十五話 五人目はクリスちゃん(1)

 喉を鳴らして潤んだ瞳で自分を見詰める青波に、遠萌ファイ2号はズボンのファスナーを開ける。

「我慢せずに、しゃぶりな」

 眼前に差し出された、凶悪そうな雄の肉棒に、青波綾風は口を開ける。

 舌で舐め上げ、唇で喰み、口内に含んで雄の肉棒を官能していく。

 口内で、雄の肉棒の先端から、雄エキスが滲み出る。

 その液体を舌に乗せた途端、青波綾風は更にピッチを上げて、しゃぶりつく。

 脳の片隅で、もう一度プリスブルーに変身すれば、媚薬効果を中和出来ると声がする。

(…これが終わったら)

 青波は、目前の淫事を優先させた。

 理性を失くしてフェラチオに専念する青波綾風に、遠萌ファイ2号は警告無しに、口内で射精する。

 言われなくても、青波綾風は口内に出された雄エキスを、飲み干す。

 完全に、屈していた。

 遠萌ファイ2号は、新しい性奴隷の口から肉棒を引き抜くと、肉棒の汚れを青波綾風の頬で拭う。

 そんな扱いをされても、青波綾風は遠萌ファイ2号にハートマークに満ちた目を向ける。

「私は、遠萌(ともえ)ファイ2号。君はご主人様とさえ、呼べばいい」

 自信満々に堕とそうとする遠萌ファイ2号に、青波は素直に返事をしようとして、失敗する。

 

「はい、ご主っ…」

 言い掛けて、青波は舌を噛んでしまう。

 言い間違えて、二重の意味で、噛んでしまう。

 舌を噛んでしまった痛みで、少しは理性が戻って来る。

(変身しないと、下の口でも飲んじゃう?!)

