七話 青波綾風のフルマスク(3)
それは、非常に際どい作戦だった。
プリスブルーは、臀部を覆う戦闘服を、解除する。
スパイシーサクジの眼前に、清楚系美少女の股間が、無防備に開放される。
望みの光景を目にして、移動した戦闘服の布地が、何処に消えたのかを失念する。
「美しい。極上の真珠貝のようだ。うん、任せて、本当に気持ち良く落ちていけるから」
スパイシーサクジの顔が、プリスブルーの股間へと埋まっていく。
その隙に戦闘服の布地は、プリスブルーの尻肉から背中を通り、頸の周辺で収束していく。
プリスブルーの思念操作で、臀部の装甲ではなく、頭部を守るマスクとして再構築される。
このレベルでの戦闘服製作が可能な故に、青波綾風は民間戦隊で地位を得ている。
プリスブルーは最後の細工を悟られないように、股間を舐め回すスパイシーサクジの舌技に合わせて、切なそうに喘いでみる。
「芝居が下手だな」
スパイシーサクジは、目の前の真珠貝に夢中でしゃぶりついてはいても、油断は一切していなかった。
「時間稼ぎか? やはり、一気に落としておこう」
舌技での前戯を切り上げ、男根型触手の中でも、特に長くて太い物をプリスブルーの股間へと密着させる。
無防備なプリスブルーの花弁に、本命の凶器が生で挿入されていく。
「さあ、魔王軍の女に…」
スパイシーサクジは、その段階で久しぶりに、プリスブルーの上半身を視界に入れる。
そこでスパイシーサクジは、異常に気付いた。
先程まで発情していたプリスブルーが、平常の顔でいる。
これから犯される獲物の顔ではない。
「何をした?」
「退屈だったから、編み物」
プリスブルーの頸から戦闘服の布地が展開し、サメのような意匠の新しいマスクが、形成された。
清楚系美少女の顔が、人喰いサメの如き、青く精緻な殺戮機械の面持ちに変貌している。
彼女の呼吸も鼓動も、もはや発情していない。
腰痛や生理痛、腰の保温やエロい妄想をして濡れてしまった時のカバー機能を全てリセットし、頭部を守って装着者をクールダウンさせる事にのみ全振りしてリメイクしたマスクは、プリスブルーを冷徹な戦士に仕上げていた。
「お死になさい」
そこには敵に慌てる新米の戦士も、エロい攻撃に翻弄されて自慰しかけた美少女も、いない。
「シャアアアアアーーーッッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッーーーアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッッ〜ッッーーッッアアア!!!!」
マスクから、サメの歯型に似た超音波攻撃を周囲に飛ばす、アブナイ戦隊戦士が、誕生した。
スパイシーサクジの男根型触手が、鮫に喰い千切られるマグロのように、次々と消し飛んでいく。
敵の肉体のみを破壊し、部屋には全く傷を付けないように調整された超音波攻撃が、青鬼のような巨体を消しゴムのように削除していく。
「まさか、一対一で負け…」
スパイシーサクジの頭部が、残された男根型触手より先に、全壊する。
プリスレッド・伊藤飛芽は、プリスブルーの勝利を端末情報で確認してから、ラブホテルの部屋に入った。
部屋の入り口から、マスターキーカードを使って。
約束通り、マジで着床するまではと、扉一枚向こうで待機していた。
「どうだよ、ブルー。初勝利の味は…」
プリスレッドーは、男性型触手が何本も転がり、血の池と化した室内には絶句しなかったが、プリスブルーの姿には絶句した。
頭部の布地に移動して展開したままなので、股間が丸出しである。
マスクはカッコいいのに、胴体と足はエロいレオタード。
そして股間だけ、丸出し。
そんな姿なのに、新しいマスクに「どんな時でも平常心を保つ」機能を付けてしまった為に、プリスブルーは現在、羞恥心が湧いていない。
プリスブルー「特に何も」
プリスレッド「ああ、うん、そうか。服を着よう」
言われてプリスブルーは、破壊された白衣アーマーの欠片を集め、肩に羽織る。
プリスブルー「では、新しいコスチュームを、外の世界にお見せしま…」
プリスレッド「出るな! 見せるな! 早く股間を隠さないと、この場でシバイてトランクに詰めて運ぶぞ、バカもん」
必死に制止するプリスレッドと平常ボケしたプリスブルーに、近くの専用車からプリスブラックが端末を繋ぐ。
プリスブラック「怪人の初撃破、おめでとう。最後は圧勝のデータが残されたけれど、それはマスクを被った時だけの副作用かな? 改善は可能だよね?」
