胸部装甲に挟まれる。

 あくまで事故なのだが、着衣越しでも伝わる綾風の胸部装甲の大きさと柔らかさに包まれて、推品は脳が蒸発しかかる。

「あのラッキースケベは、青波の地か?」

「そういう体質らしい。採用理由はメカ担当だから、問題は…」

 発情してしまう前に離脱して起き上がろうとした推品が、同時に起き上がろうとした綾風に衣服越しの美乳に押し飛ばされて、再び転倒する。

「まさか、ラッキースケベで敵を倒せる?」

「知らん。戦闘実績は、無い」

「は?」

 飛芽も驚いたが、推品も驚いた。

「だって、昨晩は…」

 推品は、彼女たちに助けられた二十時間前の記憶を脳内で再生する。



 二十時間前。

 つまり回想シーン開始。



 神田推品が勤めていたレストランから退勤したら、悪の秘密組織に出待ちされていた。

 オタマジャクシ型戦闘員二十名に、カエル系怪人五人。

「私の名前はスパイシーピア。サジャリ魔王軍からスカウトに来てあげたわよ」

 そして強くて偉そうな、ボクサーパンツ一枚の筋肉ダルマ型幹部スパイシーピアが一人。

「若いピチピチのベビーフェイスのシェフに、毎晩女体盛りを作って欲しいの〜〜〜!!! 時給千二百円で」

 上腕二頭筋をピクピクと見せつけながらの怪しいスカウトに、推品はハッキリと断った。

「時給二千五百円以下は、お断りです」

 若いシェフは、技量の安売りはしなかった。

 部下達に周囲を警戒させながら、筋肉ダルマ型幹部スパイシーピアはスカウトを続ける。

「魔王様の専属料理人に、スカウトよ。お気に入りになれば、時給は上がり放題だと思うけど?」

「いえ、犯罪組織に就職すると、その後の人生が辛いので」

「辛くないけど?」

「そうには、見えない」

 パンツ一枚である。

 衣料費に関して誤解されていると感じたスパイシーピアは、肉体美こそが衣料であるという主張を耳元で囁きたい欲求を抑えて、仕事に専念する。

「来なさいよ。断るとどうなるのか、察しなさい」

「断る」

 要望を断ると、悪の秘密組織は実力行使を始めた。

「戦力差を分からせる為に、人件費を無視して大勢で来たのに。イケナイ坊や」

 スパイシーピアは、全身の筋肉を動かすボディサインで、配下達に指示を出す。

 逃げたり通報する事も叶わず、戦闘員たちに十重二十重に囲まれて、ハイエースに向けて運ばれてしまう。

 カエル系怪人五人は、勤めているレストランを五秒で解体し、中にいた人々を摘み出して追い払う。

「ほら、職場は消え失せたわよ。此方に縋りなさい、無職さん」

 推品は怒りの絶叫を上げるしかなかった。

 そこまで強引に勧誘してきた悪の秘密組織の組織名を、推品は忘れてしまった。

 その後、一分で、そいつらが全滅したので。

 大声で喚き続け、ハイエースに連れ込まれないようにジタバタと暴れて粘っていたら、付近にいた民間の戦隊ヒーローが参上してくれた。


 その戦隊は、名乗りをせずに、一気に襲ってきた。


 赤い戦闘服を装備した伊藤飛芽が、赤い光弾のように一気に怪人五人と戦闘員二十名を、撃って殴って蹴って潰して弾き飛ばして、殲滅する。

 派手に見栄を切ってから戦うという様式美を蹴散らして、一方的に叩きのめした。

 動きが峻烈過ぎて、推品が飛芽のコスチュームを確認出来たのは、戦闘が終わってからだ。

 明るいトマト色の超薄型レオタードを第一装甲にして、全身にフリル状の第二装甲を飾り付けている。

 闘っている時は不死鳥(フェニックス)の如く見えたが、普通に立っていると、派手な衣装の女子プロレスラーにも見える。

 頭部の装甲がフリルリボン型のヘッドギアなので、推品は飛芽の顔を一発で覚えた。

 攻撃銃(ブラスター)を残った敵に構えながら、飛芽(とめ)は一応、リーダーに確認を取る。

「なあ、最後の敵も、吾輩が食っていい?」

「この戦闘服の試運転を兼ねているので、譲って」

 バニーガールのようなエロい露出度の第一装甲の上に陰陽師風のシールドアーマーを第二装甲として羽織るという、コケティッシュ&スタイリッシュな黒色戦闘ユニットと化した暗黒寺満娘(マコ)は、残った幹部に対峙する。