 再び戦闘服を装着し、平常心に戻る。

 一方、カリスクビー魔王軍の駆逐大隊指揮官・遠萌ファイ2号は、大きなショックを受けた。

「私の事が、舌を噛んで死のうとする程に、いやなのかあああああああああ????????!!!????」

 ここまで体液を飲ませても、死を選ぶ程に拒否られたと勘違いし、プライドが崩壊する。

 薔薇の鞭を捨て、落としたスルメイカを拾って食べながら、惨めに泣きながら帰ろうとする。

 部下とか部下の遺体とか、戦っている最中の民間戦隊を放って、傷心を癒そうと帰ろうとする。

「もっと君を落とせる強力な体液を身に付けてから、再戦するからね〜〜。それまで、下の口は絶食しておけよ〜」

 アホな捨て台詞を残して、変なスキップをしながら、勝手に帰った。

 プリスレッドが自由になり、ホルカの大鎌を圧し折って、返す。

「まだ、やるか?」

「…いえ、帰ります」

「…あんな上司でも、世話するのか?」

「…ブラック企業で、嫌な上司の世話をするのが、大好物なのです」

 ホルカは、残念そうな笑顔で、応える。

 変わった性癖の新敵キャラに、プリレッドはツッコミを入れずに見送った。



暗黒寺「暫くは、団体行動厳守。三人一組で行動しよう。単独で今度の敵に出会したら、性奴隷へ一直線だぞ」

 寸止め戦隊プリティスキンは、緊急でカラオケルームに全員集合すると、新しい敵に対する方針を決めた。

 決めた途端に、飛芽が抗議する。

飛芽「新婚なので、プライベートを尊重してください」

推品「最近は、着床に拘っています。慮ってくれ」

 同伴した推品が、皆に持参した餡蜜を振る舞いながら、夜の営みを見出されまいと、無駄な抵抗をする。

暗黒寺「妊活中に、敵キャラの子種を注がれる危険を、減らしたくないのか?」

推品「分かった。飛芽、シンガポールに逃げよう」

飛芽「敵を殲滅した方が、早いに決まっているだろうが」

 脳みそまでレッドな飛芽は、旦那の気弱を一蹴する。

飛芽「一日二十分は、二人きりにさせて。それで吾輩は、我慢する」

推品「後生です。新婚夫婦は、週に八回ペースで愛し合わないと、煩悩で頭が破裂して死んでしまう」

 相手にしていられないので、暗黒寺は話を先に進める。

暗黒寺「新しい敵は、情報通だ。先手を打ちに、五人目のメンバー候補にも、手を伸ばしているかもしれない。これから全員で、保護に行く」

緑川「そして、ワタシのように、選択肢を狭めて、加入させると」

暗黒寺「そうだ」



 ライブの出番を終えた地下アイドル・黄道クリスは、狭い楽屋(個室)でマネージャーに確認を求める。

「式、見てください」

 黄道クリスが見せようとした携帯電話のメールに、紫式は眉を顰める。

「枕営業の勧誘メールは、着信拒否にするように言名しましたのに」

「そちらでは、ありません」

 黄道クリスは寸止め美少女戦隊からの勧誘メールを見せたが、紫式はその前後にあるカオスなメールの羅列に、苛々と揺らぐ。

「成金からの愛人勧誘二件に、コスプレAVの撮影四件、ラブホテルでの個撮の誘いが…十一件」

「十二件です」

 金髪碧眼で、臍出しルックが基本の露出度が多めのアイドルには、エロい勧誘が絶えない。

「着信拒否にしない、断固たる理由でも、おありでしょうや?」

 氷壁のマネージャー・紫式の慇懃無礼な追及に、暑苦しいまでに陽気な黄道クリスは、反省の色を見せない。

「受けるつもりはなくても、お仕事の依頼がたっぷりと入ったメールの受信箱を見るのは、心の栄養になります」

 二十歳でも十五歳の『あざと可愛い妹系アイドル』で通じる黄道クリスの笑顔付きセリフにも、サングラスを常備する紫式には通じない。

「こんなメールの有象無象を、心の栄養に加えてはいけません」

 紫式は勧誘メールを、寸止め美少女戦隊の分も含めて、チェックする。

 アイドルの道一直線の黄道クリスをサポートするマネージャーにとって、民間戦隊からの勧誘メールは、迷惑メールにしか映らなかった。

「寸止め美少女…名前からして、恥じらいを捨てている、アウトな民間戦隊ですね。最近、しつこいです」

「性犯罪に対抗している、かなりまともな民間戦隊と見受けましたが?」

「どの道、クリスとは交わらない存在です」

 スーツ姿に艶姿を包んだ美人マネージャーは、丁寧かつ迅速に、担当アイドルの受信箱から不必要なメールを削除していく。

「そうやって、シマパンダーからの勧誘も断るから、知名度が上がりません」

「そういう上げ方は、変なイメージが付くので、奨励できません」

「過保護です」

 紫式は、言葉を返さずに、警備用の警棒を伸ばすと、楽屋の表を窺う。

「ストーカーですか?」

「気配の消し方が上手いので、その筋の方による、威力営業妨害かもしれません」

 そう聞いて、黄道クリスも鉄扇を袖から取り出す。

 隣の楽屋から、数秒の悲鳴が聞こえた後、発情した女性の嬌声が聞こえ始める。

「お隣が襲われて、即落ちしたようです」

「お助けましょう」

 黄道クリスは、民間戦隊に勧誘されるまでもなく、こういう時に助けに行く人だ。

 アイドル衣装を脱いで普段の臍出し着に早着替えすると、マネージャーに同行を促す。

「警察に通報を」

「間に合わない」

 黄道クリスは、鉄扇で隣室への壁を切り倒した。

 付近で犯罪があると、こうして迅速に鎮圧に掛かるので、芸能界からは敬遠され、民間戦隊からは熱望されている、地下アイドルだった。


 隣の楽屋で、地下アイドルに抱き付いて唇を貪っていたカエル怪人が、乱入者に対して舌を射出する。

 ハエを捕食可能な速度の舌攻撃を、マネージャーの紫式が、素手で掴み取る。

 尋常ではない力で舌を掴まれて、カエル怪人パトラッシュは何者だって顔でスーツ姿のグラサン美女を見返す。

「マネージャーです。これから死ぬ方には、名乗りません」

 紫式は、その舌を支点にカエル怪人を引き摺り、テナントビルの玄関先に放り出した。

 火事場のクソ力ではなく、紫式にとっては、ゴミ箱を運ぶ程度の所作である。

「式が民間戦隊に行けばいいと思います」

 クリスの意見に、式はキッパリと無視で応えた。




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