プリスブルー「改善の必要があるとは、思えませんが」
プリスレッド「おいおいおいおいおいおい」
プリスブラック「重症だ。先ずは変身を解除…」
そのタイミングで、仕事を上がった推品が、端末を繋いで寸止め美少女戦隊と会話をしようとしてしまう。
推品「上がるぞ、帰宅までの護衛は誰が…」
端末の向こうの推品が、プリスブルーの改良された変身姿を目撃してしまい、固まる。
プリスブラックが推品の通信設定を音声オンリーにするが、遅い。遅過ぎた。
プリスレッド「推品。今の記憶は、忘れろ」
推品「無理だよ。こんなお宝映像が消える訳ないだろ? 人の記憶力を舐めるな!」
プリスレッド「そうか、ブルーをネタにして抜くのか。吾輩をネタにしたように」
推品「ごめん、今晩だけは、追求しないで」
プリスレッド「手伝ってやろうか?」
推品「引き抜く気だろ?」
プリスレッド「握り潰してやる」
推品「ラッキースケベは無罪だよ!?」
プリスレッド「今後の人間関係を考えてネタを選べという忠告を無視する気なら、吾輩は推品を嫌いになる」
推品「分かった。今夜は、トマトのネタだけで抜く」
プリスレッド「よし。よしじゃねえよ!」
推品「脳内スケベは無罪だよ!?」
プリスレッド「吾輩からの好感度ポイントを下げるのは、犯罪だ!」
プリスブルー「あのう、この姿の、何が問題なのでしょうか?」
プリスブルーが、今の自分の全体像を、推品の端末に送ってしまう。
推品「うわっ、おいっ、ダメだろ、いつにも増してダメだろ、青波」
プリスブルー「冷静なご意見を、求めます」
推品は、知人がこの行為に危機感を持つように、アドバイスを選んでから発する。
推品「これ、けっこう仮面かエンジェルブレイドと比肩するレベルで、ヤバい」
プリスブルーは、その作品の概要を調べ、五秒で決断する。
白衣型アーマーを股間に降ろし、股間をカバーする形にリメイクする。
プリスブルー「これで、問題は無くなりました、ね?」
プリスブラック「我々は、パレオスカートの下がノーパンという状況で、妥協するべきだろうか?」
プリスレッド「今夜は、もうこれでいい。今後は、変身を解いて、頭を冷やしてから考えさせよう」
そうすれば、マトモなスタイルに戻すだろうと、二人は青波綾風を見積もっていた。
翌日。
喫茶『夢幻旅行』での勤務を休み、プリスブルーの戦闘服調整を済ませた青波綾風が、昼休み中の飛芽と暗黒寺と推品に画像データを送って来る。
ほぼ初期にデザインが戻り、頭部をサメ型フルマスクで覆うバージョンになっている。
推品「マトモじゃん」
飛芽「ノーパンを諦めてくれて、安堵したぞ」
暗黒寺「何気にプリティスキンの存続危機だった」
青波「これが基本形態でして…」
好評に気を良くして、青波は本性を表す。
青波「これが、アクセルフォーム(超高速戦闘形態)です」
プリスブルーのフルマスク以外の部分が、大きく収束する。
レオタード部分はマイクロビキニになり、白衣アーマーは背中に回って推進ブースターと化す。
例えるなら、頭しか隠していない、極小ビキニの天使。
大事な所が諸々ハミ出てしまい、寸止めになっていない。
青波「見た目は防御力が低そうですが、素肌が見えるレベルに薄くなっているだけです。防御力に変化はありません」
プレビューした面々の沈黙に、青波は自作自慢を押し通す。
青波「レッドとブラックにも、同様の機能を付与出来ますので、問題点があれば今の内にお願いします」
飛芽「…後で、言葉を選んで話をするから、吾輩の許可なしで勝手に改造するなよ?」
青波「はい、勿論です」
暗黒寺「放課後午後五時に、校舎の裏に来やがれ案件だ」
青波「はい?」
暗黒時「私は今、怒っている」
青波「はい?」
推品は沈黙を貫き、この件から距離を置いた。
画像も削除し、仕事に戻る。
安国寺は臨時休業して、青波の自宅に急行してしまった。
放課後五時まで、待てないらしい。
飛芽「吾輩抜きで、本気の説教をする気だな」
推品「怒らせると、怖そうだよね、暗黒寺」
推品はブルベリーケーキを整えた皿を飛芽に渡しながら、プリスレッドのマイクロビキニ姿を妄想しないように自制する。
飛芽「吾輩も、怒ると怖いからな?」
推品はカチンと来たので、今夜はプリスレッドのマイクロビキニ姿を脳内でネタにしようと、予定を立てた。
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