「いいぞ。来なさい」

「舐めるな」

 スパイシーピアが、距離を詰めると同時に、タックルを決める。

 居合い抜きのような、刹那で決めるタックルだった。

 スパイシーピアは、このタックルでリムジンを一撃で破壊した事もある。

 そのまま押し倒してマウントを取りたかったのか、抱き付いて絞め殺すつもりだったのか、戦術は不明。

 暗黒寺満娘(マコ)は、タックルされても全く動かない。

 編笠型の頭巾が、少し揺らいだだけだった。

 異常な不利を悟って次の手に移る前に、暗黒寺満娘(マコ)はスパイシーピアに頭から呪符を大量に浴びせていく。

 スパイシーピアが、硬直する。

 撒かれた呪符が全て路面に落ちるより早く、暗黒寺満娘(マコ)が強く柏手を響かせる。

 スパイシーピアが、消えた。

 二度目の柏手を、暗黒寺満娘(マコ)が響かせる。

 呪符と一緒に、他の怪人や戦闘員も消えた。

 敵が全滅した頃合いで、青波綾風が、美乳から美尻へのラインが丸見えの青い超薄型レオタードを第一装甲に、メタリックな白衣型アーマーを第二装甲にして顔を出す。

「専用拘置所への転移を確認しました。実験は成功です」

 これは相当に怖い民間戦隊に違いないと、推品はそのまま身を任せた。



 回想シーンが終わる。

「あ、本当だ。青波さんだけ、戦闘には参加していない」

 推品は納得したが、飛芽は納得しない。

「おい、立ち上げる新戦隊は、経験豊富な面子だって言ったよな?」

「私と君が、経験豊富だ。そして、経験豊富な面子だけとは言っていない」

「嘘を言わなくても嫌われる経験も、豊富だろ?」

「察して」

 察していない青波綾風が、モジモジと衣服の乱れを直しながら、口を挟む。

「あのう、まだ、保護対象者に、戦隊の自己紹介をしていないと、思いますが…胃のせいでしょうか?」

「気のせいだ」

 飛芽がボケにツッコミつつ、記憶を辿る。

「なあ、神田さん。吾輩たち、名乗った、よな?」

「いいえ。民間戦隊っぽいから保護されるままにされましたけど、名刺も貰っていません」

「あ、作ってなかった」

 暗黒寺満娘(マコ)が、眼鏡を曇らせる。

「マジかよ?」

「五人揃えてから、裏に五人全員の名前入り名刺にしたくてさ」

「揃ってさえいないのか?」

「民間戦隊に就職したがる女子の希少さを舐めるな、トマト」

「あと何人?」

「二人。一緒に探そう」

 推品は三人のやり取りを、ちと呆れながら聞いていたが、飛芽はこういうマヌケな異常事態には瞬時に順応する。

「で、話を戻すと、青波の戦闘力は?」

 暗黒寺が何かに喩えて評価する前に、青波が自己主張する。

「大丈夫です。民間戦隊に加入する以上、訓練は始めていました」

「おお」

 飛芽は、青波の美乳を見直す。

「ただの清楚系美乳美少女でなくて、安心した」

「一週間前から、ストリートファイターⅡを始めています」

 一同は、青波の自信に満ちたプチドヤ顔を見る。

 そして、飛芽と推品が、責めるように暗黒寺を見る。

「青波はメカニック担当だから、戦闘への参加は、半年の基礎訓練を終えてからでいい」

「訓練で、如何にかならん場合は?」

 飛芽の脳裏には、並の戦闘員にアッサリと負けて、輪姦されそうになる青波のエロ姿がチラつく。

「後方支援に特化してもらえばイイだけだよ」

 責められても、責められ慣れている暗黒寺は、責任を適当に受け流して話を元に戻す為に、改めて自己紹介をする。

「我々は『寸止め美少女戦隊プリティスキン』。

 私はリーダー兼作家の暗黒寺満娘、プリスブラックだ。

 君の保護が初仕事だから、優しくゆっくり丁寧に、君が日常生活を取り戻せるまで、助ける。それを実績にして、国の補助金と税制優遇措置を勝ち取り、体験談を本にして印税生活を充実させる」

 嘘は吐かずに本音を言っても人をウンザリさせつつあるリーダーに、主人公・伊藤飛芽は、すんげえ嫌な顔をしてしまった。

「プリティスキン。コンドームみたいな名前ですね」

 推品は保護されている立場なので、波風を立てないように砕けたトークを心掛ける。

「まさにコンドームの開発関連会社が、スポンサーだ」

 暗黒寺が、携帯端末からスポンサーの広告映像を見せる。

 

 青波綾風が、透け透けネグリジェ姿で、ラブホテルのベッドの上で彼氏にコンドームを差し出す。

「着けてあげる。お互いを守りましょうね」

 鮮やかなリップの乗った唇で、コンドームの包装を『にゅるり』と破り、舌の上にコンドームを載せてみせる。

 青波綾風の舌が、コンドームを伸ばすように、めちょめちょと蠢く。

 地上波でこの広告を流したら、速攻でクレームが殺到して放送禁止になりそうな、エロ清楚小悪魔ぶりである。


 思わず青波を見てしまう推品の視線に、モジモジと照れながら、青波は言い訳をする。

「広告映像に出演すれば、民間戦隊の戦闘服を、任せてくれるという条件だったから」

 メカニックが出来るなら、何でも売り飛ばすマニアックな娘だった。

「青波綾風、プリスブルー。

 メカならガンヘッドからホチキスまで、何でも製作可能です」

「うん、よく分かった。青波にメカニック以外は、期待しない」

 飛芽は完全に割り切ると、押品に向き合って宣言する。

「吾輩がいるから、心配するな。

 伊藤飛芽、プリスレッド。

 このちょいエロ戦隊のレッドだ」

「よろしくお願いします」

 飛芽の手を取って握手すると、押品は飛芽の肌の感触に、思わず口と鼻を付けて風味を確かめてしまう。

「? 匂いでも残っているのか? もしくは発情の第二波?」

「いえ、何となく、良いトマトを手にした感触がしたので、反射的に」

「あ〜…そうか。君には、吾輩がトマトに見えるのか…」

 元トマト怪人娘にして、極秘戦隊スクリーマーズの元レッドスクリーマー(仮)は、一流のシェフにトマトとして誉められて、喜びを感じてしまう。

 ニッチな変態だと思われるのがイヤなので、推品には申告しないけど。

「不思議です。何だか、最高のトマトを手にしたような…あっ、すみません」

 推品は飛芽から手を離し、失礼を詫びる。

 客観的に見ると、少年が少女の手に発情したようにしか、見えない。

「いいよいいよ、手を触りまくるくらい」

「いいえ、何となく、そのまま齧ってしまいそうで」

 プリスレッド・伊藤飛芽と、魔王の料理人にスカウトされた天才シェフ少年・神田推品との恋仲の始まりは、食材としてだった。

「いいって、ひと口齧るくらい」

「許しちゃダメでしょ、ひと口も」

 古強者ぶってもチョロい飛芽に、推品の方が引いた。

 そんなやり取りを間近で見て、鈍い青波ですら、やばい状況に気付く。

「あのう、満娘(マコ)さん」

「ああ、やばい。このカップリングは、やばい」

「飛芽さんの正体を知ったら…」

「我慢出来ないかもしれない。シェフとして」

「その時は…完食しましょう」

「同意見だ」

「お皿のスープ一滴すら、残さずに」

「それが供養というものだ」

 ラブコメしているので、新しい同僚たちが薄情だと気付くのが遅れる、プリスレッド・伊藤飛芽だった。

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